鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

秋海棠図鐔 平田 Hirata Tsuba

2015-03-20 | 鍔の歴史
秋海棠図鐔 平田


秋海棠図鐔 平田

平面的な描法は平象嵌だけではない。平田七宝の作風を過去に紹介したことがある。彫り込んだ地面に文様に沿ってガラス質からなる色合いの美しい物質を象嵌する。技法としては溶融したガラス質物質を流し込んで固着するところから始まったが、後には別造りした文様を嵌め込むという手法が採られた。秋海棠(日本産ベゴニア)図のこの鐔については、技法までは判断できない。金線で文様を縁取っていることから、別造の各部を嵌め込んだのかもしれないし、一部に金線が見えないところがあるので、地面に直接流し込んだのかもしれない。現状での判断は不可能。こうした技術的な問題が作品に大きな興味を与えることになる。この鐔も、グラデーションの付いた七宝を多用している。拡大観察してみると、七宝の持ち味が判る。表面に生じている微細な穴が独特の質感を生み出している。金線が、強く弱くと連続しているのも美観に繋がっている。七宝のすべてが平面的描法とは限らない。ふっくらと量感のあるものもある。本作の場合には平面描写が活かされていると言えよう。



宝尽文図鐔 加賀象嵌 Kaga Tsuba

2015-03-18 | 鍔の歴史
宝尽文図鐔 加賀象嵌


宝尽文図鐔 加賀象嵌

 宝尽は、古くからある文様だが、鍵や宝珠など分り易いものから隠れ蓑などまで様々な事物の文様の組合せからなるものが多い。この鐔では、それらを高彫色絵で処理している。表面に、びんざさらと呼ばれる薄い板を束ねたような器物を描いている。びんざさらは楽器の一つ。その華麗に装飾された、「飾りびんざさら」を構成したものと思われる。それぞれの薄板には様々な文様が描かれている。それも宝物として捉えているのであろう。いずれも高彫に平象嵌と色絵を組み合わせた手法。

 最近、日本刀に関しての出版ブームだ。十年近く前に学研から「日本刀大全」が出てヒットした。それを下敷きとした軽い雑誌が昨年宝島社から発行され、10万部を超えるヒットとなった。今年また、その2弾が発行され、2匹目のドジョウは?と思ったが、これも連続ヒット、合わせて30万部に近づいたとか超えたとか、とにかく凄い勢い。これに乗じて歴史関連の雑誌社から、昨年も複数の刀剣関連のムックが出て、いずれも好評だという。今年も、さらに多くの出版社から日本刀関連の出版物が企画されているという。大変ありがたいことだが、それらの多くから、日本刀の写真を借りたいと問い合わせが続いている。貸し出すのは難しくはないのだが、それをセレクトして解説してとなると、容易ではない。するとそこで、このブログに手が回らなくなってくる。
ブログはなるべく欠かさないようにと考えてきましたが、しばらく、飛び飛びで作品を紹介することになるでしょう。ごめんなさい。でも、飛び飛びでも続けます。




ユキノシタ図鐔 加賀象嵌 Kaga Tsuba

2015-03-16 | 鍔の歴史
ユキノシタ図鐔 加賀象嵌


ユキノシタ図鐔 加賀象嵌

 日蔭の湿ったところにひっそりと花を咲かせるユキノシタや大文字草。その華奢で繊細な花の様子を平象嵌で表現している。赤銅地に金の平象嵌を加え、葉の表面にある細かな毛の様子は、葉脈と共に質感として微細な点刻で表している。線描に平象嵌、色の濃い朧銀地での平象嵌と様子を違え、金の一部に光沢の強い真っ白な金属を散しているのが新しい。この部分が変色していないので、金のように腐食しない金属を用いたと推考される。分析していないので不明だが、頗る面白い。何と言っても図柄がいいのだ。

文散し図鐔 加賀象嵌

2015-03-14 | 鍔の歴史
文散し図鐔 加賀象嵌


文散し図鐔 加賀象嵌

 とにかく華やかな作。着物などにも採られている文様を鐔に転じたもので、片面は虫尽し。櫃穴を松葉菱に仕上げており、ここにも美観が窺える。丸文は、有職文様風で品位高くしかも美しい。普通、鐔にこのような文様を展開しようとは思わないだろうが、江戸時代後期には、華麗に過ぎるとも言える作もある。これを備えた拵は特殊であったろう。背景の唐草文にも動きと新鮮味がある。

紅葉鹿図鐔 加賀象嵌 Kaga Tsuba

2015-03-13 | 鍔の歴史
紅葉鹿図鐔 加賀象嵌


紅葉鹿図鐔 加賀象嵌

 過去に幾度か紹介したことがある。背景は赤銅地に微細な石目地だが、これに加えて石目地で霧の立ち込めた林の風景を描き表わしているのだ。凄い。鹿は高彫金平象嵌で斑文を表わしている。色づいた紅葉は金、色違いの金、赤銅磨地、色を違えた素銅と、多彩な色金を組み合わせた平象嵌。これもすごい。高い技術と感性が窺える作である。

