鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

虫尽図小柄 加賀象嵌 Kaga Kozuka

2015-02-28 | 鍔の歴史
虫尽図小柄 加賀象嵌


虫尽図小柄 加賀象嵌

 夏の野を彩る虫。これ以外に描かないというのも加賀象嵌に多い。赤銅地を微細な石目地に仕上げ、金の平象嵌に毛彫。平象嵌の細い部分は0.1ミリという例もある。この作では脱落している部分があり、観察すると、意外にも浅い溝に象嵌していたようだ。



虫尽図小柄 加賀象嵌

 これも虫のみからなる図柄。緩やかな刻みを付けた面に同様の処理を施している。丁寧な処理で、保存も良いのであろう、毛彫がくっきりと残されている。

蛍図小柄 加賀象嵌 Kaga Kozuka

2015-02-26 | 鍔の歴史
蛍図小柄 加賀象嵌


蛍図小柄 加賀象嵌

 平象嵌に毛彫を加えた、加賀象嵌に特徴的な作。加賀象嵌には、このような虫を画中に採り入れて表現した作が多い。この小柄は朧銀地に金銀赤銅を加えている。色の黒い朧銀地を用いて背景を暗く表現しているのだが、蛍もまた羽は黒い。これを赤銅で描き、ぼうっと光る様子は金。絵画的な構成だが、平面的描写であるが故に文様風でもある。多くは無銘。

竹林の七賢人図鍔 桑村克久 Katsuhis

2015-02-25 | 鍔の歴史
竹林の七賢人図鍔 桑村克久


竹林の七賢人図鍔 桑村克久(花押)

 同じ克久の手になる古代中国の知識人たちを描いた鍔。この鍔における平象嵌は、さほど大きくは用いていないが、片切彫だけの作より遥かに生命感がある。確かに平象嵌を巧みとしたに違いないが、主たる技法は強い片切彫にあったようだ。

加賀萬歳図鍔 桑村克久 Katsuhisa Tsuba

2015-02-24 | 鍔の歴史
加賀萬歳図鍔 源左衛門桑村克久


加賀萬歳図鍔 源左衛門桑村克久(花押)

平象嵌に片切彫や毛彫を組み合わせた金工に桑村克久がいる。加賀金工の一人で、特に動きのある人物図を得意としたようだ。加賀金工というと、後藤家の技術を採り入れた豪壮華麗な赤銅魚子地高彫色絵手法が良く知られているところだが、平象嵌を巧みとした作品も多く遺されている。
 写真例が桑村克久による、加賀萬歳の動きのある場面に取材した作。即ち、江戸時代中期の加賀において、目出度い席で演じられた萬歳の様子が記されている、貴重な風俗的な資料というわけだ。赤銅磨地に金銀素銅の平象嵌を施し、幅広く深く彫り込むような片切彫を加え、衣服の動きを表現している。顔は薄肉彫で、これも表情が豊か。裏面は正月飾りで、大胆な構成とされている。類例が稀。



沢瀉図鐔 酒楽 Shuraku Tsuba

2015-02-23 | 鍔の歴史
沢瀉図鐔 酒楽


沢瀉図鐔 酒楽(花押)

平象嵌の手法が効果的に用いられるのは、先に紹介した目貫のような、表面に繊細な文様を施すなど、細かな処理が求められる場合と、この鐔のように平面的な文様部が追求される場合とに大きく分けられよう。この鐔では大胆な透かしで葉を描き、茎は金、葉を銀の平象嵌とし、毛彫を巧みに加えている。赤銅の漆黒を活かした構成である。

霊獣図目貫 後藤廉乗 Renjo Menuki

2015-02-21 | 鍔の歴史
霊獣図目貫 後藤廉乗


霊獣図目貫 後藤廉乗

 金無垢地を打ち出し高く彫り出した、後藤家らしい造り込みになる獅子と虎の組合せの目貫。金無垢地に他の色金を色絵することは難しい。そこで、平象嵌が用いられることとなる。また、衣服の文様など、細かな部分もシャープに表わすために平象嵌が採られることが多い。吉岡因幡介の鐔では毛彫によって縞模様が加えられていたが、この目貫では平象嵌を効果的に施している。宗家十代廉乗と極められている。

