鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

仔犬図笄 古後藤 Goto Kogai

2014-03-15 | 
仔犬図笄 古後藤



仔犬図笄 古後藤

 アワビの貝殻であろうか、紐を付けたその貝殻をくわえて遊ぶ仔犬。良く見かける図柄だが、伝統的な何かを意味しているのか、単に遊んでいる姿として捉えたものか良く分らない。仔犬の快活な様子が古風な彫口で表されている。赤銅魚子地に据紋した工法だが、裏面にからくり止めしている様子が現れており、時代の上がる工法の一つであることが窺え、作品の面白さに加えて技術面でも楽しめるものである。

二疋馬図笄 後藤祐乗 Yujo Kougai

2013-12-16 | 
二疋馬図笄 後藤祐乗




二疋馬図笄 後藤祐乗

 後藤宗家初代祐乗の作であることを、同十二代光理が極めた笄。高彫に金色絵と平象嵌を加えている。平象嵌の一部が抜け落ちており、その処理の方法など、技術的情報が窺いとれる作でもある。金の斑文のある馬は大地を強く蹴っており、背後の馬は前足を前方に強く突き出している。互いの視線が一になっているのは古典にある阿吽の相。

蜘蛛図笄 後藤乗真 Joshin Kougai

2013-09-26 | 
蜘蛛図笄 後藤乗真



蜘蛛図笄 無銘後藤乗真

 後藤宗家三代乗真の作と極められた、葉を利用して川を下る蜘蛛を表現した笄。蜘蛛は智恵のある虫と考えられて好まれており、図に採られた例も多い。波は象徴的な表現であり、古金工の鐔で見たように文様的な描法。この図における水は大きな意味を持つも、主題はこれらを利用する蜘蛛に他ならない。表現は簡潔であり、しかも図の本意が伝わらねば意味がない。

波に芦図笄 古金工 Kokinko Kogai

2013-09-25 | 
波に芦図笄 古金工



波に芦図笄 古金工

 荒れ狂う川面を表現したものであろう、大地に根を張る芦も流されまいとしているようだ。崩れ落ちる波は川瀬の岩にぶつかって飛び散っている様子であろうか異風で面白い。その下には細い毛彫で渦巻き状に波が描かれている。いずれも高彫で、金色絵の痕跡が残されている。背景は魚子地であり、これらの図の中での波は主題の一つ、大きな意味を持つものである。単なる荒れた川瀬の風景を捉えたものではなく、強い意味が背景に隠されている。

黄石公と張良図笄 Kougai

2013-04-03 | 
黄石公と張良図笄


黄石公と張良図笄

 人に会う場合には必ず先に来て待つように忠告される。もちろんただ待っているのではなく、相手を知ること、相手を観察することから戦いが始まるのである。この図は我が国では能として演出された背景もあろう、装剣小道具の図としては比較的多い。
 劉邦が項羽に先んじて咸陽を陥落させた際、函谷関において足止めを食わされた項羽は、劉邦に出し抜かれたと考え、その後に両者の会談が設けられた鴻門において劉邦を殺そうとする。張良は事前に察知した樊噲(はんかい)らとともに会談の場に突入して劉邦を先に逃した後、劉邦の行動を釈明して事なきを得る。有名な鴻門の会であり、樊噲(はんかい)も図にとられることが多いので後に紹介する。

樋定規に五三桐紋図笄 古後藤 Ko-Goto Kougai

2012-10-06 | 
鐔の歴史 古後藤




樋定規に五三桐紋図笄 古後藤

 細い樋定規に小さな桐紋を組み合わせた、引き締まった景観の美しい作。赤銅魚子地は古風で、桐紋も同様に古色に溢れている。古い作品というのは、この例のように稚拙な作行ながら味わい深いところに妙趣が感じられるもの。□
 後藤家というと、初代が祐乗、二代が宗乗、三代乗真、四代光乗と続く。子が分家して別家を立てたことも良く知られている。別後藤である。後藤喜兵衛家は乗真の次男が宗家となっている。後藤理兵衛家は五代徳乗の次男(顕乗正継)が宗家。後藤源兵衛家も徳乗の五男が別家を興した。時代的にはこれらの分家の金工も桃山頃を活躍期としている者があり、古後藤の範疇に含められるはずであるが、この点もあまり研究されていないのが現実。何だ別後藤か、などと見下す方もおられるようだが、実はけっこう上手の工があり、甘く見ないでほしい。作品本位で楽しむことをおすすめする。



芹籠図二所 後藤徳乗 Tokujo-Goto Hutatokoromono

2012-06-19 | 
芹籠図二所 (鍔の歴史)



芹籠図二所 無銘後藤徳乗

 後藤光孝による極め折紙が附帯する作。何て繊細で上品な作であろうか。あきらかに武家の風習ではなく貴族的であり、早春の野に遊ぶ七草摘みの行事を想わせる。恐らく同作の目貫があり、綺麗な拵とされていたはず。このような金具を用いて洒落た拵を造ってみたいものである。

八艘飛義経図笄 後藤廉乗 Renjo-Goto Kougai

2011-04-21 | 
八艘飛義経図笄 後藤廉乗


八艘飛義経図笄 銘 紋廉乗光美(花押)

