2017年新卒採用は6月の選考開始から2カ月弱が過ぎた。大手企業の採用は一段落したものの、採用活動継続中の大手企業は少なくないし、採用意欲満々の中堅優良企業もたくさんある。リクナビ掲載企業は2万3808社もあり(7月14日時点)、就活生にとってまだまだチャンスがあるといえる。
内定を獲得する実力があるのに、自分の強みに気づかず、就活がうまく進まない学生がいる。こうした学生は自分の長所をストレートにアピールせずに、マニュアル本をまねした内容を話して失敗していることが多い。
卒業後に苦労する音大生
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そんな自分自身の力に気づかない学生といえば、音楽大学の学生も挙げられるのではないだろうか。「音楽しかやってこなかった」「経済のことなどわからないから一般企業は無理」などと思い込んでいる音大生は多い。
音大の場合、演奏家以外の進路は教員や音楽教室講師が多く、一般企業へ進む学生は多くない。ところが、武蔵野音楽大学ではここ数年、メガバンク、生・損保、総合商社、航空会社などの人気企業へ進む学生が増加している。
2016年3月卒の就職実績で見ると、三井物産1名(前年0)、JR東日本1名(同0)、ANA1名(同1)、JAL1名(同0)、第一生命保険2名(同1)、大日本住友製薬1名(同0)、三井住友銀行1名(同3)といった結果だ。
どうしてこのような変化が起きたのか、武蔵野音大・就職課主任の大内孝夫氏に聞いた。大内氏は慶応義塾大学を卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)に入行、いわき支店長などを務めたあと退職し、2013年に武蔵野音楽大学・就職課に入職した。現在は音楽之友社のホームページで「目からウロコの就活・キャリアQ&A」も連載中だ。
――2015年2月に『「音大卒」は武器になる』を上梓して話題になりました。なぜ、この本を書こうと思ったのですか。
私は約30年間銀行に勤務していましたが、こちらの大学に来てみると「銀行時代にここの学生のような部下がいたら良かったな」と思うことが何回もありました。
音大生は学生のうちから社会人として必要なスキルを身につけているので、プロの演奏家や音楽教員に限らずあらゆる業界で活躍できると思いました。
音大には真面目な学生が多いとのイメージがありましたが、それは予想以上でした。音大生は一般大学の学生よりもしっかり勉強し、自分の専攻の能力・技術力を高めようと努力しています。
大内孝夫(おおうち・たかお)/武蔵野音楽大学 就職課主任兼会計学講師 。慶應義塾大学経済学部卒業後、富士銀行(現・みずほ銀行)入行。証券部次長、いわき支店長などを歴任。2013年より武蔵野音楽大学に勤務。音楽之友社HPにて「目からウロコの就活・キャリアQ&A」を連載中。(撮影:今井康一)
その一方で、卒業後の進路選択を誤り、就職課に相談に来る卒業生も多い。せっかく音大で学んで実力をつけても、それをその後の人生で活かせず苦労するケースがあるのです。
卒業後に苦労している卒業生に出会うと、現役の学生には後悔のない進路選択をしてほしいと願わずにはいられません。しかし、願っているばかりでは卒業後の人生に行き詰まる卒業生を減らすことはできません。
そこで、音大の外の視点を持つ私が、音大生に進路選択のヒントを提供するために本に書くことにしました。
コミュニケーション能力に長けた音大生
――音大生の優れている点は何ですか。
まず、コミュニケーション能力が高い。一般大学は数百人収容の大型教室で授業を行っています。少人数授業があったとしても1クラスに10人以上はいるでしょう。これに対して、音大の授業は教師とのマンツーマンレッスンが多数あります。
1時間から1時間半の間、教師と一対一で話さなくてはなりません。最初はうまく話せなくても、レッスンを通じてコミュニケーション能力が鍛えられ、自分よりも30、40歳も年上の人と物おじせずに話せるようになります。
一般大学生は学生同士で群れることが多く、年上の人と接する機会は多くありません。アルバイト先で上司と接することはあっても、決まり切った内容について話す程度です。
これに対して音大生は教師と曲の解釈について話し合ったり、進路についてじっくり相談したりします。一般学生と比較して、音大生のコミュニケーション能力は圧倒的に優れています。
また、演奏会のために数カ月前から計画通りに物事を進めていくということに慣れているので、プロジェクト推進力に優れているといえます。また、演奏のために暗譜するので記憶力も優れています。
音大出身者はディーラー向き?
