鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

霊獣図鐔 南蛮 Nanban Tsuba

2018-11-30 | 鍔の歴史
霊獣図鐔 南蛮


霊獣図鐔 南蛮

 刃を下にして用いる太刀様式の鐔。鉄地肉彫地透の南蛮鐔は、透かしがあるために表裏同図とされることが多い。本作は山銅であろうか、古調な地鉄に古拙な魚子地を施した上に文様を薄肉に表現した、決して上手というわけではないが味わい格別の作。表裏の文様が違っている。特に霊獣の意匠が日本風でなくて面白い。普通、太刀鐔は表裏がほとんど同じ図柄とされる。この鐔はどのような太刀拵とされたものであろうか、この点についても興味の湧くところである。

達磨図鐔 金家 Kaneie Tsuba

2018-11-29 | 鍔の歴史
達磨図鐔 金家


達磨図鐔 金家

 幾度か紹介した金家の鐔である。金家は、表に主題を描き、裏には寺院などが山陰に見える山水風の風景を描くを常としている。主題が山中の風景、例えば川下りや農夫であったら山水図は関連付けられるのだが、直接結びつけられない場合でも山水が描かれることがある。単なる背景として描いているのではないのだろう。これなどは山中での修行を意味しており、表裏の関連性は分かり易い。
金家などの古作は、鉄の処理、地造り、構図、耳の処理まで、写真で紹介することの無意味さを感じてしまうものが多い。もし機会があったら、必ず掌中においてその質感も鑑賞してほしい。

石公張良に木賊刈図鐔 古金工 Ko-Kinko Tsuba

2018-11-28 | 鍔の歴史
石公張良に木賊刈図鐔 古金工


石公張良に木賊刈図鐔 古金工

 これも比較的古い鐔で、表裏の関連が全くない作。先に紹介した後藤家の鐔では、源平合戦という大きなテーマで表裏関連づけられていたが、この鐔の石公張良は古代中国の伝説、木賊刈は我が国の謡曲によって知られ、また安親が好んで描いた場面でもあり、題材の時と場所、意味も異なる。どちらも江戸時代には大変に好まれた伝説であり、室町時代よりすでに広く知られ、特に武家好みの題材であったと思われる。

源平合戦図鐔 後藤 Goto Tsuba

2018-11-27 | 鍔の歴史
源平合戦図鐔 後藤


源平合戦図鐔 後藤

 これも桃山時代の後藤家の鐔。これなどは櫃穴の形も同じであることから、表裏をあえて想定しないで製作したものと思われる。一つは宇治川の戦い、もう一方は巴御前の活躍が主題。いずれも名場面である。どうしても表裏を考えるなら、川と橋を大きくとって金の色絵を豊富に施してある方が表か。


源平合戦屋島図鐔 後藤 Goto Tsuba

2018-11-26 | 鍔の歴史
源平合戦屋島図鐔 後藤


源平合戦屋島図鐔 後藤

 桃山時代の後藤の鐔。後藤家では鐔を製作していなかったことから、後藤家の鐔は貴重である。図柄の構成から、どちらを表にしてもいい。小柄笄の櫃穴に大小の違いがあることから、弓流しの場面が表とされたのであろうが、扇の的に変えてもおかしくはない。いずれも武勲を示す場面。赤銅魚子地高彫金銀色絵。

山水に紅葉図鐔 古金工 Ko-Kinko Tsuba

2018-11-24 | 鍔の歴史
山水に紅葉図鐔 古金工


山水に紅葉図鐔 古金工

 時代の上がる、系流については分類ができない金工の作。表裏が全く異なる図。茎櫃の責鏨の痕跡で、専ら山水図を表として使用してきたようだが、紅葉図も表になる。製作時から鐔の表裏を想定していなかったと思われる。図柄は文様的であり、ここも古典。

秋草図鐔 古金工 Ko-Kinko Tsuba

2018-11-22 | 鍔の歴史
秋草図鐔 古金工


秋草図鐔 古金工

室町時代の鐔には、表裏が全く異なる図の場合もある。表裏を掛け替えて使用したものであろうか。本作は同じ菊花の意匠だが、片面は唐草に菊花。もう一方は野原の風景。いずれも文様表現になるもので、古典の代表でもある古美濃の風情とは全く異なる出来。類型多くなく、流派も分類できないのだが、室町時代の手の良い金工の作品であり、高位の武人の腰刀の装いであったと思われる。

