数年前、福島県会津美里町の詩人、前田新さんから突然年賀状を戴いた。
ある詩人住所録に隣り合わせで掲載されていたからだろうか。
秋田の某銀行の頭取であったMは自分の親戚であるが、秋田の前田はどういう流れか?と書かれていた。
残念ながらお伝えするような血脈を持ち合わせていないので、秋田県内の同姓について触れたメモ程度の
私信をお返ししたことがあった。
さて、その前田さんの13冊目の詩集となる『詩人の仕事』をご恵投戴いた。
前田さんは、詩のみならず小説などこれまで22冊の著書を持つ詩人である。
あとがきに「詩は若い頃から日誌がわりに書く、心象のメモランダムのようなもので、他者への発信
という意識はあまりなかった」と記す。
収められた45篇は世情への詩人の目線が一貫しており、ブレのない指向性・思考が見て取れる。
読んでいて、その強さはどこから来るのだろうかと思った。他者への発信をあまり意識しないという
ことも大きな要因になっているのかも知れない。あるいは、就農、青年運動、農村演劇活動、農業委員
など、農民運動にかかわってきた経歴から見えてくる”民衆”の一人であるという根本的な確たる信条が
あるからかも知れない。
冒頭に収められた「忘れ得ぬ詩人たち」で、9人の東北の詩人(真壁仁、三谷晃一、瀬谷耕作、蛯原
由紀夫、原かず、渡部哲男、物江秀夫、長嶺茂一、若松丈太郎)と1人の九州の詩人(松永伍一)を挙
げているが、その前提となる印象深い第3連を下記引用する。
R・リルケは/”貧しさは内から射す美しい光だ”/と言った。光は詩と同義だ/詩人たちは光を言葉
に変換した/ そして貧しさとは心の豊かさの暗喩だと/その詩のなかで私に教えた/彼らが立ち去っ
たいま/ 私は彼らが残した美しい光のなかで/最晩年を生きている/光は私のなかの闇を射す/それ
とともに私をとりかこむ/ 虚妄の闇にも射しこむ/鋭い切っ先のような光を、/私は意志として詩の
言葉に変える/
詩集の中から一篇、全行を紹介する。
カンレン死
関連死という言葉が
原発事故から七年が過ぎた
ある日、地方紙の紙面に踊った
死の原因が原発事故に関連すると
国が認定した死者の数が
福島県では増え続け、
二、二二七人(二〇一八年月、現在)になった
子供たちの甲状腺の異常も
見つかっているが
放射線との因果関係はない
と報告され続ける
原発事故のカンレン死は
「放射線とは関係なく
避難など、環境の変化によって
心的ストレスなどが原因で
死に至ったと認定された死」
(老人の自死も含む)と
福島県は定義する
認定されれば、国から死者に
些少の金一封が出るが
認定は、それだけに
ハードルが高いという
それでも年間にして
四百三十七人のペースで
関連死は続いている
マスコミは復興を宣伝し
大臣は東京オリンピックの
会場を福島県へなどと、
したり顔で言うが
今もふるさとには帰れない
福島県の避難民は
八八、〇一〇人(二〇一六年八月末現在)
県内のいたるところに
積み上げられる汚染物質の
中間貯蔵施設は一六〇〇ヘクタール
そこへの移動もままならぬなかで
水害でパックは流され破けている
原発から百キロ離れた
会津の山菜の線量は基準値を超える
今年も市場から撤去の指示が出た
現実を知らされないまま
”ああ、福島のあの話
俺には関係がない”と
思っているひとたちに言いたい
原発に依存する限り
認定されることはないだろうが
カンレン死という死から
あなた自身も逃れ得ない
それをあなたが知らないだけだ
発行日 2022年8月30日
著 者 前田 新
発行所 株式会社コールサック社
頒 価 1,600円+税
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