鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

鴛鴦図縁頭 石黒盛常 Moritsune Fuchigashira

2014-04-30 | 縁頭
鴛鴦図縁頭 石黒盛常


鴛鴦図縁頭 銘石黒盛常(花押)

 鴛鴦というと、冬の題として採られることが多い。ここでは夏の水草を添えて暖かな水のありようと空気感を演出している。朧銀地高彫に多彩な色金を用いた色絵と平象嵌。多彩な色金とは言うも、赤金銀銅素銅色違いの朧銀だから数種類程度。にもかかわらずこれほどまでに色彩溢れた空間を創出するのだから、金工の技術はすごい。特にこの作品では、縁に描かれている鳥の足を見てほしいのだが、水の中にあるその様子をぼかし表現で描きだしている。すごい技術だと思う。もちろん細部まで精巧で精密、的確な構成である。盛常は二代目石黒政常同人。

鷺図縁頭 春曙堂昆寛 Konkan Fuchigashira

2014-04-28 | 縁頭
鷺図縁頭 昆寛


鷺図縁頭 銘春曙堂昆寛(花押)

 岩本昆寛の手になる鳥図は比較的多く、いずれも我々を楽しませてくれる。朧銀地高彫に金銀赤銅の色絵を駆使して写実味のある空間を生み出している。鷺の姿を捉える視点も良いが、特に動きが良いことに気付くだろう。それぞれの動作の瞬間を写真のように捉えている。微妙にかしげた首の視線の先にあるのはなんだろうか、などと想像を働かせてしまう。

一路平安図鐔 後藤清明 Seimei Tsuba

2014-04-26 | 
一路平安図鐔 後藤清明


一路平安図鐔 銘政随図後藤清明(花押)

 清明は後藤清乗一門の工。小舟の舳に一羽の鷺。舟旅の安全を願った図。一羽の鷺のみで意味する場合もあるが、小舟にと組み合わせる図が、印象的である。これによって旅の日々の過ぎゆく様を暗示させている。この図柄構成は政随の作品で良く知られているが、本歌と異なるのは、素材と造り込み。この鐔は鉄地高彫に金銀象嵌。

鷺図鐔 時照 Tokiteru Tsuba

2014-04-25 | 
鷺図鐔 時照


鷺図鐔 銘時照

 これも奇異なる表現であるが、鋭さが感じられ、しかも美しい。飛翔していた鷺が川面に魚を発見したのであろう、真っ逆さまに獲物目がけて突き進んでゆくといった姿。芦の葉を鐔の下方に配しており、力強い画面構成の要素となっている。

鷺図鐔 甚吾 Jingo Tsuba

2014-04-24 | 
鷺図鐔 甚吾


鷺図鐔 無銘甚吾

 奇異と言い得る心象的表現を試みて成功したのが肥後金工志水甚吾であろう。鉄地を自由な表情に打ち鍛え、真鍮と素銅の象嵌によって水辺の鷺を表わしている。四半世紀ほど前に流行した表現でいうところの「へたうま」であろう。頗る特徴的であり、美しくもないのだが味わい深い。鉄地に真鍮の組合せが素敵だ。どちらも渋い色調であり、決して華やかではないのだが、どことなく華が感じられるのが庇護の大きな魅力。

鷺図小柄 Kozuka

2014-04-23 | 
鷺図小柄


鷺図小柄

 先に紹介した一至の鐔よりも、さらに使用されている金の量が少ない小柄だ。赤銅地を高彫にし、色金は金銀の露象嵌を散らした部分のみ。光の反射で鷺の身体は白く輝いて見えるが、そこは赤銅のみ。大空の鷺と川の浅瀬を探る鷺を対比させた構成。


鷺図鐔 竹露舎一拳 Iken Tsuba

2014-04-22 | 
鷺図鐔 竹露舎一拳

鷺図鐔 銘竹露舎一拳

 同じ一乗門流の一拳の鐔。この図は一乗が得意としており、同門の工の多くが似た構成の作品を製作している。特徴は切羽台を身体とし、即ち拵に装着した際には柄に鷺が隠れるような構成である点が面白い。鉄地高彫、水の流れは銀、水面の輝きを金の平象嵌による梨子地象嵌で表している。水草は金、芦を高彫金象嵌としている。

鷺図鐔 橋本一至 Ishi Tsuba

2014-04-21 | 
鷺図鐔 橋本一至


鷺図鐔 銘橋本一至(花押)

 ハスの葉陰に身を隠す鷺。裏面には杜若に河骨、芦の細葉であろうか、水の流れに菱の葉を添えて初夏の空気感を漂わせている。これも美しい風景を切り取った作品。微細な魚子地に仕上げた木瓜形の赤銅地を高彫にし、正確で精密な彫刻でそれぞれの素材を写実表現している。このような作品を鑑賞するにつけ、極めて少ない金属材料を巧みに用いて色彩表現に深みを与えている金工の感性はすごいと思う。使用しているのはわずか三種類の金属だが、澄明な空、漂う空気、水面の輝き、総てを感じさせるのである。

