鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

軍馬に猿図目貫 後藤 Goto Menuki

2014-01-01 | 目貫
軍馬に猿図目貫 後藤



軍馬に猿図目貫 後藤

 ふっくらと打ち出されて量感のある造り込みとされた目貫。桃山頃から江戸時代初期の後藤の作。馬と猿とは相性が良いらしい。古い絵にも、厩に猿が飼われている様子が描かれている例がある。その両者を、特に猿が世話を焼いているように構成している。鮮やかな金無垢地に両者の特徴が示されている。

牛馬図目貫 後藤光乗 Kojo Menuki

2013-12-18 | 目貫
牛馬図目貫 後藤光乗



牛馬図目貫 後藤光乗

 これも後藤宗家四代光乗の作。牛を赤銅で、馬を金無垢で彫り出し、両者を芋継の手法で合着させた特殊な造り込み。色絵に比較して金の冴えが抜きん出ており、赤銅も深みのある黒で、贅沢な表現である。馬は流れるような姿態。後藤に牛の図は比較的多いが、牛馬とした例は少ない。両者の特質が対比の形で見事に表現されている。上品な作だが、動きに活力が感じられていい。

直実に敦盛図目貫 後藤宗乗 Sojo Menuki

2013-12-14 | 目貫
直実に敦盛図目貫 後藤宗乗



直実に敦盛図目貫 後藤宗乗

 後藤宗家二代宗乗の、『平家物語』の名場面に取材した作。この時代の馬は、現代の馬に比較してかなり小形であった。マンガや歴史雑誌などで紹介されている平家物語など、イラストによる軍馬の様子とは明らかに間違い、この目貫のような小さな馬が正しい。小さくてはあまりにも格好悪いというので現代のような馬に描いているのだが、逆に何ともおかしい。軽い騎手をのせて走る競馬ではないのだ。鎧を身に着けた武将が、ひ弱な馬になどのって走れるものか。十数年前に知り合いの画家に源平合戦図の要所をイラストで表現してもらったことがある。その頃は筆者も、正確さを重要視する画家の仕上げた絵をみて格好が悪いと思ったが、あとになって考えると、現在の雑誌などに氾濫している不均衡な軍馬の図の方が何ともおかしく見える。
 さてこの目貫は、海上の軍舟へ逃れようとする敦盛を呼び返す直実。馬は既に腹の辺りまで水につかっている。波は瀬戸内のそれ。武士の立場として、敵将に呼び返されたのであれば一騎打ちに応じねばならない。敦盛はすぐさま陸へと馬をかえしたのだが…。


 同じ『平家物語』の、宇治川先陣を描いた、ちょっと時代が降って桃山頃の工。後藤の係累だが、いずれの工とも判断できない。戦場を印象付けているのであろう、波は川の流れを意味しており激しい動きが感じられる。宗乗の馬は鼻筋が通っていて品があり、堂々としているのに比し、この目貫は激しく動く様子に力強さが表わされている。

日月図目貫 Menuki

2013-11-02 | 目貫
日月図目貫


日月図目貫

 なんて面白いのだろうか、波間に太陽の昇る様子を心象表現した作。波の下に太陽が見えるわけがないのだから、この表現は素敵だ。雲間に月の図と対比させており、もちろん陰陽の意識がある。円形に意匠された波図目貫と比較しても、この波の動感は妙味があって優れている。波の下に太陽が見えてもなんら不思議でなくなってくるのがいい。

波文図目貫 秀国 Hidekuni Menuki

2013-11-01 | 目貫
波文図目貫 秀国


波文図目貫 銘秀国

 濤瀾乱刃を想わせる、大きく揺れてよせくる波と、その崩れ落ちる波頭を、巧みに切り取った作。ここまで波を切り取る感性、簡略化する意識は江戸時代中頃にはまだなかったのではなかろうか、洒落ている。このような表現は江戸後期の大月派や加納夏雄が得意とした。本作の天光堂秀国も大月派。

波文図目貫 Menuki

2013-10-31 | 目貫
波文図目貫


1 波文図目貫

 目貫に波のみを描くのは難しいのではないだろうか。1のように円形に波の一部を切り取るという方法は安易ではあるが、窓から覗きみているように面白味もある。銀地高彫。2は波頭の崩れ落ちる部分を左右にして、波の流れを下に構成している。彫刻技法は1に比して巧みで丁寧だが、波の構成としてはもう一つと言ったところか。円形に構成しなくても目貫としては機能するし、安定感もあろうかと思う。朧銀地高彫。


2 波文図目貫

源平合戦熊谷敦盛図目貫 後藤宗乗 Sojo Menuki

2013-10-03 | 目貫
源平合戦熊谷敦盛図目貫 後藤宗乗


源平合戦熊谷敦盛図目貫 無銘後藤宗乗

 少し遡って室町後期の、後藤宗家二代宗乗の特徴が良く示された、しかも出来と保存状態が素晴らしい目貫。後藤家の合戦図を題に得た作品では、波が添景として採られている例が多い。状況を説明する上で必要ながら、巧みに図に採り入れて画面を構成している。この目貫は、一ノ谷において、我が子ほどの若い武者平敦盛を仕留めなければならなくなった源氏方の熊谷直実を主題としたもので、画題としてはあまりにも有名。赤銅地を量感豊かな高彫とし、金銀の色絵を加えている。人物の描法と細部の描写、華やかな色絵、すべての点において丁寧に製作されている。

