陽だまりの中のなか

前田勉・秋田や詩のことなど思いつくまま、感じたまま・・・。

矢代レイ 第4詩集『濁黒(KURO)』

2019-08-12 | 詩関係・その他

       

 矢代レイさんの第4詩集『濁黒(KURO)』が刊行された。
 矢代さんはこれまで2年ごとに詩集を出版されてきた。この詩集に収められた143編は個人詩誌『ピッタインダウン』(おきあがりこぼし=ミャンマー語とのこと)に掲載されたもので、一ヶ月半のわずかな期間で書き上げられたと、あとがきに書かれている。作品それぞれにタイトルがついているのではなく、「濁黒(KURO)」というタイトル一つに対しての詩編。詩と詩との間には※印が付され区切られている。
 
この詩集『濁黒(KURO)』は、一言では読後感を書き得ない重いものが根底にある。17年前、職場での”見えない異臭”と”証人のいない”災害に遭った。証人がいないことや”為政者”による”圧力”などによって事故は否定され、後遺症と心的苦痛に苦しめられてきた。事故から9年目に労働契約は破棄された。”最後のたたかい”として”中央の行政機関”へ”不条理”を訴え、それが”労災”認定へと結びついた。が、根源の傷である”濁黒”は相変わらず巣食っている。16年目にしてようやくその巣食っている”濁黒”に対峙しそのものを書き出そうとした・・・。この詩集のストーリー?はこうかもしれない。
 と、ここまで書いたところで、何か強く強く気圧される感覚を持ってしまった。何故だろう。心の叫びに触れながら、あまりにも強烈過ぎて戸惑ったからかもしれない。こんなに強くはない自分が見えたからかもしれない。それほど強烈であったということ。『ピッタインダウン』で既読なはずなのに、である。

 詩を書くことで乗り越えることが出来たとする矢代さんの姿勢に敬服。
 生きていることの言葉を、当詩集から数点抜粋する。

「内側からの声に/背を向け/外側からの声に/怒りのようなものを抱く」
「私の杖は/孫/赤銅色の杖は/わたしを/さ青の空に引きあげる」
「見えないものは/見えるようには書けない/いまは」
「わたしの/足もとの大地は/詩/ことばと自由に交歓しあう/よろこびが/わたしを新しくする」
「一番のしあわせは/かけがいのない/普通のくらし」
「普通のくらし」という言葉の重さが、動脈の血流のようにドクドクと脈打ち、伝わってきた。

 

<矢代レイ>
秋田県現代詩人協会会員
個人詩誌『ピッタインダウン』発行人
詩集『水の花束』2013年
詩集『水を生ける』2015年
詩集『川を釣る』2017年

発行日 2019年8月9日
出 版 書肆えん(秋田新屋松美町5-6 ☎&Fax 018-863-2681)
定 価 1,600円+税 


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