鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

月に雁図小柄 園部 Sonobe Kozuka

2010-11-30 | 小柄
月に雁図小柄 園部



月に雁図小柄 無銘園部

 波に映る三日月を背景に飛翔する雁。波は端整に文様化しており三日月の表現は心象的、雁のみ高彫で冴えた金の描写。裏板を赤銅、銀、金の削継仕上げとして華やかさを装っている。大空の雁を、さらに上から見下ろしている図で、現実にはあり得ない視覚。文様表現を突き詰め、美しさを追求した江戸時代後期の作例である。

芦雁圖縁頭 後藤光舊 Goto-Mitsumoto Fuchigashira

2010-11-29 | 縁頭
芦雁圖縁頭 後藤光舊


芦雁圖縁頭 銘 後藤光舊(花押)

後藤三郎右衛門家三代光舊(みつもと・みつふる)の帰雁図縁頭。分家ながら後藤家らしい風格ある作であり、この背後にあるのは狩野派の花鳥図、さらに遡るところでは、大徳寺塔頭養徳院伝来の襖絵(室町中期)など。それら本歌である絵画と異なるのは、水の流れなどに文様的効果を求めた様子が窺えるところ。雁の姿など写実的で彫刻も巧み、動きがあって生命感に溢れているが、それだけで終わらせていないところに魅力がある。赤銅魚子地高彫金銀色絵。

帰雁図鍔 安親 Yasuchika Tsuba

2010-11-28 | 
帰雁図鐔 安親


帰雁図鐔 銘 安親

 淡彩になる墨絵を想わせる帰雁図鐔。江戸時代中期、古典的な作風から同時代の風俗まであらゆる画題に挑み、独創的な視点で彫刻表現した、以降の金工すべてに影響を与えたであろうと思われる土屋安親の作品である。
 安親は奈良派に学んで写実的な表現を基礎としたが、古典美を同時代の嗜好に適合した文様風に再現したことで興味深い存在である。重要文化財に指定されている干網千鳥透図鐔はまさに琳派の美観を基礎にした文様表現であり、似た作例が複数遺されている浜松千鳥図も古典的景観を近世風の洒落た表現としたもの。水辺に鳥の舞う様子は和歌にも採られて極めて日本的な景観を印象付ける図であり、ごくごく自然にこのような風景を好み、眺めて安心感を得るのは、日本という風土に密接にかかわるものであろう。安親は見事に独創的視野で作品化しているのである。
 鉄地を大小の石目地に仕上げ、薄肉と高肉を巧みに組み合わせて彫り出す手法。筆を走らせたような線で浮かび上がらせているのは流れる水、風に揺れる芦に小舟で、草の表現ながら高彫の手法で大空に舞う雁の群を彫りだして印象付けている。このような彫刻手法も独創的ながら、鑑賞していただきたいのは、琳派のそれとは異なる感覚で文様化された風景、空間構成である。□

源氏車に水草図縁頭 Fuchigashira

2010-11-27 | 縁頭
源氏車に水草図縁頭


源氏車に水草図縁頭 無銘

 川の流れから顔を覗かせる水草。半円は源氏車の家紋を意匠した図。牛車などの車輪を製作するに当たり、木の歪を除去する目的などから、車輪を川の水に漬け置く習慣があった。その風景を文様化したものであろうか、平安時代作の片輪車文蒔絵文箱(国宝)などが良く知られている。同図は古金工の鐔などにもあり、過去に紹介したことがある。古典的文様に取材し、洒落た感覚で表現したのがこの縁頭。作者は不詳ながら、軽やかな作風から江戸時代に好まれたものであろう。赤銅魚子地高彫金銀色絵。

八橋図鐔 加賀象嵌 Kaga Tsuba

2010-11-26 | 
八橋図鐔 加賀象嵌


八橋図鐔 無銘加賀象嵌

八橋の図は『東下り』の一場面に取材したものであり、和歌を題材に文様化が色々と為されている。肥後金工の作例と比較しても面白い。加賀金工の得意とした平象嵌を主体に、高彫を加えた作である。
江戸時代には各地に八橋写しの庭園が造られたそのような一つに取材したのかもしれない。あるいは金工個々のイメージが働いたのかもしれない。そもそも、実在の風景に見立てた庭園そのものが本来の写しであるわけだから、特に文学に登場する風景を現実の庭園に仕立てることこそ創造の産物。そこには心象的文様構成の世界観がある。

笹文図鐔 阿波正阿弥 Awa-Shoami Tsuba

2010-11-25 | 
笹文図鐔 無銘阿波正阿弥


①笹文図鐔 無銘阿波正阿弥

 ①は鉄地に笹の葉を文様風に散らした図で、阿波正阿弥派らしい出来。幅の広い熊笹であろうか、その生い茂る様子を写実ではなく文様として美しく表現している。興味深いのは、蕨手を構成し巴に透かされたもう一つの隠された図柄である。何となく跳躍している兎に見えるのだが、いかがだろうか。笹と兎の採り合せは、過去に紹介したことのある②の庄内金工の鐔にもあるように、妙味ある画題である。この二つの鐔は、構成やそれによて生まれる風合いは全く異なる世界を求めているのだが、いずれも趣深い作である。


②笹に兎図鍔 無銘庄内

扇流し図鍔 正阿弥金十郎 Shoami-Kinjuro Tsuba

2010-11-24 | 
扇流し図鍔 正阿弥金十郎


扇流し図鍔 銘 正阿弥金十郎

 以前に紹介したことのある鐔。川に投げ入れた扇がはらはらと風にのって舞い落ちる様子、そしてそれが川の水に揺られて下る様子を文様表現した図であり、京の文様文化が強く表れている作である。

