周桑郡小松町新屋敷の某家に、エンコが伝えた秘法に関する言い伝えがある。昔、同家の先祖が近くの川で馬の体を洗っていたところ、エンコが馬を川の中に引きずり込もうとしてその足を抱え込んだ。驚いた馬は足にエンコをからませたまま、家にかけ戻りエンコは捕らえられ、重い石臼につながれる。命ごいをして助けてもらったが、お礼にと同家の先祖に喉に刺さった魚の小骨を抜くの秘法を伝授したという。そして、同家では代々この秘法が受け継がれている。興味深いのは、道具も伝えられていることである。梵字まじりの呪文が記されている紙片と小刀が小さな行李の中に納められ保管されている。喉の小骨を抜くには、口を開けて、そこに小刀を突っ込み、呪文を唱えると良いという。戦後間もなくまでは、近所からも小骨抜きを頼まれていたという。
エンコに関する同種の民話は日本各地で聞くことができるが、特定の家にエンコから教えられた秘法が伝承され、道具まで存在する例は珍しいだろう。
2002年04月22日