月のカケラと君の声

大好きな役者さん吉岡秀隆さんのこと、
日々の出来事などを綴っています。

吉岡刑事物語 その9

2008年09月20日 | もしものコーナー 吉岡刑事物語


やわらいだ風がさっと吹いていき、それと同時に
空が少しだけ高くなったような気がした。
病院の屋上から見上げる空は、
どこまでも高く青く澄み、
わずかにキン、と引き締まった空気が
そこに薄く透明な幕を張り巡らせている。
昨夜ひとしきり降った雨が、沈殿していた夏の名残を
全ての領域から洗い流してしまったような、
そんなどこか寂寥とした午後の日差しの中に、
吉岡は一人佇んでいた。
"一雨ごとに秋になる。"
とよく母は言っていたっけ。
そんなことをぼんやりと考えながら、
空を見つめていた目をそっと閉じ、
ひっそりと漂う秋の気配を肌で呼吸する。
負傷した胸の傷跡が少し痛んだが、
それでもかまわず大きく呼吸を繰り返した。
ほんの少しだけ冷えた空気が
肺の奥に浸透していくのが心地良い。
町の騒音もここ8階の屋上に届くまでに空中に拡散し、
不完全な歌調となって空に高く吸い込まれていく。
「秋だ・・・。」
と吉岡はそう低く声に出して呟いた。

“バサリ”

と背後で物音がしたのはちょうどその時だった。
咄嗟の習慣で素早く後方を振り返ると、

吉: マチャトンくんっ?!

そこには相棒のマチャトンが立っていた。

マ: 吉岡く~~~~~~~~~~~~~んっ!!!
会いたかったよーーーーーーー!!!

バサバサッと音を立てながらマチャトンは吉岡の方に
駆け寄ってきた。

マ: 元気になってよかった、吉岡くん!!! 
心配だったんだ、すごく。

吉: ありがとう、マチャトンくん・・・でも・・・

マ: え?

吉: どうして丹頂鶴の姿になってるの?

マ: ああこれは・・・僕は今、丹頂鶴として
釧路湿原で囮捜査をしているんだ。 
君の快復の知らせを受けて今日は非番をもらって
飛んできた。途中で乱気流にのまれてしまったから
だいぶ羽並みが崩れてしまったよ。

吉: ・・・・そうだったんだね。。。

マ: それにしても元気な君の姿が見れて
ほんとによかった。僕は心配で心配で心配のあまり
シベリアと釧路の間をお百度参りしたくらいだ。

吉: ありがとう。もう大丈夫だから。担当医の
柏木先生の話では来週中にでも退院できるらしいよ。

マ: えっ、ほんと? よかったぁ! 
ほんとうに良かったぁ。吉岡くんの身に
もしものことがおこったら・・・・・僕は・・・
だって僕のせいで君がこんな目に・・・

吉: そんなことはないって前にも言ったはずだよ。
僕はただ当たり前のことをしただけなんだ。
友達じゃないか、僕たち。

バサッ~!!! 

吉: ?!

マ: きゃっ、

吉: マチャトンくんっ?!

マ: きゃっ、

吉: もう飛んで帰るの?

マ: キャンディ~ッ、ふ~♪

吉: ・・・・・・・。

マ: (バサ。 ←着地したらしい。)
ごめん、咄嗟に舞い上がってしまった。。。

“ドサリッ”

その時再び彼らの背後で不審な音がし、同時に振り返った
吉岡とマチャトンの二人の視線の先には、

吉&マ: ゴリさん・・・・・。

ゴ: 調子の方はどうだ、池中玄太54キロ?

吉: 大分いいですが、僕は吉岡です。池中玄太ではありません。
なんでいきなりそうなるんですか?

ゴ: え? 丹頂鶴といえば池中玄太じゃないのか、違うのか?
そりゃ~ねぇ~じゃねぇかぁ~ナンコウさんよーっ!!!

吉: 誰に怒っているんです? それよりゴリさん、

ゴ: なんだ?

吉: お見舞いに来てくださるのはとても嬉しいのですが、
パラシュート降下でやってくるのはちょっと・・・・

ゴ: よく気付いたな。ホシに気付かれないように
高度3万メートル上から投降してきたんだ。
こうみえても俺の特技はな、障害物競走なんだよ。

マ: 全然高度と関係ないじゃないですか?

ゴ: なんだよマチャトン。鶴の恩返しか?

マ: 茶化さないでください。これも捜査の一環です。

ゴ: わかってるよ。それより吉岡、見舞い品を持ってきた。
受け取ってくれ。

吉: ・・・・・・・ありがとうございます。でもこれは?

ゴ: 読書好きなお前にはもってこいだろ? ご本といえば?

吉: 龍角散。

マ: ゴホンですよ。ご本じゃないです。

ゴ: えぇぇぇ~~~~~? それじゃ間違って
龍角散を買ってきてしまった俺は、
「秋茄子は嫁に食わすな」ということなのか?

吉: どういうことなんですか?

