鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

鵜飼図小柄 堀江興成  Okinari Kozuka

2014-05-07 | 小柄
鵜飼図小柄 堀江興成


鵜飼図小柄 銘堀江興成

花鳥十二ヶ月図揃い小柄から六月 

花…常夏
おほかたの日影にいとふみな月の
 空さえをしきとこなつの花

鳥…鵜
みじか夜のう河にのぼるかがり火の
 はやくすぎ行くみな月の空

 これも水辺の風景。自然の中の鳥の姿や人里に紛れ込んだ鳥を捉えたものではなく、飼われた鵜、その操られている様子。人の姿を描かず、篝火のみを添えて状況を演出している。岸辺には真夏の野を彩る、常夏とも呼ばれる撫子。

水鶏図小柄 堀江興成 Okinari Kozuka

2014-05-02 | 小柄
水鶏図小柄 堀江興成


水鶏図小柄 銘堀江興成

花鳥十二ヶ月図揃い小柄から五月 

花…橘
郭公なくやさ月のやどがほに
 かならず匂う軒のたちばな

鳥…水鶏
まきの戸をたたくくひなの朝ぼのに
 人やあやめの軒のうつりが

 描かれているのは菖蒲咲く水辺の水鶏(くいな)の小魚を追う場面。水鶏の鳴き声はコンコンと戸を叩くように聞こえることから、待ち人の到来を思わせる罪なやつ、といったところか、しかも菖蒲の香りも漂わせて。

鷺図二所物 Kyo‐Goto Futatokoro

2014-04-19 | 小柄
鷺図二所物


鷺図二所物

 川の流れに蛇籠。その網目から芽を出し若葉を茂らせている芦。芦の根もとには淀みが生じ、小魚が集まりくる。美しい景色として捉えたもので、先に紹介したような一路平安の意味はないようだ。とにかく美しい構成が生み出される素材であり、絵画にも好まれて採られていた。作者は不明だが、後藤の流れを汲む京の金工の作であろう。

鷺図小柄 蟻行子長美 Nagayoshi Kozuka

2014-04-18 | 小柄
鷺図小柄 蟻行子長美


鷺図小柄 銘蟻行子長美(花押)

 川面を銀線で簡潔に、しかも情感豊かに表わし、わずかに芦の萌え出る様子を添景にして鷺の小魚を狙う姿を描いている。美しい景色であり、我が国の自然観を鮮明に浮かび上がらせていると言えよう。綺麗な川の流れは、我が国の大地を形成する大きな要素。芦原が広がって湿地を生み出し、魚が集まり、農業や漁業が成り立つ。そんな背景にまで想いが広がる作品である。長美は一宮長常の門人。

時鳥図小柄 政随 Masayuki Kozuka

2014-04-15 | 小柄
時鳥図小柄 政随


時鳥図小柄 銘政随

 前回の鐔でも紹介したように。定家の和歌が示す風合いとは大きく異なるのがこの小柄である。川岸に置かれているのは逆茂木。即ち戦場の印象である。描かれている時鳥は声を枯らして鳴きわたる姿であり、一際強く厳しさが感じられる。月もない。川の流れを心象的に描き、背後は石目地に省略し、逆茂木と時鳥を、何ものかの暗喩であるかのように強い存在感で表している。名品であることは間違いないのだが、この作品に隠されている意味を探り出したいものである。…とある合戦場面の背景か。

時鳥図小柄 佐野道好 Michiyoshi Kozuka

2014-04-12 | 小柄
時鳥図小柄 佐野道好


時鳥図小柄 銘佐野道好(花押)

 赤銅魚子地一色を背景に月のみ金色絵の手法で、時鳥の飛翔する姿を捉えた作。頗る簡潔な表現だが、興成の小柄で古歌を紹介したように、月の存在によって、この作においても定家の和歌が背景にあることがわかる。

時鳥図小柄 一知 Kzutomo Kozuka

2014-04-11 | 小柄
時鳥図小柄 一知



時鳥図小柄 銘一知(花押)

 大森流の平象嵌の手法による梨子地象嵌を用いて流れる雲を表現し、月は銀、近景に松樹を高彫色絵で布置して時鳥の鳴きわたる様子を描いている。時鳥は血を滲ませて鳴くと言われているのだが、素銅地を用いて舌を赤色に仕上げ、その風趣を演出している。松樹は幹を描かずに下方を梨子地塗象嵌でぼかしており、総体に心象的な風景としている。

