直実に敦盛図目貫 後藤宗乗
直実に敦盛図目貫 後藤宗乗
後藤宗家二代宗乗の、『平家物語』の名場面に取材した作。この時代の馬は、現代の馬に比較してかなり小形であった。マンガや歴史雑誌などで紹介されている平家物語など、イラストによる軍馬の様子とは明らかに間違い、この目貫のような小さな馬が正しい。小さくてはあまりにも格好悪いというので現代のような馬に描いているのだが、逆に何ともおかしい。軽い騎手をのせて走る競馬ではないのだ。鎧を身に着けた武将が、ひ弱な馬になどのって走れるものか。十数年前に知り合いの画家に源平合戦図の要所をイラストで表現してもらったことがある。その頃は筆者も、正確さを重要視する画家の仕上げた絵をみて格好が悪いと思ったが、あとになって考えると、現在の雑誌などに氾濫している不均衡な軍馬の図の方が何ともおかしく見える。
さてこの目貫は、海上の軍舟へ逃れようとする敦盛を呼び返す直実。馬は既に腹の辺りまで水につかっている。波は瀬戸内のそれ。武士の立場として、敵将に呼び返されたのであれば一騎打ちに応じねばならない。敦盛はすぐさま陸へと馬をかえしたのだが…。
同じ『平家物語』の、宇治川先陣を描いた、ちょっと時代が降って桃山頃の工。後藤の係累だが、いずれの工とも判断できない。戦場を印象付けているのであろう、波は川の流れを意味しており激しい動きが感じられる。宗乗の馬は鼻筋が通っていて品があり、堂々としているのに比し、この目貫は激しく動く様子に力強さが表わされている。