鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

八橋図鐔 明光 Akimitsu Tsuba

2013-07-29 | 
八橋図鐔 明光


八橋図鐔 銘 一心斎橘明光

 赤銅魚子地高彫金銀素銅色絵の手法で、杜若の精である人物を前にした歌人を描き、謡曲に仕立てられた一場面を写実風に表現している。扇を用いて杜若を指し示しているのが花の精、盃を手にしているのが歌人。京人が東国へ赴くことは、まさに外国への旅。外国とは鬼の住むところであり、どのような危険が待ち受けているやら、まったく不案内。だが、噂で伝わりくる東国の風景には、心惹かれるものがあり、歌人としては危険を冒しても自らの眼で確認したかったのであろう。東下りの路程の一つであれば、この歌人は、東京にも地名が遺されている在原業平(業平橋など)と考えてよさそうである。

八橋図目貫 Menuki

2013-07-27 | 目貫
八橋図目貫


八橋図目貫

 「から衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ」
 かきつばたの五文字を用いて和歌を詠むよう求められた男が、都を偲んでそれに応えた歌であることは、あまりにも有名。装剣小道具には図柄として多く採られている題材。しかもかなり独創的に意匠された例に出会うことがあり、楽しい画題の一つでもある。この目貫は、杜若の咲き乱れる中を男が歩いている。その足元は橋板。

芥川(伊勢物語)図目貫 Menuki

2013-07-26 | 目貫
芥川(伊勢物語)図目貫


芥川(伊勢物語)図目貫

 家柄の異なる男女が恋に落ちた。現状では結ばれぬと思って二人は逃避行。とある闇夜のことであった。だがすぐさま追手が組織される。芦原を夜陰に紛れて歩くも女の足では知れたもの。とある小屋に身を潜めたが、遂に見つかってしまった。名流藤原家の女は連れ去られ、男は野に放たれた。女は鬼に食い殺されてしまったということにして。宮中へ上がるはずであった女が駆け落ちしたとあっては問題であったろう。
 いずれの時代においても似たような出来事が起きている。ただ、当時は鬼が存在すると考えられていたことを巧みに利用していた。女を連れ去った男は、口封じのために殺されても仕方がなかったが、この時代、人の恨みは鬼に変じて殺した者へと災禍が向けられると信じられていたことから、処罰も死刑はなかったとみてよい。
 赤銅地容彫金色絵。女を背負う男が芦原をさまよい、そのあとには松明を手にした追手が・・・。

人麻呂図目貫 Menuki

2013-07-24 | 目貫
人麻呂図目貫


柿本人麻呂図目貫

 浜辺を眺める人麻呂図の目貫を紹介する。先に紹介した目貫とは風合いを異にして引き締まった感がある。遠く眺める明石の海原だが、その風景を精巧に描き、人麻呂の顔も精巧。

柿本人麻呂図目貫 Menuki

2013-07-22 | 目貫
柿本人麻呂図目貫


柿本人麻呂図目貫

 人麻呂もまた装剣小道具の画題としては比較的多くみられる。明石の海を眺める図が多いのだが、同者を題材としたもので珍しい作に、文字を鋸で切るという心象的な表現が為されている図もある。人麻呂は歌を創る上で推敲を重ねたということを意味しているのではなかろうかと考えたが、どうだろう。この目貫は、表裏に人麻呂と明石の海原を描き分けている構成で、小柄も同様の構成ながら海原遠くというより海辺の芦原に迫る波を描いて個性的でしかも巧みに画面を創出している。


草子洗小町図小柄 Kozuka

2013-07-16 | 小柄
草子洗小町図小柄

草子洗小町図小柄

 小野小町に片思いした大友黒主が、袖にされて逆恨みするという内容が、謡曲や歌舞伎の「草子洗小町」。この小柄がその演題を描いたもので、陥れられた小町が自らの潔白を証明しようとする場面を描いたもの。赤銅魚子地は粗いが、ふっくらとした小町の顔や身体を、多彩な色絵で華やかに表現している。


歌仙貝合わせ図縁頭 Fuchigashira

2013-07-13 | 縁頭
歌仙貝合わせ図縁頭


歌仙貝合わせ図縁頭

 貝合わせとは、元来が対である二枚貝の殻それぞれに似た文様や絵を描いたもので、対となるそれらを選びだすという雅な遊び。和歌とその作者を対にしたものがある。この縁頭は、色合いに少し赤味のある赤銅魚子地を高彫にして色絵を施した作。


歌仙図目貫

 赤銅地容彫に金銀の色絵で、殊に精巧な彫口になる作品。小野小町と大友黒主を対とした作が良くみられる。


歌仙図鐔 菊池序克 Tsunekatsu Tsuba

2013-07-12 | 
歌仙図鐔 菊池序克


歌仙図鐔 銘 菊池序克(花押)

 装剣小道具に描かれることが多いのは六歌仙。『古今和歌集』の序文である「仮名序」において、紀貫之が挙げた僧正遍昭、在原業平、文屋康秀、喜撰法師、小野小町、大友黒主の六人の歌人のことで、伝承や後の創作などによって人気が高まった。紀貫之自らも伝説の多い歌人であり、「蟻通し」は謡曲にも構成されている。
この鐔は朧銀地を微細な石目地にして強弱変化のある片切彫で人物を描いている。