鷺図二所物 Kyo‐Goto Futatokoro

2014-04-19 | 小柄
鷺図二所物


鷺図二所物

 川の流れに蛇籠。その網目から芽を出し若葉を茂らせている芦。芦の根もとには淀みが生じ、小魚が集まりくる。美しい景色として捉えたもので、先に紹介したような一路平安の意味はないようだ。とにかく美しい構成が生み出される素材であり、絵画にも好まれて採られていた。作者は不明だが、後藤の流れを汲む京の金工の作であろう。

鷺図小柄 蟻行子長美 Nagayoshi Kozuka

2014-04-18 | 小柄
鷺図小柄 蟻行子長美


鷺図小柄 銘蟻行子長美(花押)

 川面を銀線で簡潔に、しかも情感豊かに表わし、わずかに芦の萌え出る様子を添景にして鷺の小魚を狙う姿を描いている。美しい景色であり、我が国の自然観を鮮明に浮かび上がらせていると言えよう。綺麗な川の流れは、我が国の大地を形成する大きな要素。芦原が広がって湿地を生み出し、魚が集まり、農業や漁業が成り立つ。そんな背景にまで想いが広がる作品である。長美は一宮長常の門人。

鷺図鐔 幸次 Yukitugu Tsuba

2014-04-16 | 
鷺図鐔 幸次


鷺図鐔 銘幸次六十七才丙午年孟春

 柳の下に佇む鷺。静かな時間の過ぎゆく様子が表現されている。このように、一羽だけ鷺を描いたものを、「一路平安」と呼ぶことがある。特に舟の舳に描いた作などは旅路の安全を願ったものとして好まれたようだ。穏やかな風に包まれたこの鷺のいる風景も、同様の意味を秘めているとみて良かろう。柳の下には草花が咲き、裏面には遠く広がる海原を描いている。素敵な作品である。鉄地高彫象嵌。この幸次に関しては詳しくはない。金印がある。江戸時代後期として銘鑑にあることから、弘化三年の製作か。

時鳥図小柄 政随 Masayuki Kozuka

2014-04-15 | 小柄
時鳥図小柄 政随


時鳥図小柄 銘政随

 前回の鐔でも紹介したように。定家の和歌が示す風合いとは大きく異なるのがこの小柄である。川岸に置かれているのは逆茂木。即ち戦場の印象である。描かれている時鳥は声を枯らして鳴きわたる姿であり、一際強く厳しさが感じられる。月もない。川の流れを心象的に描き、背後は石目地に省略し、逆茂木と時鳥を、何ものかの暗喩であるかのように強い存在感で表している。名品であることは間違いないのだが、この作品に隠されている意味を探り出したいものである。…とある合戦場面の背景か。

時鳥図鐔 奈良喜時 Yoshitoki Tsuba

2014-04-14 | 
時鳥図鐔 奈良喜時


時鳥図鐔 銘奈良喜時(花押)

 赤銅石目地で省略した背景に、極肉高の描法で打ち捨てられた瓦を表現、その上に飛翔する時鳥を配している。瓦の脇には歯朶(しのぶ草)が生えており、戦乱の世を経て遠い昔の栄華の時代を想わせる構成(同時に定家の古歌も想わせる)。近代における時鳥の印象は、鰹と組み合わせた初夏の風物ではあるが、かつては戦場を経巡る武士の姿に擬らえられたことがあったのではないかと想像される。

 
参考 初夏風物時鳥に鰹図目貫

時鳥図小柄 佐野道好 Michiyoshi Kozuka

2014-04-12 | 小柄
時鳥図小柄 佐野道好


時鳥図小柄 銘佐野道好(花押)

 赤銅魚子地一色を背景に月のみ金色絵の手法で、時鳥の飛翔する姿を捉えた作。頗る簡潔な表現だが、興成の小柄で古歌を紹介したように、月の存在によって、この作においても定家の和歌が背景にあることがわかる。

時鳥図小柄 一知 Kzutomo Kozuka

2014-04-11 | 小柄
時鳥図小柄 一知



時鳥図小柄 銘一知(花押)

 大森流の平象嵌の手法による梨子地象嵌を用いて流れる雲を表現し、月は銀、近景に松樹を高彫色絵で布置して時鳥の鳴きわたる様子を描いている。時鳥は血を滲ませて鳴くと言われているのだが、素銅地を用いて舌を赤色に仕上げ、その風趣を演出している。松樹は幹を描かずに下方を梨子地塗象嵌でぼかしており、総体に心象的な風景としている。