竹林に猛虎図鐔 吉岡因幡介 Inabanosuke Tsuba

2015-02-19 | 鍔の歴史
竹林に猛虎図鐔 吉岡因幡介


竹林に猛虎図鐔 吉岡因幡介

 幕府の御用を勤めた吉岡因幡介は、家紋などを高彫金色絵に表す手法を得意とし、式正の拵に適合した多くの作品を遺しているが、一方でこのような作品も生み出している。赤銅魚子地に金の色絵で竹林を描いているように見えるが、実は魚子を打つ前に金の平象嵌で竹を描き、ここに魚子地を打ち施しているのである。色絵に比較して線の際がシャープになることは容易に理解できよう。金の色合いを微妙に違えているのがわかるだろうか。虎は高彫の塑像を据紋したもの。

梅に月図小柄 河野春明 Haruaki Kozuka

2015-02-18 | 鍔の歴史
梅に月図小柄 河野春明


梅に月図小柄 河野春明

 江戸好みの洒落た風景図を得意としたのが河野春明。過去にも幾つかの作品を紹介している。それらの多くが同時代の風習や風俗を潜ませており、時代を切り取った作家という点でも興味深い存在である。この小柄は、頗る簡潔に、闇が迫りつつある頃の梅を、まさに時間帯を暗示するかのように月を描いて作品化している。背景は赤銅魚子地。高彫金銀色絵で梅を彫り描き、三日月は金の平象嵌。月は三日月のころだが丸く描かれている。日蔭になっている部分は満ち欠けと呼ばれるように暗く見えないのが普通だが、三日月の頃には、地球からの照り返しが影響して陰の部分もうっすらと見えることがある。そんな時候を表現しているのだ。陰は朧銀地の平象嵌で、背景に溶け込ませるように魚子地を施している。裏まで絵を連続させているが、裏は明るい朧銀地に金の月、色の暗い朧銀地で陰部分を表わしている。

二雅図小柄 後藤誠意 Seii Kozuka

2015-02-16 | 鍔の歴史
二雅図小柄 後藤誠意


二雅図小柄 後藤誠意(花押)

 歳寒三友と同様に、冬の寒さに耐えて雅な風情を漂わせる植物を題とした例は多い。この二雅図もその一つ。誠意は後藤清乗の門人。幕末頃を活躍期とした名人の一人。この小柄は、同時代に隆盛した一琴風の甲鋤彫と平象嵌を組み合わせた梅と、裏面に片切彫で竹を彫り表わしている。これに鶯を添え、待ち遠しい春を演出している。古い様式になる文様化された風景図は、琳派の美意識でも良く知られているが、時代が下がっては、文様化された風景図ながら、江戸好みというべきであろうか、洒落た要素が組み入れられるようになった。背景の梨子地象嵌もそのような手法の一つ。

歳寒三友図鐔 武揚住如竹 Jochiku Tsuba

2015-02-13 | 鍔の歴史
歳寒三友図鐔 武揚住如竹


歳寒三友図鐔 武揚住如竹製

 今更説明する必要はないと言われそうだが、古代中国の文人に好まれた松、梅、竹、あるいは松を水仙に代えた三つの、冬の寒さに耐えて雅な風情を漂わせる植物を歳寒三友と呼んでいる。装剣小道具にも好まれて採られる題材である。如竹のこの鐔も、茶室の風情を漂わせる文様に表現している。真鍮地に毛彫と平象嵌の組合せを主体とし、窓は鋤彫に色絵の手法。様々な色金を用いた平象嵌が美しいのだが、竹に積もった雪の表現が素晴らしい。細い線による赤銅平象嵌の葉と布目象嵌による銀の雪。特に雪の描写はぼかしを巧みにしたもので、そのふわふわ感が、きりっと立つ葉の線描によって生きているのだ。