 扇の的図小柄と二所物とされた笄。屋島を逃れて瀬戸内を西に進み、彦島を拠点とした平家にとって、ここが最後の砦であった。すでに九州は源範頼が制覇していた。壇ノ浦の決戦の場である。ここでも戒めを秘めた多くの物語が生み出されている。
舟から舟へと飛び移る武者のこの図も、弓流し図に関連して義経の身軽さが主題とされている。弓流しではその負の要素が主題を成すが、ここでは義経の姿が華々しいほどに浮かび上がる。
 追うのは平教経。正にライバルとして執拗に義経に迫ったその姿が義経と対比されて描かれている。


八艘飛義経図小柄 無銘

箙の梅図鐔 Tsuba

2011-04-04 | 
箙の梅図鐔


箙の梅図鐔 無銘

 小柄では箙に挿された梅の様子は判り難いのだが、鐔の大きさであれば雰囲気も伝わりくる。兜を捨て去った景季の背後には梅の花が咲き乱れている。
 作者不明だが、綺麗な赤銅魚子地に高彫色絵表現。


老梅図笄 古金工

2011-02-04 | 
老梅図笄 古金工


老梅図笄 無銘 古金工

 まさに古笄という印象が漂う作。地を這うような幹、枝振り、花などにも精巧味がなく、時代の上がる魅力横溢の作である。戦国時代の実用品といった風情があり、恐らく戦場を経巡った武将の腰に収められていたものであろう。もちろん高位の武将の持ち物には金が多用されて綺麗な例もあるが、多くはこのような質素なものであり、ほとんどが道具として消費されてしまったと考えられる。戦国時代の実用笄で、比較的状態良く残されている例である。□

梅花に千鳥文図笄 古金工 Kokinko Kogai

2011-02-04 | 
梅花に千鳥文図笄 古金工




梅花に千鳥文図笄 無銘 古金工

 南北朝時代まで遡ると推定される古笄。耳の形をご覧いただきたいのだが、逆に造り込まれている。古い笄に間々みられる特徴の一つでもある。この逆耳こそ笄の原点であるとみる研究者もある。素銅地に毛彫で千鳥を描き、八重の白梅を一つだけ添えている。なだらかな姿態、柔らか味のある表面、文様もすべてが簡潔で美しい。箱根神社には、同趣の金具が使用された曽我五郎所持と伝えられる腰刀が伝来している。□

巌上猛禽図小柄 蟠龍軒岩本貞仲

2011-01-22 | 
巌上猛禽図小柄 蟠龍軒岩本貞仲



巌上猛禽図小柄 銘 蟠龍軒岩本貞仲(花押)

 岩本貞仲(さだなか)は一宮長常の門人。正確で精巧な彫刻手法を駆使し、人物図やこのような自然の一場面を題に写実表現している。激しく打ち付ける荒波。巌上に爪を突き立てて辺りを見回す鋭い視線の先には何があるのだろうか。巌にはうっすらと雪が積もっている。鏨を強く切り込んだ高彫表現に力が感じられる。雪の描写は古風である。鉄地高彫金銀象嵌。□

文透図鐔 埋忠 Umetada

2011-01-16 | 
文透図鐔 埋忠


文透図鐔 無銘 埋忠

 分銅形の文様が散りばめられていることから分銅文透かしと称されているが、筆者は雪を文様表現した作であると信じている。雪の結晶形は、六角形薄板状を基本として、樹枝状に六方に伸びた造形が良く知られているところだが、現実にはもっと複雑である、六角柱状、その端部に六角形の広がる形、さらにその両端が30度ずれていることから見方によっては十二方樹枝状となるもの、樹枝が壊れて細かな針状、ラッパのように見える形、結晶のはっきりとしない粒状のものなどなど。すなわち、この鐔に描かれている文様のようなものである。
 素銅地の櫃穴周囲を八方星型に鋤き下げ、小透でラッパ状に文様を施し、それらの隙間に金と赤銅で細かくキラキラとした様子を散らしている。製作は江戸時代前中期であろう。

芦図笄 古金工 Kokinko Kougai

2010-10-18 | 
芦図笄 古金工 桃山初期


① 杜若図目貫 古金工 桃山頃



② 芦図笄 古金工 桃山初期


③ 蛇籠図小柄 古後藤 室町後期

 出雲神社蔵鎌倉時代の秋野蒔絵手箱、東京国立博物館蔵室町時代の塩山蒔絵硯箱など、図柄を鑑賞するのみであれば琳派の風合いに重なる例が既にある。
 ①は杜若と、その華やかに咲く川辺に流されてきた倒木。②は川の流れに耐え切れず、芦が横たわっている風景。③は水辺の蛇籠図小柄。この組み合わせはいずれも、長雨の季節の風物、言わば水害を思わせる題材。このような場面を美にまで高めてしまった感性を楽しみたい。①は宗達の影響を否定できないが時代はその前後、②と③は宗達以前の作である。大胆な画風から宗達の淡墨絵や尾形光琳の八橋蒔絵硯箱を思い浮かべてしまったが、いかがであろうか。いずれも赤銅地高彫に金の色絵。殊に③の古後藤の小柄は風景の文様化に独趣があり、戦国乱世に突入してゆく時代において、武家が刀に備えねばならない小道具の文様としてこれを採った理由に大きな興味が湧く。