これが私の生きる道

こむずかしいことやきれいごとは
書いてありません。
読みやすさを心がけて書いています。
読んでみてください!!

「証言台」

2010年10月23日 17時09分13秒 | 読書
わたしは明日、証言台に立ちます
娘が殺された裁判で。
犯人は娘を含めて、3人の罪なき人を殺しています。

わたしは死刑廃止論者です。
死刑にしても殺された人は戻ってこない、
知性をもった人間が復讐の為に、
しかも国家がそれを公的に行うのは間違っているのではないのか
という思いを信条としてきました。
「蒼きの会」という死刑廃止団体の一員として活動を続けてまいりました。
娘の事件があってしばらくは状況を受け入れられず
ただ呆然と、そうただ呆然と死んだように過ごしていました。

犯人は呆気なく逮捕されました。
48歳の再犯者でした。
20年前、強盗に入ったところを住人に見つかり
口封じの為に2人の親子を殺害し
模範囚として15年の刑期を終え、出所したとのことです。

1ヶ月ほど経った頃でしょうか、
夜な夜な、犯人をメッタ挿しにしている夢をみるようになりました。
はじめは何かの間違いだと思いました、
でも3度目にその夢を見たとき確信したのです、
わたしはあいつを殺してやりたいのだと。

「蒼きの会」の人たちが何人も弔問に訪れました。
表面上は、娘の死を悲しんでくれていましたが、
その奥底ではわたしがどのような心中なのか推し量っているようでした。
すなわち加害者に死を望んでいるのか、ということです。
計画的ではないとはいえ、殺人の再犯で死刑が求刑されても
全くおかしくない状況であります。
そこで加害者側の弁護士が、わたしが死刑廃止論者という点をついてきたのです。
「彼は死刑になっても仕方のないことをしました。
しかしご遺族は死刑制度には反対だという、
それならば懲役を以って罪を償わせたい」と

娘は生前、「蒼きの会」の活動には否定的でした。
もし天国から証言できるとすれば、確実に極刑を望むことでしょう。
今回の裁判は裁判員裁判で、
より被害者家族の訴えというのが、
判決に大きく左右するのは想像に難くありません。
死刑を望まないと、わたしが証言することによって、全ては丸くおさまります。
「蒼きの会」からすれば、世間に向けてこれだけ説得力のある行動はなく
活動が一層と勢いをもつことは間違いないでしょう。
しかし現実に殺された娘の無念、
わたしの死を望む気持ちを偽ることになります。
そこで死刑を訴えた場合、相当の確率で死刑は求刑されるでしょう。
ですが死刑廃止の活動をしているものが、
それに反する訴えをした場合、
所詮、当事者になると主張を曲げるのだなと
「蒼きの会」の活動そのものの価値を問われてしまう、
もはやわたし一個人の問題ではないのです。

わたしはどうしたらいいのでしょうか。
今日まで散々悩み続けて、結局答えはでませんでした。
なので、娘のところに行くことにしました。
もしかしたら娘は許してくれないかもしれませんが
これがわたしのできる精一杯です。
それでは、先立つ不幸をお許し下さい、さようなら。

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