http://president.jp.reuters.com/article/2009/10/01/B61098DC-A99E-11DE-9FB0-6EE93E99CD51.php
2009年10月1日配信
記事の紹介です。
「ブログ市長」が語る食税族のアッパー待遇
公開! 地方役人の給料【1】
ブログ市長」が語る食税族のアッパー待遇「市の税収は20億円なのに、人件費だけで24億円が出ていく。公務員は泥棒だ」「市の税収は20億円なのに、人件費だけで24億円が出ていく。公務員は泥棒だ」
ジャーナリスト 若林亜紀=文 プレジデント編集部=撮影
ついに白日の下にさらされた。鹿児島県阿久根市の竹原信一市長が、市職員の全給与明細をネットで公開した。賛否はともかく、現地から聞こえたのは「自分たちと全然違う」と嘆く市民の声だった。
旅行三昧の市議団は「とんでもないバカ」
写真を拡大阿久根港の水揚げはイワシやサバ、アジが主体。なかでも一本釣りの「華アジ」が有名。駅前のアーケードで目立つのは郵便局と銀行だけ。買い物客の姿はなかった。「市民の平均所得は約200万円、でも市職員の54%が年収700万円以上。市の税収は20億円なのに、人件費だけで24億円が出ていく。公務員は泥棒だ」
鹿児島県阿久根市に、こんな過激な発言を続ける市長がいる。竹原信一市長は、2008年8月に当選。議員の数や報酬を減らそうとして市議会に不信任決議を可決されたため、議会を解散させた。この3月の出直し市議選では、定数16人に23人が立候補。4人の新人を含む市長支持派の5人が上位を独占し、反市長派の前職のうち4人が議席を失った。ただし市長の不信任案再可決に必要な11議席を「反市長」派が占めている。
竹原市長の名を全国に知らしめたのは「ブログ」だ。自らのブログで「辞めさせたい市議アンケート」を実施。さらに2月には、市のホームページで07年度決算での全職員268人の給与を1円単位まで公表。これには大阪府の橋下徹知事が「納得できる」と賛意を示した。
阿久根市はJR鹿児島駅から電車で1時間半ほどのところにある。人口は2万4356人(09年1月末)。海辺の丘にぼんたん畑が広がる過疎の市である。
昨年度の歳入107億円のうち、市税は20億円。国から51億円、県から6億円をもらっている。それでも足りず、借金である市債を7億円も発行した。
写真を拡大市長の椅子に座る竹原信一市長。1959年生まれ。83年防衛大学校卒、航空自衛隊に入隊。88年に退官してからは親族の経営する建設会社に勤務していた。社長を務めたこともある。庁舎は赤い壁が印象的な3階建て。2階に上がると、作業服のジャンパーを着た竹原市長が出迎えてくれた。背は高く、やや細身。書棚には拙著を含め公務員問題に関する本がずらり。
鹿児島弁交じりの朴訥とした口調で、市長になった経緯を話してくれた。
「仕事で役所にいくたび腹がたった。役人は、仕事はできない、能力低い、やる気なし。でも権力を持っている。あるとき、受注した市営住宅の建設図面がおかしいから『自分が住むならと考えてみろ』と言った。そうしたら、市の担当者は『俺は住まんから』とうそぶいたんだ。それで、反感もあって市長と役所についていろいろ調べ始めたら、知れば知るほどおかしいことだらけだった」
まずは「一人で暴動をおこすつもり」で、市長や市役所を糾弾するビラをつくった。バイクで配ってまわり、自分の車にも貼り付けて走った。建設会社にとって市役所は大口の客。親からは絶縁されかかった。それでも、徐々に賛同者が集まり、05年には市議選で当選した。
「議員になってみると、まわりの議員はとんでもなくバカだった」
憤るのは無理もない。市議たちは「政務調査費」を使い、タイのアユタヤ遺跡や大分の別府温泉への「視察旅行」を繰り返していた。07年9月には領収書偽造の詐欺などの疑いで市議の一人が書類送検されている。この市議は今回の出直し選挙にも出馬したがあえなく落選した。
写真を拡大最高は3700万円!市民も驚いた高額退職金08年には市長選へ立ち、500票差で辛勝。「ブログ市長」の異名はこのとき以来だ。選挙活動中にもブログの更新を続け、公職選挙法違反のおそれがあると警告を受けると、「総務省のほうがおかしい」と噛みついた。職員の給与公開もまっさきにブログで報告した。
「市の職員がこんなに厚遇とは知らなかった。もし『自分はがんばっているから文句を言われる筋合いはない』という職員がいるなら堂々と言えばいい。でも、誰も言ってこんよ」
鹿児島県統計協会がまとめた阿久根市民の年間所得推計は一人当たり186万9000円。市職員のボーナスにも届かない。給与構成は「逆ピラミッド型」。年功序列で誰でも昇給するうえ、若者の採用を少なくしているからだ。
とどめは退職金だ。06年度に退職した28人のうち15人は3000万円以上。市民の所得から考えるとばか高い。
「市内で新築のきれいな家は大方公務員の家。夫婦共稼ぎで、城のような家に住んでるのもいるわ」
給与や退職金の公開には一部から強い反発があったが、気にかけない。この4月には職員の大量降格を断行した。
「でも給料は下がらないんだよ。地方公務員法で、たとえ降格されても『人事管理の円滑な運営』のため給料は下げられない。公務員は二重三重に守られてる」
手腕は強硬だが、語り口は飄々としている。公務員の異常な世界に怒りを感じているのかと問うと、首をかしげた。
「怒りではない。うーん、ただ切ない」
そして、こう結んだ。
「市民のために働ける役所にしたい」
インタビューの前、筆者は市役所内をそれとなく見てまわった。なるほど、身を乗り出して向かいの席の男性とおしゃべりに興じる市民課の女性職員、片肘をつきながらパソコンを叩く水道課の初老の職員、ロビーで堂々と血圧を測っていたシステム担当者……。インタビューを終えた5時過ぎには、庁舎の電気が消え、ほとんどの職員がさっと帰っていった。
写真を拡大阿久根市職員の給与明細トップ10翌日、街に出て市民の声を聞いた。
08年に市の総務課長から「阿久根市美しい海のまちづくり公社」の事務局長へと転籍し、今回の市議選で「反市長」を訴えて当選した浜崎国治市議はこう反論する。
「阿久根市の職員給与は、県内の18市の中では16番目で、決して高いほうではない。行財政改革の結果、職員数も今では244人と02年に比べて100人も減っている。退職金も職員を減らすための必要経費で妥当だ」
市の元職員は、親切にも筆者らを豪邸に招き入れ、こう話してくれた。
「私は学校を出たときに銀行や生保の内定もあったけど、市役所を選んだ。お給料は民間のほうがよっぽどよかった。いまさら給料が高すぎると言われても……。家を建てて、子供を都会の大学に通わせたら、家計はきつきつ。第一、市職員の給料を下げたら、車も買い替えんようになるから、市の景気はもっと悪くなる」
阿久根駅前の商店街はすっかり廃れたシャッター通りだ。内陸のトンネルを通る九州新幹線の開業に伴い、JRの在来線は5年前に廃止された。第三セクター方式の鉄道会社として存続したが、経営は厳しい。駅前では客待ちのタクシーが列を成していた。厳しくなる一方の市民生活と、右肩上がりで増える一方の公務員給与。その対比がなんとも切ない。
記事の紹介終わりです。