卯花に郭公図小柄 堀江興成 Okinari Kozuka

2014-04-09 | 小柄
卯花に郭公図小柄 銘堀江興成



卯花に郭公

花…卯花
白妙の衣ほすてふ夏のきて
 かきねもたわにさける卯花

鳥…郭公
郭公しのぶの里にさとなれよ
 まだ卯の花のさ月待つ比

 卯花は桜や山吹のあとに咲くウツギのこと。木陰に独特の白っぽい花を咲かせる。郭公は時鳥のことで、装剣小道具には比較的多く採られている。季節の妙を示す組合せである。時鳥は凄絶な印象を持つ鳥である。この場面は夕暮れ時であろう、声を枯らせて鳴きわたる時鳥の背後に、暮れてもなお木陰に存在感を示す卯花が印象的。

燕図小柄 春茂 Harushige Kozuka

2014-04-07 | 小柄
燕図小柄 春茂



燕図小柄 銘春茂(花押)

 燕のみを捉えた作。赤銅魚子地高彫金銀素銅色絵。燕の翼は黒で、背景の赤銅魚子地とは同じ色調だが、高彫の表面に光沢を持たせることにより、翼が光って見え、腹の銀、頬の素銅、目玉の金と、いずれも色絵が活かされている。風を切って飛翔する燕の特質が良く示されている。春茂は柳川派と思われる。


藤に雲雀図小柄 堀江興成 Okinari Kozuka

2014-04-03 | 小柄
藤に雲雀図小柄 堀江興成


藤に雲雀図小柄 銘堀江興成

花…藤
ゆく春のかたみとやさく藤の花
 そをだに後の色のゆかりに

鳥…雲雀
すみれさくひばりの床にやどかりて
 野をなつかしみくらす春かな

 堀江興成の花鳥十二ヶ月図揃小柄から、三月の花鳥。縒り合した綱のように太く成長した藤の蔓。その先端に柔らかな緑の葉が繁り、独特の上品な色合いの花房が明るい空間を生み出す。桜のあとに藤が咲くともう春は終わり。過ぎゆく月日の早いことを想わずにいられない。

柳に鶯図小柄 堀江興成 Okinari Kozuka

2014-04-01 | 小柄
柳に鶯図小柄 堀江興成


柳に鶯図小柄 銘堀江興成

花…柳
うちなびき春くるかぜの色なれや
 日を経てそむる青柳のいと

鳥…鶯
春きてはきう夜も過ぎぬ朝といでに
 鶯なきゐる里の村田竹

阿波蜂須賀家に伝えられた十二点の揃い小柄から。題材は藤原定家の和歌「花鳥十二ヶ月」。正月の図で、春の近づきつつある様子が表現されている。この小柄十二点は、揃いのまま、徳島市の徳島城博物館が所蔵している。

椿に雉子図小柄 Kozuka

2014-03-26 | 小柄
椿に雉子図小柄

椿に雉子図小柄 

 早春の水辺に佇む雌雄の雉子。我が国の春の一場面を美しく表現している作品。赤銅魚子地に、赤銅の黒を活かした金銀素銅の色絵をくわえて鮮やかな場面としている。写実的で精密な彫刻による雉子の動きがいい。傍らに咲く椿のありようもいい。流れる小川も、遠くが霞んでいるように省略され、しかも描かれているところは写実的だ。








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雉子図小柄 堀江興成 Okinari Kozuka

2014-03-25 | 小柄
雉子図小柄 堀江興成


雉子図小柄 銘堀江興成

 二月の大雪では、電車も止まり、吹雪の中を歩いて帰った。その折、毎年のような春が来るのだろうかと感じたが…、必ず春が訪れるのは我が国。その自然観。
 藤原定家が一年十二ヶ月の花鳥に擬えて詠んだ和歌に取材した作品の一。

花…桜
かざしをる道行人のたもとまで 桜に匂うきさらぎの空
鳥…雉
かり人のかすみにたどる春の日を つまどふ雉のこゑにたつらん

 もちろん男女の間で交わされた心模様が背景となっている。赤銅魚子地高彫金銀色絵。絵画でもこの題が採られた例を見るが、絵画では決して表現することのできない世界がある。








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仔犬図小柄 Kozuka

2014-03-20 | 小柄
仔犬図小柄


仔犬図小柄

 江戸時代後期の作とみているのだが、ここにも貝殻で遊ぶ仔犬が描かれている。このような仔犬のおもちゃは伝統的なものなのであろうが、意味が良く分らない。愛らしい姿が春の野山を背景に描かれている。真鍮地高彫色絵。

仔犬図小柄 後藤光理 Mitumasa Koduka

2014-03-18 | 小柄
仔犬図小柄 後藤光理


仔犬図小柄 銘後藤光幸(光理)

 快活に遊んでいる仔犬を描いた、後藤宗家十二代光理の作。こうして眺めると、仔犬でさえ後藤家の作品には二疋獅子や二疋牛などの構成と同じ、阿吽の意識が表わされていることが分る。動きと生命感が特に良く現れている。