茶花図鐔 正阿弥 Shoami Tsuba

2018-11-21 | 鍔の歴史
茶花図鐔 正阿弥


茶花図鐔 正阿弥

 時代の上がる正阿弥派の作。これも表裏が判らない。透鐔の中でもこのように左右対称の図は判らない。小柄の櫃穴を左に位置してみると、これが定位置かと納得する。鉄地肉彫地透の造り込み。鉄味頗る良く、実用鐔の魅力が横溢。尾張や金山を高く評価する人が多い風潮だが、正阿弥の優れた出来も手に取って鑑賞されたい。感動する作品が、かなりある。

菊水図鐔 古金工 Ko-Kinko Tsuba

2018-11-20 | 鍔の歴史
菊水図鐔 古金工


菊水図鐔 古金工

 古い様式の鐔で、表裏の菊の布置を微妙に違えているも、表裏の判別がつかない作例。赤銅魚子地に波に菊が漂う様子はいかにも文様的で心象的。江戸時代の金工で銘が遺されていたなら、名工に分類されるであろう出来。下の鐔は応仁から平安城象嵌と呼ばれる装飾性が高まりつつある頃の作。表裏が全く同じ。


菊図鐔 太刀師 Tachishi Tsuba

2018-11-19 | 鍔の歴史
菊図鐔 太刀師


菊図鐔 太刀師

鐔には表裏がある。太刀鐔のようにまったく同じ場合もあるが、図柄がはっきりとしている場合の一般的な鐔では、華やか、主題が描かれる、家紋など文様の数が多い、といったような表現での違いがある。また、笄を拵の表側に、小柄を裏に備えることから、正面から見た場合に笄櫃が右に位置し小柄櫃が左に位置する。茎櫃の周囲に打ち施される責め鏨が表側に施される、といった実用上の違いがあることによって表側が判明する。
写真上は古様式の太刀鐔。表裏が同じ意匠構成とされている。下は江戸時代の太刀様式の鐔。銘がこのように切られているので、打刀拵に装着したものと考えられる。文の数は表裏異なっているので、また小柄笄櫃の形状も打刀拵に添うよう設けられている。

太刀鐔 赤坂忠貞

波に車透図鐔 柳生 Yagyu Tsuba

2018-11-18 | 鍔の歴史
波に車透図鐔 柳生


波に車透図鐔 柳生

 柳生流剣術の真理の一つを表していると言われる図。剣術を理解できなければ、図柄は図柄のままで、面白いとか奇麗とか迫力があるとか、人によっては地鉄の強さが魅力とか、視覚による範囲の美観しか得られないだろう。と言って、筆者も剣術に通じているわけでもなし・・・。難しく考えずに、この心象風景に浸りきるのも鑑賞の一つか。

月に梅図縁頭 政随 Masayuki Fuchigashira

2018-11-15 | 鍔の歴史
月に梅図縁頭 政随


月に梅図縁頭 政随

 先の鐔と同じような題材の組み合わせ。ここでは月の表現が異質だ。梅は紅梅らしく、その風合いが美しく描かれている。この作品では月が強い存在感を示している。凍てつく空気感がこの月から伝わり来る。三日月がこのような見え方(欠け方)はしないだろう。いかにも絵画的で文様的で、凄味がある。

歳寒三友図鐔 Tsuba

2018-11-14 | 鍔の歴史
歳寒三友図鐔


歳寒三友図鐔

  東龍斎派の金工が得意とした心象的画面構成。特にこの耳際の表現が、景色に特別な印象を与えている。時には雲であり、霞であり、源氏絵などに描かれている雲による画面転換にも似ているが、鐔という画面を意識の中に切り取る効果を成している。本作は耳際に雲を描き、その中に見える冬の景色を表現している。梅も松も文様風で、背後に三日月の一部を描いて非現実の世界観を鮮明にしている。裏面の松も樹肌、切り株などをうっすらと浮かび上がらせており、暗闇にひっそりとたたずむその様子を表現しているのかもしれない。無銘ながら、巧みな風景の創出である。