コトバの持つ拡がり、思惟の展開といったものの表現形態、その可能性を感じた作品集・・・
と言えば大げさだろうか。
11月下旬、著者の佐峰 存(さみね・ぞん)さんからご恵投いただいた詩集『雲の名前』を
一言でと問われれば、乱暴だが、そうこたえたい。
繊細な内奥の吐露は時に傷みを伴いながら綿々と表現されている。感受性とか表現力という
ことにまとめてはいけないような、一つの感覚・感性の世界観を表した詩集ではなかろうか。
この、インパクトある表現力の作品集に出会ったことに刺激されている。
(下記引用作品は、先述とは関連なし。あくまでも作品紹介の一部)
「夜の鼓動」(の内の「Ⅱ 鏡像」を引用)
深夜の湖底に軋み
傾く満員電車の吊り革の森
年季を重ねる群生に迷い込んだ
毛深い蛾が 束の間の心を運んでいる
一対の翅がなす 羽ばたきの綿は
ふくよかな腹を風船のよう
蛍光の波打つ宙にのせ
読まれることのない軌道に
呼吸を紡いでいく
速度の中を飛ぶ速度
鋼橋を潜り抜けてきた関節に
染みわたる音程 傍らで
人々の眼鼻も樹立する
水を通わせ
時間の苔を育みつつ
疾走する生態の園
蛾の鏡像は火花をひらき
脱皮の果ての柔らかさにそよぎ
やがては昏々と
眠り込むのだろう
今はまだ 遠くまで美しい
窓ガラスの硬さにしだかれて
こぼれながら 太く滑る脚の爪
居住区が液状に
幾重にも加速している
著 者 佐峰 存(さみね ぞん)
詩集『対岸へと』(2015思潮社)
第一回西順三郎賞新人賞奨励賞
発行所 思潮社
発行日 2223年10月15日
定 価 2,500円+税
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