唐草文図鐔 西垣勘四郎 Kanshiro Tsuba

2015-02-09 | 鍔の歴史
唐草文図鐔 西垣勘四郎


唐草文図鐔 西垣勘四郎

真鍮地に簡素な唐草文を赤味の強い赤銅や山銅で平象嵌した作。渋い色調が魅力である。眺めているだけでいい。線による構成だが、細かな、先端のとがった楔形の線もある。この幅は0.3ミリ前後。埋忠明壽の平象嵌でも感じられるが、時を重ねて平象嵌の表面が変質している。その表情を眺めているだけでいい。

諱信股くぐり図目貫 青木春貫 Harutsura Menuki

2015-02-07 | 鍔の歴史
諱信股くぐり図目貫 青木春貫


諱信股くぐり図目貫 青木春貫

 春貫の最高傑作。わずか一寸に満たない大きさの目貫を、これほどまでに精密に実体的に彫り出す技術と感性。拡大写真でも判るように、目玉に現れた生命観、髪の毛はもちろん微妙な皮膚感、筋肉の動きまで、巧みに表現されている。30センチもあるような置き物ではない。
この衣服の文様が平象嵌だ。幅が1ミリ以下の文様をご覧いただきたい。頗る精密であり、ここまで拡大しても十分すぎるほどに鑑賞に堪える細かさ。このような作品に接することができることは感動である。江戸時代の技術者に感謝したい。いつだったか、現代技術信奉者から、現代の精密加工技術は頗る進んでおり、この手のものは機械加工が可能だと言われたことがある。確かに歯車など計算されたものはその通りに機械が作業してくれるからできるだろうが、この微妙な抑揚を機械が創出できるわけがない。人の手が感動的な平面を生み出すのだ。


薬玉図鐔 中上元次 Mototsugu Tsuba

2015-02-06 | 鍔の歴史
薬玉図鐔 中上元次


薬玉図鐔 中上元次(花押)

 端午節句に飾られる薬玉。薬用植物を束ねてその香りを効果的に室内に漂わせた、まさに薬種の花束。端午節句には競馬やペーロンなど様々な競いことが行われたが、同時に、菖蒲湯などでも知られているように薬とも関わりのある風習が広く行き渡っていたのは、この頃に様々な薬用植物も成長しはじめるところからであろう。御簾を毛彫で品良く表わし、これに添えられているように花飾りに仕上げた薬玉と葵を平象嵌で描いている。金銀素銅と色金を多用し、雅で華麗な習俗のありようを巧みな色彩の組合せで仕上げている。中上元次は京都金工松下亭元廣の弟子。

菊花図鐔 元壽 Mototoshi Tsuba

2015-02-05 | 鍔の歴史
菊花図鐔 元壽


菊花図鐔 元壽作

 赤銅と朧銀を表裏に使い分けて下地とし、密集して咲く菊花と牡丹、これに誘われてきた蝶を鮮やかな金の平象嵌と強く切り込んだ片切彫を駆使して描き出している。片切彫がなければ平坦な画面になり、菊花も牡丹もない。片切彫があってこその表現であり、しかも巧みで立体感が生み出されるなど、絵画表現は成功している。赤銅、あるいは朧銀に金という二色のみになる表現も鮮やかである。開きかけた菊の表情がいい。蝶の周囲を強く彫り込んだ片切彫も活きている。

梅花図縁頭 一琴 Ikkin Fuchigashira

2015-02-04 | 鍔の歴史
梅花図縁頭 一琴


梅花図縁頭 一琴

 船田一琴は後藤一乗の門流。高い技術を継承しただけでなく、自らも甲鋤彫の技法を用いて独創的な画風を得意とした。枝振りなどは甲鋤彫が活かされた作だが、見どころはもちろん花びらの銀平象嵌。その中央に切りつけられている雄蕊の表情。鏨の打ち込みという手法だけだが、光を受けてきらりと光るところなど計算された工法だ。しかもわずかに金を含ませて色に変化を付けている。腐らかしによって変化の生じた背景の鉄地も、平象嵌による花びらを鮮やかに浮かび上がらせている。