鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

雲龍図鐔 若芝Jakushi Tsuba

2020-06-30 | 鍔の歴史
雲龍図鐔 若芝


雲龍図鐔 若芝

 若芝もまた布目象嵌の技法を独特の描写方法で突き詰め、若芝一門の特質とした。布目象嵌とは、地面に細かな鑢目のような切り込みを施し、ここに薄い金銀の板を叩き込む手法だ。だが、若芝の布目象嵌は、表面に皺や地模様のような切り込みを設け、ここに擦り込むように金を象嵌している。甚吾のぼかしによる龍神の描写とはちょっと違って、龍は鏨を効かせた高彫で、周囲の雲をおぼろに表すことにより、龍を際立たせている。地鉄の鍛え肌をも鮮明にして、本来見えることのない空気の流動する様子(あるいは激しく波立つ海原)を表現している。


雲龍図鐔 甚吾 Jingo Tsuba

2020-06-29 | 鍔の歴史
雲龍図鐔 甚吾


雲龍図鐔 甚吾

 甚吾が得意とした図柄構成の鐔。表に龍を描き、裏に三鈷などを描く。多くが鉄地を高彫や薄肉に彫り出し、金銀の布目象嵌を加えて龍を描いている。肥後金工は布目象嵌を得意としたが、さて、龍神を布目象嵌で描く理由はどこにあるのだろう。単に正阿弥系の伝統を守っているだけだろうか。龍という実態不明の怪物を表現するには、あるいは布目象嵌を用いておぼろに描写した方が迫力があると、突き詰めたのではないだろうか。龍の身体を構成する線も、他の金工による鏨を効かせた高彫に比較して明らかに不明瞭である。


雲龍図鐔 甚吾

砂潜り龍図鐔 三宅友英 Tomohide Tsuba

2020-06-27 | 鍔の歴史
砂潜り龍図鐔 三宅友英


砂潜り龍図鐔 三宅友英

 三宅友英は肥前長崎の金工。このような作品を見ると南蛮物には影響されなかったようだ。この図は、砂原から姿を現したように見えることから砂潜り龍と呼ばれている。本来は雲間から現れた場面と考えてよいだろう。龍の背後が石目地に仕立てられているところが要点で、砂と言われれば砂であろうし、雲と言われれば雲に見える。砂潜り龍の呼称が広まって以降は、作者も砂原として意識したものであろう。そもそも雲を描写する場合、ふんわりとした、実体のないものとして感じさせる必要がある。風が必要であれば雲に流れを加えて風を表現する。

這龍図鐔 金子幸治 Yukiharu Tsuba

2020-06-26 | 鍔の歴史
這龍図鐔 金子幸治


這龍図鐔 金子幸治

 これも長州鐔工。龍神の背景を完全に透かし去って、身体を明瞭に表現している。胴体から手足出ているところなどが太く量感があり、これも力強い。鐔の形状が真円にちかいため、水晶玉の中に閉じ込められた龍神のようにも見えるところが面白い。

雲龍図鐔 長州萩住光高 Mitsutaka Tsuba

2020-06-25 | 鍔の歴史
雲龍図鐔 長州萩住光高


雲龍図鐔 長州萩住光高

 長州鐔工は南蛮風の作風だけでなく、真に迫る高彫表現も得意とし、多々印象の異なる龍の図柄を遺している。この鐔などはごくごく普通にみられる図柄構成だが、彫口が鋭く、龍の表情はもちろんだが、流れる雲も迫力がある。


雲龍図鐔 長陽萩茂常

 これも雲龍図。地を透かして印象深い図柄としている。

対龍図大小鐔 長門萩住久次 Hisatsugu Tsuba

2020-06-24 | 鍔の歴史
対龍図大小鐔 長門萩住久次


対龍図大小鐔 長門萩住久次

 南蛮鐔の典型。長州鐔工が南蛮鐔を製作していることは、驚くことではない。江戸時代における南蛮鐔の流行は、現在考えているより遥かに大きかった。それを証するように、数多くの南蛮鐔が現存している。いずれも無銘であることから南蛮と汎称されてしまうが、こうして在銘作があると、うれしい。他の有銘鐔工も製作しているだろうと想像する。長州鐔工は龍の図を得意とした。

対龍図鐔 肥前 Hizen Tsuba

2020-06-23 | 鍔の歴史
対龍図鐔 肥前


対龍図鐔 肥前

 西洋文化の影響を受けた南蛮鐔がある。西洋そのものというわけでもなく、西洋文化の通過地である中国の影響も受けているのが面白い。もちろん南蛮鐔といえども南蛮で製作されたのではなく、我が国内において意匠されたものである。江戸時代に西洋に開かれていたのは肥前の長崎。肥前の金工で多分に影響を受けているのは國重(下写真)で、以前にも紹介したことがある。波に対龍図が多い。上の写真は無銘で肥前の金工。表が奇抜な対龍で、裏は梅に椿であろうか、この採り合わせが面白い。