私は国債のディーラーをしていたことがありますが、ディーラーで結果を残す人はみんな記憶力が優れていました。もしかしたら音大出身者はディーリング業務に向いているかもしれません。
――大内さんが入職してから就職状況はどう変化しましたか。
入職以来、音大生には本人が気づいていない素晴らしい能力やスキルがあり、音大卒は就職するための武器になることを言い続けてきました。学生の就職に関する意識は徐々に変化してきたと思います。
例えば、入職1年目の2013年には、メガバンクへの学校推薦を求めてきた学生は2名でしたが、2年目は5名、3年目10名、4年目は25名と増え続けています。
以前は一般企業に入社する学生は、全体の約15%でした。これが今では約30%と倍増になりました。とはいっても、演奏家や音楽教師になる人が減ったのではありません。きちんとした進路が決らずに卒業する学生が減少したのです。
――音大以外で就活に弱そうだが、実は強い大学や学部はありますか
これからは食の時代と言われているので、栄養学部は就活に強いのではないでしょうか。栄養学科だから栄養士、または食品会社だけに就職しやすいというのではなく、幅広くいろいろな業界の企業に就職できると思います。
また、健康科学系や心理学系の学部を採用したいという企業が少なくないようです。世の中が多様化しているので、従来は就職に不向きのように思われていた学部の学生にもチャンスがあります。何学部かということより、いかにきちんと勉強して実力をつけたかが問われています。
――今年の6月に就職関連では3冊となる『目からウロコの就活術』を刊行されました。タイトルから「音大」という文字が消えましたが、この本をお書きになったきっかけは何だったのでしょうか。
1冊目の『「音大卒」は武器になる』は現役の音大生向けでしたが、2冊目の『音大卒の戦い方』は音大の卒業生を意識して執筆しました。卒業して進路に行き詰まっている人が、どのようにすれば現状から脱出できるかについて書いたのです。
武蔵野音楽大学の就職課に勤務しなから就職関連の本を2冊刊行したところ、中高時代の友人や銀行時代の同僚達から子供の就活について相談されることが増えました。なかには、一旦就職したもののすぐに退職してしまった子供の相談もありました。
学歴フィルターを気にするな
そこで、音大生だけでなく、世の中の就活関係者全般を読者対象にした本を書くことにしました。それが3冊目の『目からウロコの就活術』です。銀行から大学に転職する人はいますが、多くは経理部門に配属されます。
大内さんの3冊目となる『大学就職課発!!目からウロコの就活術』(音楽之友社)。表紙をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。
また、外部から就職課やキャリアセンターに入職するのは、リクルートなどの人材系ビジネスの人がほとんどです。私のように銀行出身で音大の就職課に勤務しているというケースは他にないと思います。
私は銀行時代に1000社以上の企業と接触があり、融資業務だけでなくコンサルタント的な業務も行ってきたので、企業がほしがる人材像がわかります。今までのキャリアを活かして、企業選びの方法やエントリーシートの書き方について執筆しました。
就職にあたって「学歴フィルター」など気にする必要はありませんし、果敢に挑戦すれば必ず勝機は訪れます。これらのことは武蔵野音楽大学のここ数年の就職実績が証明しています。
内定を獲得する実力があるのに、自分の強みに気づかず、就活がうまく進まない学生がいる。こうした学生は自分の長所をストレートにアピールせずに、マニュアル本をまねした内容を話して失敗していることが多い。
卒業後に苦労する音大生
就職四季報プラスワンの記事一覧はこちら
そんな自分自身の力に気づかない学生といえば、音楽大学の学生も挙げられるのではないだろうか。「音楽しかやってこなかった」「経済のことなどわからないから一般企業は無理」などと思い込んでいる音大生は多い。
音大の場合、演奏家以外の進路は教員や音楽教室講師が多く、一般企業へ進む学生は多くない。ところが、武蔵野音楽大学ではここ数年、メガバンク、生・損保、総合商社、航空会社などの人気企業へ進む学生が増加している。
2016年3月卒の就職実績で見ると、三井物産1名(前年0)、JR東日本1名(同0)、ANA1名(同1)、JAL1名(同0)、第一生命保険2名(同1)、大日本住友製薬1名(同0)、三井住友銀行1名(同3)といった結果だ。
どうしてこのような変化が起きたのか、武蔵野音大・就職課主任の大内孝夫氏に聞いた。大内氏は慶応義塾大学を卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)に入行、いわき支店長などを務めたあと退職し、2013年に武蔵野音楽大学・就職課に入職した。現在は音楽之友社のホームページで「目からウロコの就活・キャリアQ&A」も連載中だ。
――2015年2月に『「音大卒」は武器になる』を上梓して話題になりました。なぜ、この本を書こうと思ったのですか。
私は約30年間銀行に勤務していましたが、こちらの大学に来てみると「銀行時代にここの学生のような部下がいたら良かったな」と思うことが何回もありました。
音大生は学生のうちから社会人として必要なスキルを身につけているので、プロの演奏家や音楽教員に限らずあらゆる業界で活躍できると思いました。
音大には真面目な学生が多いとのイメージがありましたが、それは予想以上でした。音大生は一般大学の学生よりもしっかり勉強し、自分の専攻の能力・技術力を高めようと努力しています。
