鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

粟穂に鶉図目貫 Menuki

2014-05-31 | 目貫
粟穂に鶉図目貫



粟穂に鶉図目貫

 丸々とした鶉が粟の落ち穂を啄ばむ図は、豊穣なる稔りの様子を表現したもの。暖か味のある色合い鮮やかな金無垢地を厚手に肉取りし、量感のある高彫としており、見るからに贅沢。嘴鋭く目もくっきりとし、羽根の重なる様子を綺麗に揃った毛彫で加え、さらに丁寧に細かな羽毛を描き加えて柔らか味のある肌合いを表現している。

雀図目貫 松下亭元廣 Motohiro Menuki

2014-05-21 | 目貫
雀図目貫 松下亭元廣


雀図目貫 銘 松下亭元廣

鳥瞰図などと呼ばれる視線がある。天空から見下ろした景色で、空を飛べない人間が、鳥にでもなったようなあり得ない視野を指すのだが、この目貫が、まさに小さな鳥瞰図、雀の視線でとらえた図と言っても良いだろう。刈りとられた稲がある。そこへ行っておなか一杯にしたいのだが、何やら近づけない仕組みがあるような気配。人に追われたのであろうか、あるいは空の上から人の立ち去る瞬間をまっているかのようである。だが、何とも優しい表現。金地容彫、銀朧銀素銅赤銅の置金色絵平象嵌を駆使している。

芦雁図目貫 古美濃 Komino Menuki

2014-05-20 | 目貫
芦雁図目貫 古美濃


芦雁図目貫 古美濃

 芦の構成に唐草の風合いが感じられる。光行などの作と同じ場面を捉えているのだが、ずいぶんと雰囲気が異なる。画風が違うとは絵画の表現だろうが、桃山時代以前に時代の上がる金工の中でも、特に創意高い金工が存在したことを証明するものであり、この分野の研究をしてもらいたいと願うのは私だけではないだろう。個名は見出せなくてもいい、単に古金工だとか古美濃だとかに分けず、もう少し詳しい分析と分類を試みてほしい。

月に雁図目貫 Menuki

2014-05-15 | 目貫
月に雁図目貫


月に雁図目貫

 歌川広重の月に雁図で良く知られているように、姿を現した夕月に帰雁の取り合わせは、素敵な画面構成である。落雁の呼称でも知られるように、帰巣の雁の様子は絵になる。目貫では、鶴などのように飛翔する姿が表わし易いのであろうか、ここでは雲間に月をと対比の構成としており、これはこれでまとまっている。目貫という限られた空間を活かすために月と雁を別に描いたのであろうか。

燕図目貫 渡辺一誠 Issei Menuki

2014-04-08 | 目貫
燕図目貫 渡辺一誠



燕図目貫 銘渡辺一誠作

 これも飛翔する燕のみを捉えた作。先に紹介した小柄と同様に赤銅地高彫で、金銀素銅を色絵で加えている。一誠は会津正阿弥派の出であろうか、林正光に学び、後に船田一琴の門人となっている。

親子鶏図目貫 長常 Nagatsune Menuki

2014-04-02 | 目貫
親子鶏図目貫 長常


親子鶏図目貫 銘 長常(花押)

 攻撃的な雄、恐れる雛、これを守ろうとしている雌鶏。この様子は、かつての我が国の農村では普通に見られた光景。動物の世界を借り、強弱の隙間に親子の姿を示すという関係性を表現している。似たような虎の親子を描いたもの、獅子の親子を描いたものなどがあるも、それらとは少々意味しているところが異なるようだ。朧銀地を肉感豊かに立体的に彫り出し、平象嵌、色絵を駆使し、まさに生きているように描き出している。長常の名作である。

仔犬図目貫 Menuki

2014-03-22 | 目貫
仔犬図目貫


仔犬図目貫

 誕生したばかりの子犬。ころころとした愛らしい様子が巧みに表現されている。丸々とした目玉、手足も同様に愛らしい。犬が飼い主に対して従順であることに擬えて、犬侍などの言葉があるが、実は仕官の当てがなく浪人している侍からの妬み、あるいは反幕勢からの言葉であろう。仔犬は可愛らしいのだが、成長して後にどのような姿格好になるのだろうか、楽しみでもあろう。犬は、決して悪い意味合いで描かれることはない。柄に巻き込まれているため見難いが、ご容赦願いたい。

仔犬図目貫 後藤宗乗 Sojo-Goto Menuki

2014-03-17 | 目貫
仔犬図目貫 後藤宗乗


仔犬図目貫 後藤宗乗

 やはり何かしらの器物をくわえて遊ぶ仔犬を題に得た目貫で、後藤宗乗と極められている。宗乗は室町時代の金工。現代では、この犬がくわえている鋤のような、羽箒のようなものが何を意味しているのか良く分らない。裏目貫の方は扇をおもちゃにしているようだ。首輪があり、単に遊んでいる様子というだけでなく、次第に闘犬など成長してゆく仔犬の姿が思い浮かぶ。