歌仙図鐔 銘 一貫子知真彫之
赤銅磨地毛彫平象嵌による華麗な作。

蹴鞠図小柄 Kozuka

2013-07-10 | 小柄
蹴鞠図小柄


蹴鞠図小柄

 先に紹介した梶の枝に添えられた鞠が意味しているのが、七夕の行事の一つ蹴鞠。七夕飾りに両者が採られていることでも良く知られている。我が国は、サッカー国として定着してきたが、その原動力としてこの蹴鞠があったとは、もちろん言えない。それでも蹴鞠が流行していた頃、どれほど長く地に鞠を落とさずに蹴り続けられるかという競技(リフティング)が行われたそうで、それは優雅とはほど遠い、気の遠くなる回数であったそうな。現在の我が国のサッカー選手にはその血が流れているのであろうか。・・・そんなことはないか。

蹴鞠図小柄 Kozuka

2013-07-08 | 小柄
蹴鞠図小柄


蹴鞠図小柄

 洒落た構成の作品。表は赤銅魚子地高彫色絵の手法。宙に舞い上がった鞠を描くことにより、塀の内側で行われている蹴鞠を意味している。金地に仕立てられた裏板には毛彫で蹴鞠を行う前の儀式であろう、梶の枝に添えられた鞠を持つ貴人を描いている。

織姫図小柄 廉乗光孝 Renjo Kozuka

2013-07-05 | 小柄
織姫図小柄 紋廉乗光孝


織姫図小柄 銘 紋廉乗光孝(花押)

 後藤家には牽牛織女を題に得た作が間々みられる。伝統文化を題に採ることそのものが後藤家の姿勢であったものか。この小柄は江戸時代前期の後藤廉乗の作であることを江戸後期の光孝が極めたもの。赤銅魚子地に高彫金銀色絵を加えている。後藤らしい構成と彫口になり、殊に精密な彫刻表現としている。直線で構成された機織り道具などは、線に弛みなく、器具の構造そのものが分るほど丁寧に彫られている。瑞雲を周りに描いて天上世界のこととしている。□

蹴鞠図小柄 Kozuka

2013-07-04 | 小柄
蹴鞠図小柄


蹴鞠図小柄

 中国が起源であろう、渡来して大きく様変わりした文化の一つに七夕がある。古くは乞巧奠と呼ばれている。現代で、まず目に付く笹飾りは、実は江戸時代後期に武家の婦女子の間に広がったものであり、頗る新しい文化である。天に流れる天の川を舞台に展開された織姫と牛飼の伝承は、国が違えども容易に受け入れられ、我が国にも定着している。七夕や古い時代の乞巧奠において行われた行事は伝統のものとして、後の江戸時代には七つの遊びがそこから生み出された。歌、蹴鞠、碁、揚弓、花合せ、貝合せ、香合せである。装剣小道具の画題として多くみられるのが蹴鞠。この小柄の図は、福禄寿が行う蹴鞠。広場の東南の隅に植えられた柳を背景に、巧みな構成で描いている。七福神の一として、福をもたらす神として崇められた福禄寿は、南極星の化身とも言われている。七夕、すなわち星に関わる神として題に採られたのであろう。赤銅魚子地高彫色絵。

寒山拾得豊干禅師虎図縁頭 保光 Yasumitsu Fuchigashira

2013-07-03 | 縁頭
寒山拾得豊干禅師虎図縁頭 保光


寒山拾得豊干禅師虎図縁頭 銘 保光

 この四者を描いた図も禅画として広く親しまれている。禅の重要な意味を含むとも考えられている。猛獣である虎を枕に自然体の豊干禅師。自由な詩を遺している寒山と拾得。四という数字は禅の教えに度々でてくるのだが、豊干禅師、虎、寒山、拾得の四者の四の意味するところは解釈されていない。朧銀地高彫金銀赤銅色絵。

芦葉達磨図鐔 土屋國保  Kuniyasu Tsuba

2013-07-01 | 
芦葉達磨図鐔 土屋國保


芦葉達磨図鐔 銘 土屋國保(花押)

 我が国に伝来して発展した文化の一つに禅がある。鎌倉時代の武士が盛んに採り入れたことは良く知られている。禅というと日本のもののように理解されているが、起こりは古代インドにあり、達磨によって中国に至り、後に我が国に定着した。鎌倉が世界文化遺産として評価が低かったのは、武士の都としての説明に重点が置かれていたからのように思う。武士の興隆というより、その武士が育てた禅宗が、現代に至るまでに育まれて世界的に認知され、親しまれていることに重点を置くべきではなかったか。鎌倉のあまり表に出ることのない写真を撮っている筆者としては、鎌倉が世界文化遺産になってしまうのは煩わしい。これまで通りで良いのだが・・・・。
 土屋國保は安親の流れを汲む國親の弟子。赤銅地高彫仕上げ。わずかに金色絵を加えている。