雲龍図鐔 仙台金工 清定 Kiyosada Tsuba

2020-06-22 | 鍔の歴史
雲龍図鐔 仙台金工 清定


雲龍図鐔 仙台金工 清定

 仙台金工草刈清定の得意とした、金線象嵌と平象嵌による龍神。下地は赤銅の石目地で、石目地にも様々な手法があってみどころ。その表面を平滑に仕上げ、平象嵌は象嵌部分がわずかに高い特徴がみられ、線象嵌も細く繊細。失火奥の赤銅地にくっきりと際立つ表現である。2点紹介しているが、いずれも龍神を描いている部分の地金は、表面がふっくらと丸みを持たせてある。下の鐔は雲の表現も異質。虫食い状に鋤き込んだ描法と、ごく細の金線象嵌。特に金線象嵌は微妙に線の太さの調子を違えている。


龍神図大小鐔 友善 Tomoyoshi Tsuba

2020-06-20 | 鍔の歴史
龍神図大小鐔 友善




龍神図大小鐔 友善

 以前にも紹介したことがあるも、大だけであったり、表だけであったりと、不完全な紹介の仕方であるとの指摘をいただいたので、改めて大小の表裏を紹介する。この金工の描写力は説明する必要はないだろう。

波龍図鐔 長吉 Nagayoshi Tsuba

2020-06-20 | 鍔の歴史
波龍図鐔 長吉


波龍図鐔 長吉

 鉄地真鍮象嵌という平安城象嵌の手法からなる作。地文は毛彫とその所々に象嵌した細い真鍮による渦巻く波。波頭も真鍮で表し、龍神に伴う火炎は素銅の象嵌。目玉が銀象嵌で異風。この鐔の面白さは、古調な意匠と龍神の身体に刻されている毛彫。子細に観察すると鱗などの彫口は細い鏨を走られている様子がわかる。真鍮は金と異なる渋い風合いを呈している。次第に綺麗な描写が好まれるようになってゆく過程で、古風を求めた鐔工の独自性が窺えるのである。

龍図環頭太刀金具 古墳時代 Kantotachikanagu

2020-06-18 | 鍔の歴史
環頭太刀金具 古墳時代


環頭太刀金具 古墳時代

 江戸時代から一気に時代を遡る。鐔ではないし、武士の時代とはかけ離れているのだが、古墳時代まで遡る龍の図柄の意匠を紹介する。直刀の柄頭に装着された飾りで、透かし鐔のように肉彫地透の手法で対龍が構成されている。これを龍と断じ得るか。後の装剣小道具にはこれに似た龍文が施されているものがままみられるので、龍で良いだろう。しかも龍の接している部分には珠が描かれており、龍神と珠の関係性が示されている。地は銅に金の色絵で、これを金銅と呼ぶ。

剣巻龍図二所物 柳川直光 Naomitsu Kozuka

2020-06-17 | 鍔の歴史
剣巻龍図二所物 柳川直光


剣巻龍図二所物 柳川直光

 直光は町彫金工だが、正確な構図と精密で精巧な彫刻技術を持つ名人の一人。後藤の作風に倣い、後藤に負けない出来に仕上げている。注文があったのか、後藤に負けぬという気持ちで創作したものか。赤銅魚子地に金を打ち出して高彫した龍神を据紋している。


刀剣類の更新の希望が多くありましたので、すこしずつですが出してゆきます。
併せてごらんください。
《刀剣鑑賞の基礎》 https://blog.goo.ne.jp/nihontokansho

龍神図小柄 後藤 Goto Kozuka

2020-06-17 | 鍔の歴史
龍神図小柄 後藤


龍神図小柄 後藤

江戸時代中頃の後藤家の龍。誰とも極められないのだが、小柄の小さな画面に押し合うように彫り描かれている。このような構成も迫力があって好まれたようだが、それほど多くはない。後藤というと、中央に這龍か剣巻龍があって静かな存在感を示している構成が最も好まれていたようだ。

雨龍図小柄 後藤即乗 Sokujo Kozuka

2020-06-16 | 鍔の歴史
雨龍図小柄 後藤即乗


雨龍図小柄 後藤即乗

 宗家八代即乗と極められた作。後藤らしからぬ作風。後藤というと、鱗がくっきりと立って鰭や手足の爪が鋭く宙を掻くような、そして大きく口を開いて、ちょっと下を出している姿格好を思い浮かべるが、このような龍もあるということ。


刀剣類の更新の希望が多くありましたので、すこしずつですが出してゆきます。
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