地紙散し図鐔 正阿弥

2010-11-24 | 
地紙散し図鐔 正阿弥


地紙散し図鐔 無銘正阿弥

 これも屏風や障壁画を意図したものであろう、風景の描き込まれた地紙を散らした図。地紙の中に描かれた風景は古典的なそれだが、地紙を散らすという構成は、文様表現の一つ。 鉄地高彫に金銀の布目象嵌。

近江八景図鐔 京献上 Kyo-Kenjo Tsuba

2010-11-24 | 
近江八景図鐔 京献上


近江八景図鐔 無銘京献上

 文様化された風景図鐔として良く知られた、京献上と呼ばれている作。正阿弥派の鐔工と推測される工の作だが、在銘作はきわめて少ない。桃山時代の金箔仕立てになる屏風を思わせる作であり、風景に取材しながらも文様化が進んだ洛中洛外図屏風の構成手法を採っている。

白鷺図小柄 銘 廉乗 Renjo Kozuka

2010-11-23 | 小柄
白鷺図小柄 廉乗


白鷺図小柄 銘 紋廉乗光晃(花押)

 雪の積もった柳に白鷺を取材した、後藤宗家十代廉乗(れんじょう)の作。横長の画面を活かすために柳の枝を横に構成している。この構図そのものが絵画を文様風絵画に変質させている。風に揺れる枝垂た葉の描写も、様式的ながら風情がある。風景をこの小さな画面に閉じ込めなければならない装剣金工故の美空間である。

吉野桜図鍔 加賀金工 Kaga Tsuba

2010-11-22 | 
吉野桜図鐔 加賀金工


吉野桜図鐔 無銘加賀金工

 これも以前に紹介したことがある。文様化された桜樹、その構成も様式化されてはいるが、鮮烈なまでの空間美がここにある。春の吉野の山並みを遠く眺めたものであろう、その一部を切り取っただけの画面だが、とにかく美しい。

撫子図鍔 加賀金工  Kaga Tsuba

2010-11-21 | 
撫子図鐔 加賀金工


撫子図鐔 無銘加賀金工

加賀前田家は芸術文化の発展に寄与している。加賀金工の育成のために京の後藤家を招聘して技術と感性を学んでおり、それらの作例をいくつか紹介したことがある。鐙などの武具類の装飾として用いられた平象嵌も鐔の装飾に採られ、それらは極細になる線描写の技術の完成に至り、後の加賀象嵌の本質となった。今回は過去にも紹介したが、後藤家の作風の影響を受けた高彫表現になる作例を示す。
 後藤家が加賀金工に与えた美空間は加賀という一地域で隆盛したが、その一方で後の後藤宗家にも影響を与えることとなった。江戸時代の後藤宗家は、家伝の特徴的な作品を製作することは存在理由として当然ながら、時代背景から新趣の作品をも求められるようになったのであり、後藤分家として京都にあり加賀前田家にも出仕した程乗は、後に宗家九代を相続している。
 この鐔は琳派の美観を鮮明にする作例。撫子を題材にし、その可憐な花の咲く様子と舞い来た蝶を華麗に描写している。

波に月影図鍔 越前住赤尾甚兵衛作 Akao-Jinbei Tsuba

2010-11-20 | 
波に月影図鍔 越前住赤尾甚兵衛作


波に月影図鍔 銘 越前住赤尾甚兵衛作

 桃山時代の華やかな作風を基礎にし、金の鮮やかな色調を美観の要とした、江戸中期の作。鐔の全面を波文で埋め尽くし、小透かしを散らしているが、三日月形と歪んだ円形で、ゆれる水面に映る月の様子を想わせる意匠。もちろんこのような波の表面に月影が見えるわけではないが、美しく、しかも陰陽逆転した配色は印象深い。揺れるように歪んだ鐔の造形も興味深く、総体が示す空間は計算された上での表現からなる。これも文様化された風景だが、琳派に美意識と直接繋がるかは微妙な感覚のものとなろう。

鉤文図鐔 長州萩住埋忠作 Umetada-choshu Tsuba

2010-11-19 | 
鉤文図鐔 長州萩住埋忠作


鉤文図鐔 銘 長州萩住埋忠作

長州鐔工でも紹介したが、埋忠派の金工は移住した長門国においてもその特色のある作を遺している。この鐔は貝合わせを意匠の基礎としているのであろう、二ツ木瓜形に造り込み、鉤状の文様と金の布目象嵌で華麗に装っている。貝合わせは古くから伝わる貴族の遊び。ハマグリなどの二枚貝は、一体から離し分けると、似た形であっても二つと合うものがない。この一組の貝に同じ趣向の絵を描き、似たような複数の絵貝の中から対になる二枚を探すという遊戯だが、描かれている場面は源氏物語であったり、歌枕の景色であったりと、雅やかに表現されているものが好まれたようである。本作は古典的な文様で、地鉄の肌を活かした渋い色調の中に雅な香りが漂う。名作である。□

水草図大小鐔 埋忠重義 Umetada-Shigeyoshi Tsuba

2010-11-18 | 
水草図大小鐔 銘 埋忠重義



水草図大小鐔 銘 埋忠重義

 この重義も埋忠明壽の流れを汲む工だが、先に紹介した梅忠と銘する重義とは異なるようだ。埋忠派の中で重義の銘を用いた工は、複数あったようで、その関連はまだ明らかにされていない。いずれも明壽伝の文様化された風景図を得意としており、ここに紹介する大小鐔のように、特徴のある平象嵌を駆使した美しい作はその典型である。江戸時代中ごろと鑑て良いだろう、琳派の洗練を極めた構成である。□