大内孝夫(おおうち・たかお)/武蔵野音楽大学 就職課主任兼会計学講師 。慶應義塾大学経済学部卒業後、富士銀行(現・みずほ銀行)入行。証券部次長、いわき支店長などを歴任。2013年より武蔵野音楽大学に勤務。音楽之友社HPにて「目からウロコの就活・キャリアQ&A」を連載中。(撮影:今井康一)
その一方で、卒業後の進路選択を誤り、就職課に相談に来る卒業生も多い。せっかく音大で学んで実力をつけても、それをその後の人生で活かせず苦労するケースがあるのです。
卒業後に苦労している卒業生に出会うと、現役の学生には後悔のない進路選択をしてほしいと願わずにはいられません。しかし、願っているばかりでは卒業後の人生に行き詰まる卒業生を減らすことはできません。
そこで、音大の外の視点を持つ私が、音大生に進路選択のヒントを提供するために本に書くことにしました。
コミュニケーション能力に長けた音大生
――音大生の優れている点は何ですか。
まず、コミュニケーション能力が高い。一般大学は数百人収容の大型教室で授業を行っています。少人数授業があったとしても1クラスに10人以上はいるでしょう。これに対して、音大の授業は教師とのマンツーマンレッスンが多数あります。
1時間から1時間半の間、教師と一対一で話さなくてはなりません。最初はうまく話せなくても、レッスンを通じてコミュニケーション能力が鍛えられ、自分よりも30、40歳も年上の人と物おじせずに話せるようになります。
一般大学生は学生同士で群れることが多く、年上の人と接する機会は多くありません。アルバイト先で上司と接することはあっても、決まり切った内容について話す程度です。
これに対して音大生は教師と曲の解釈について話し合ったり、進路についてじっくり相談したりします。一般学生と比較して、音大生のコミュニケーション能力は圧倒的に優れています。
また、演奏会のために数カ月前から計画通りに物事を進めていくということに慣れているので、プロジェクト推進力に優れているといえます。また、演奏のために暗譜するので記憶力も優れています。
音大出身者はディーラー向き?
私は国債のディーラーをしていたことがありますが、ディーラーで結果を残す人はみんな記憶力が優れていました。もしかしたら音大出身者はディーリング業務に向いているかもしれません。
――大内さんが入職してから就職状況はどう変化しましたか。
入職以来、音大生には本人が気づいていない素晴らしい能力やスキルがあり、音大卒は就職するための武器になることを言い続けてきました。学生の就職に関する意識は徐々に変化してきたと思います。
例えば、入職1年目の2013年には、メガバンクへの学校推薦を求めてきた学生は2名でしたが、2年目は5名、3年目10名、4年目は25名と増え続けています。
以前は一般企業に入社する学生は、全体の約15%でした。これが今では約30%と倍増になりました。とはいっても、演奏家や音楽教師になる人が減ったのではありません。きちんとした進路が決らずに卒業する学生が減少したのです。
――音大以外で就活に弱そうだが、実は強い大学や学部はありますか
これからは食の時代と言われているので、栄養学部は就活に強いのではないでしょうか。栄養学科だから栄養士、または食品会社だけに就職しやすいというのではなく、幅広くいろいろな業界の企業に就職できると思います。
また、健康科学系や心理学系の学部を採用したいという企業が少なくないようです。世の中が多様化しているので、従来は就職に不向きのように思われていた学部の学生にもチャンスがあります。何学部かということより、いかにきちんと勉強して実力をつけたかが問われています。
――今年の6月に就職関連では3冊となる『目からウロコの就活術』を刊行されました。タイトルから「音大」という文字が消えましたが、この本をお書きになったきっかけは何だったのでしょうか。
1冊目の『「音大卒」は武器になる』は現役の音大生向けでしたが、2冊目の『音大卒の戦い方』は音大の卒業生を意識して執筆しました。卒業して進路に行き詰まっている人が、どのようにすれば現状から脱出できるかについて書いたのです。
武蔵野音楽大学の就職課に勤務しなから就職関連の本を2冊刊行したところ、中高時代の友人や銀行時代の同僚達から子供の就活について相談されることが増えました。なかには、一旦就職したもののすぐに退職してしまった子供の相談もありました。
学歴フィルターを気にするな
そこで、音大生だけでなく、世の中の就活関係者全般を読者対象にした本を書くことにしました。それが3冊目の『目からウロコの就活術』です。銀行から大学に転職する人はいますが、多くは経理部門に配属されます。
大内さんの3冊目となる『大学就職課発!!目からウロコの就活術』(音楽之友社)。表紙をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。
また、外部から就職課やキャリアセンターに入職するのは、リクルートなどの人材系ビジネスの人がほとんどです。私のように銀行出身で音大の就職課に勤務しているというケースは他にないと思います。
私は銀行時代に1000社以上の企業と接触があり、融資業務だけでなくコンサルタント的な業務も行ってきたので、企業がほしがる人材像がわかります。今までのキャリアを活かして、企業選びの方法やエントリーシートの書き方について執筆しました。
就職にあたって「学歴フィルター」など気にする必要はありませんし、果敢に挑戦すれば必ず勝機は訪れます。これらのことは武蔵野音楽大学のここ数年の就職実績が証明しています。