水辺図小柄 加賀象嵌 Kaga Kozuka

2015-03-12 | 鍔の歴史
水辺図小柄 加賀象嵌


水辺図小柄 加賀象嵌

 これも湖水の船着き場に取材したものであろう、人物に薪を添え描いて、市井にみられるごくごく普通の景色を眺めた絵画のようだが、平象嵌という手法であるため平面的描写を採らざるを得ず、それ故にかえって新鮮味のある風景画となっている。しかも美しい。湖水を朧銀地、大地を赤銅とし、金を活かす構成としている。虫だけではないぞという加賀金工の強い主張が感じられる。


水辺図小柄 加賀象嵌 Kaga Kozuka

2015-03-11 | 鍔の歴史
水辺図小柄 加賀象嵌


水辺図小柄 加賀象嵌

 山水図を手本としたものであろうか、水辺の風景を文様表現している。波立つ様子は海辺にも感じられるが、裏面から湖水に取材したと推考する。琵琶湖など広々とした湖を俯瞰したものであろう。朧銀地を微細な石目地に仕上げ、赤銅、金、銀、素銅と、多彩な色金を平象嵌し、毛彫を加えている。加賀象嵌の典型で美しい。舟の上や浜辺を歩く人間などは1ミリほどの大きさだからすごい。数多ある山水図だが、加賀の手法を採ると、こうなるものかと改めて興味も深まる。

八橋図鐔 加賀象嵌 Kaga Tsuba

2015-03-10 | 鍔の歴史
八橋図鐔 加賀象嵌


八橋図鐔 加賀象嵌

 素銅地に平象嵌と高彫色絵を組み合わせた手法。裏に烏帽子を描いているところから、謡曲の『八橋』に取材したものと思われる。杜若の名所として知られる八橋を、文様的な展開を見せている点が面白い。桑村克久でも紹介したように、加賀の平象嵌金工であっても高彫は得意とした。架け橋の板の描写も様々に違えて作者も楽しんでいるようだ。杜若の陰陽の表現が素敵だ。

虫蟹図鐔 加賀象嵌 Kaga Tsuba

2015-03-09 | 鍔の歴史
虫蟹図鐔 加賀象嵌


虫蟹図鐔 加賀象嵌

 表は平象嵌毛彫、裏は高彫象嵌金色絵の手法。表は『源氏物語』に取材したことは想像できるのだが、これに蟹の採り合わせはいかなる意味があるのだろうか。考えているだけでも楽しい。図柄の背後には絵画があるのだが水の流れなどに様式化と文様化がみられ、明らかに琳派の美観を備えている。加賀の文化の指向性は、京文化の移入に他ならず、多重層が感じられてこの点でも面白い。

蟷螂図鐔 加賀象嵌 Kaga Tsuba

2015-03-07 | 鍔の歴史
蟷螂図鐔 加賀象嵌


蟷螂図鐔 加賀象嵌

 蟷螂は自らの身体よりはるかに大きな相手にも鎌を向ける。その行動に憧れたものであろう、装剣小道具に題として採られた例は多い。ここで描かれているのは蟷螂のみ。簡潔な構成であり、綺麗だ。鐔の造り込みに特徴がある、切羽台から平地にかけてなだらかに傾斜しているのだ。加賀象嵌鐔に多く見られる形態である。もう一つ、加賀象嵌の仕上げの特徴として、地面が微細な石目地に仕上げられているのは、平象嵌を明瞭に見せるための工夫と言えよう。長くのびた触覚と手足の先端の爪の、なんと繊細なことか。

秋草に虫図小柄 加賀象嵌 Kaga Kozuka

2015-03-06 | 鍔の歴史
秋草に虫図小柄 加賀象嵌


秋草に虫図小柄 加賀象嵌

加賀金工隆盛の背景には、加賀前田家の徳川幕府を睨んだ上での治世という理由があったのは良く知られているところ。ではどこからその技術が採り入れられたのであろうか。良く言われるのは、鐙師の象嵌技術と、その文様の平面表現。だが、装剣小道具の作風を眺めても、鐙師の美観とはずいぶん開きがあるように思われる。この点、もう少し深く研究してくれる方が出てほしい。写真は秋草に虫の採り合わせ。色金(いろがね)を多種類用いているところが新しい。

虫尽図小柄 加賀象嵌 Kaga Kozuka

2015-03-05 | 鍔の歴史
虫尽図小柄 加賀象嵌


虫尽図小柄 加賀象嵌

 しばらく虫の図が続くだろう。飽きずに見てほしい。秋草や虫は、我が国の古典文学である『源氏物語』に取材したもの。その文様表現に他ならず、秋草や虫と一緒に描かれた例と言えば、庭に面した御簾など雅な事物。この小柄は、表を朧銀地と赤銅地の削継とし、繊細な平象嵌毛彫で虫を描き、さらに裏面まで華やか。朧銀地に金の割継で、色合い鮮やか。ここにも加賀の華やかさが示されている。