春蘭図目貫 久則 Hisanori Menuki

2014-03-08 | 目貫
春蘭図目貫 久則



春蘭図目貫 銘久則(花押)

春蘭
 鳥など小動物を題材にした作品が多く遺されている久則の目貫。久則は丸彫りと呼ばれるような、裏側の一部をも高彫表現するを特徴としている。目貫の裏は、柄に巻き込まれてしまうと高彫表現しても見えないことから、製作しても意味がないのである。ところが、鶏や雉子の頭部の裏側までリアルに彫刻しているのである。総体の彫刻と色絵象嵌も手が込んでおり、華やかさにおいては屈指の金工である。その手法が、この目貫でもみられる。蕾の一部が裏面でも表現されているのである。

舞鶴図目貫 菊岡光行 Mitsuyuki Menuki

2014-02-10 | 目貫
舞鶴図目貫 菊岡光行



舞鶴図目貫 銘菊岡光行(花押)

 暖か味のある濃厚な色合いの金無垢地を打ち出し強く容彫に表現した作。舞鶴図としては定型とも言い得る構成である。阿吽の相を成しているのは古典的であり、彫口は精巧、高彫に毛彫を駆使して細部まで表わしている。先の鐔にも描かれているように、鶴の飛翔する様子は後藤家にもみられる構成であり、確かに目貫などに仕立てて安定感がある。

鶴亀蓬莱図目貫 京後藤 Kyo-Goto Menuki

2014-01-28 | 目貫
鶴亀蓬莱図目貫 京後藤



鶴亀蓬莱図目貫 無銘京後藤

 お正月に飾られる蓬莱を意味する図柄。松と竹は冬でも緑を失わないことから尊ばれ、殊に松は長寿の象徴とされている。桃山時代の後藤分家の作と極められている豪壮華麗な目貫。金無垢地を打ち出してふっくらとした造り込みとしている。松に鶴は、我が国の自然観を良く映し出した組み合わせとも言える。


鶴亀蓬莱図目貫 無銘美濃

 美濃彫の特徴が良く現れた作。ふくらと打ち出し強く彫り出し、図柄の背景を透かし貫いて主題を明確にしている。明るく鮮やかな上質の金無垢地になる造り込みも華やかで正月らしい。一月も終わりころに正月の図になってしまったが、ご容赦願いたい。


競馬図目貫 石黒政常 Masatsune Menuki

2014-01-15 | 目貫
競馬図目貫 石黒政常



競馬図目貫 銘石黒政常(花押) 

 競馬と書いてくらべうまと読む。早駆けの競争には違いないのだが、端午節句に関わる行事の一つ。男の節句と言われるように、古の節句では石投げの合戦やペーロンなど競い合う行事が多い。いずれも子供が健やかに成長することを願ったもの。石黒政常は加藤直常と柳川直政に学んで横谷風の精巧な作品を製作し、殊に花鳥図で独創世界を展開したことは良く知られている。この目貫は後藤風を倣ったものだが、色絵を濃密に施す点は町彫りの極み。石黒らしい華やかな作となっている。馬の斑文を金と銀の平象嵌で表しているので、先に紹介した祐乗の笄などと比較されたい。


放馬図大小目貫 柳川直春 Naoharu Menuki

2014-01-13 | 目貫
放馬図大小目貫 柳川直春


放馬図大小目貫 銘柳川直春(花押)

 これも後藤光乗の目貫と比較鑑賞すると面白い。明らかに後藤流ではない。野を駆け巡る馬を快活に描き、古典的な阿吽の思想など微塵にも感じさせていない。そもそも目貫は表裏があることから、両者を違えて描く場合が多い。そこで陰陽、昼夜、阿吽の表現が生み出されたものであろう。そのような古典的な意識に捉われずに楽しみたい場合がある。

放馬図目貫 宗與 Soyo Menuki

2014-01-10 | 目貫
放馬図目貫 横谷宗與




放馬図目貫 銘宗與(花押)

 宗與は横谷派の三代目。宗の弟子で、後に横谷家を継いだ名工。この目貫は金無垢地を容彫に表現した華やかな作。何とも色合いと光沢が鮮やかで暖か味がある。彫刻技術も飛びぬけて優れ、横谷派が江戸金工の一つの祖流で、多くの枝流を成したのも理解できよう。先に紹介した後藤光乗の目貫と比較してみても判るのだが、明らかに後藤の作風が下地としてある。それでいてどことなく優しさが感じられ、後藤とは異なった品位も漂っている。ただし宗が小柄に描いた馬の様子とは違う。


軍馬図小柄 Kozuka

2014-01-06 | 目貫
軍馬図小柄


軍馬図小柄

 赤銅魚子地高彫金銀色絵。主のないまま競い合う様子は、その背にいるはずの人物を想像させてしまう。これも佐々木高綱と梶原景季を暗に表現したものであろうか。



武者図目貫

馬上の武者を左右に対比させた図。宇治川先陣の場面であろうか。