波に貝図目貫 後藤栄乗 Eijo Menuki

2013-10-02 | 目貫
波に貝図目貫 後藤栄乗



波に貝図目貫 無銘後藤栄乗

 先に紹介した小柄と同じ状況を題に得た作。貝を前面にしてその背後に波を構成しているだけだが、なんて素敵なんだろうか、これを装着した刀で打ち合おうなんて考えるだろうか。戦場において錆や鉄くずにしてしまっても構わないとは、決して思わないだろう。これが装着されていた拵とは、いったいどんなものであったろうか。雑器のような刀ではなかったはず。作者は桃山頃の後藤宗家六代栄乗と極められており、そもそも、大名クラスの刀に装着されていた物。確かに美しい、素敵というだけでなく風格もある。作風は古典に倣って透かしを大胆に施している。赤銅地容彫、色絵を用いておらず、黒一色である点もいい。


小督と仲国図目貫 Menuki

2013-09-07 | 目貫
小督と仲国図目貫


小督と仲国図目貫

 小督と仲国の対で表現されることが多く、この目貫は両者を意味する道具を描いて留守模様とした作。琴を得意としたのが小督、仲国は笛を得意とした。とある鄙びた村で、雅な琴の音を耳にした仲光は、その曲が小督の奏でる想夫恋であることに気づき、殊に合わせて自らも笛の調子を合わせたのであった・・・。
 金無垢地を容彫にし、赤銅の色金を巧みに加えて荘厳なる金地に変化を与えている。
 もう一点の目貫は、同図を金無垢地一色で表した物。この作例のように定型化した図柄であり、広く好まれていた図柄であることが理解されよう。


胡蝶舞図目貫 Menuki

2013-09-01 | 目貫
胡蝶舞図目貫


胡蝶舞図目貫

 迦陵頻伽の翼をまとい、胡蝶の羽をまとった子供たちが舞い躍る。愛らしくも優雅なその姿を赤銅地容彫で描き出している。もう一つは同じ場面を題にとり、胡蝶の羽を備えた子供の実を赤銅地容彫金銀色絵平象嵌の繊細な描法で描き出している。華やかであることから好まれたのであろう。


八橋図目貫 Menuki

2013-07-27 | 目貫
八橋図目貫


八橋図目貫

 「から衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ」
 かきつばたの五文字を用いて和歌を詠むよう求められた男が、都を偲んでそれに応えた歌であることは、あまりにも有名。装剣小道具には図柄として多く採られている題材。しかもかなり独創的に意匠された例に出会うことがあり、楽しい画題の一つでもある。この目貫は、杜若の咲き乱れる中を男が歩いている。その足元は橋板。

芥川(伊勢物語)図目貫 Menuki

2013-07-26 | 目貫
芥川(伊勢物語)図目貫


芥川(伊勢物語)図目貫

 家柄の異なる男女が恋に落ちた。現状では結ばれぬと思って二人は逃避行。とある闇夜のことであった。だがすぐさま追手が組織される。芦原を夜陰に紛れて歩くも女の足では知れたもの。とある小屋に身を潜めたが、遂に見つかってしまった。名流藤原家の女は連れ去られ、男は野に放たれた。女は鬼に食い殺されてしまったということにして。宮中へ上がるはずであった女が駆け落ちしたとあっては問題であったろう。
 いずれの時代においても似たような出来事が起きている。ただ、当時は鬼が存在すると考えられていたことを巧みに利用していた。女を連れ去った男は、口封じのために殺されても仕方がなかったが、この時代、人の恨みは鬼に変じて殺した者へと災禍が向けられると信じられていたことから、処罰も死刑はなかったとみてよい。
 赤銅地容彫金色絵。女を背負う男が芦原をさまよい、そのあとには松明を手にした追手が・・・。

人麻呂図目貫 Menuki

2013-07-24 | 目貫
人麻呂図目貫


柿本人麻呂図目貫

 浜辺を眺める人麻呂図の目貫を紹介する。先に紹介した目貫とは風合いを異にして引き締まった感がある。遠く眺める明石の海原だが、その風景を精巧に描き、人麻呂の顔も精巧。

柿本人麻呂図目貫 Menuki

2013-07-22 | 目貫
柿本人麻呂図目貫


柿本人麻呂図目貫

 人麻呂もまた装剣小道具の画題としては比較的多くみられる。明石の海を眺める図が多いのだが、同者を題材としたもので珍しい作に、文字を鋸で切るという心象的な表現が為されている図もある。人麻呂は歌を創る上で推敲を重ねたということを意味しているのではなかろうかと考えたが、どうだろう。この目貫は、表裏に人麻呂と明石の海原を描き分けている構成で、小柄も同様の構成ながら海原遠くというより海辺の芦原に迫る波を描いて個性的でしかも巧みに画面を創出している。