ゴ: ナスすべもなし、ってな・・・・プッ、おもしろ~い♪ 
わしゃ上方漫才師かいな?

マ: 面白くないですよ。 病室に戻ろう、吉岡くん。
秋風に当たるのは君にはまだよくないよ。

ゴ: そんなツルな格好で病室に入る気なのか? 
場をわきまえろ、マチャトン。

マ: それはゴリさんに言う台詞です。 なんで
TOKIOのジュリーの衣装を着ているんです? 
どこで手に入れるんですか、そういったものを?

吉: あのそれより・・・

ゴ: なんだ?

吉: どうして二人ともわざわざ上空からやってきたんです?

ゴ: どうしても何も今日は「全日本・羽ばたきの日」じゃないか。

吉: え?

ゴ: 「え?」と言ったな?

吉: はぁ。

ゴ: 「え?」といえば鳳さん。

マ: 退場してください、ゴリさん。ん、どうした、吉岡くん? 
急に思いつめたような顔をして?

吉: ・・・・・僕は・・・・・

ゴ: わかってるよ・・・お前の言いたいことは。

吉: ・・・・・・ゴリさん、僕は・・・・

ゴ: 本当はハム太郎なんだろう?

吉: 違います。

ゴ: それじゃなんだ? 真面目に話せよ。

吉: 僕は自分が情けないんです。 
マチャトンくんを助けたことはもちろん正しかった事だと
今でも思っています。しかし自分の不注意で負傷をし、
こうして捜査に穴を開けてしまった自分のことが、
僕はそんな自分のことが許せないんです。
愚か者です、僕は。。。

ゴ: (スパー。 ←タバコをふかしているらしい)

吉: 僕は・・・・・自分のことが・・・・

ゴ: (スパー。)

吉: 時々無償に・・・・

ゴ: 過ちをおかすのは愚か者だからじゃない。
誰だって過ちはおかすものだぜ。愚か者って~のはな、
同じ過ちを何度も繰り返す奴のことを言うんだ。
過ちをおかしてしまうのは人間だからだ。
おかしてしまった過ちとどう付き合っていくかで
その人生が決まるんだ。いいか、
人間とは向上していくものなんだぜ。
そうじゃなかったらただの消耗品と同じことじゃないか?

吉: ゴリさん・・・・

ゴ: (スパー。) それにつけても、

吉: はい?

ゴ: おやつはカール。

マ: どうしてそうなるんです?!

ゴ: おらがの方にも秋がきたでよ、ということだよ。
いいかお前達、人は誰でも半人前な時があるんだぞ。
いきなり一人前にはなれないさ。このおれだって
昔は半人前だった。。。

吉: ・・・そうだったんですか?

ゴ: あぁ、そうだったとも。俺も一昔前まではな、
背ビレがついていたんだ。 

吉: それは半漁人じゃないですかっ?!

ゴ: 三人でべム・ベラ・ベロになってもいいと
最近では思っているんだよ。 あ、
待って~っ、吉岡く~~~~~~~~~んっ!!! 
はっ、パラシュートが足にからまちゃった~!

マ: 一生そうしていてください。

ゴ: 待ちなさいっ、そこのホワイト&ホワイト! 
次の捜査命令を聞かなくていいのですか?! 

非常階段に向かって歩いていた吉岡とマチャトンの足が
その言葉でピタ、と止まる。
そして二人はゴリさんの方に振り返った。

吉&マ: 新しい捜査ですか?

ゴ: そうだ。さすがのコンビ呼吸だね~。吉岡、
お前には来週退院次第すぐにこの新しい捜査に入ってもらう。
マチャトン、お前はそれまでに今の囮捜査から足を洗っておけ。
くちばしで物をくわえる癖は直しておけよ、いいな?

吉: それで捜査の内容は?

ゴ: 内容はまだ言えん。が、捜査場所はヒマラヤだ。

吉&マ: ヒマラヤですかっ?!

ゴ: なにもそんなに上手にハモって言うことはないだろう? 
ララバイコンビなのかい、君たち?
とにかくな、次回は世界最高峰のヒマラヤに登ってもらう。
寒いだろうけどガマンしてね~。それじゃ~な。
ごきげんよ~う!!! 

吉: あっ、ゴリさんっ、パラシュートもつけないままっ、

ゴ: コンドルは飛んでいく~! ヒマラヤに着いたら
ちゃんと連絡しろよー! おやつは300円まで~! 
経費節約のご時勢だ~!

そしてゴリさんの姿は上空に小さくなっていった。

マ: ・・・・・・・・吉岡くん?

吉: ん?

マ: 行くのか、ヒマラヤに?

吉: ・・・・・はい。

マ: 僕も行くーっ!

吉: ・・・。

マ: この言葉が言いたかったんだぁ~ずっと~。
そうと決まったら僕は今から釧路に帰って足場を洗ってくるよ。
そしたらすぐにここに戻ってくる。それじゃ、吉岡くん、
それまでに充分に休息を取って傷を癒しておいてくれ。

吉: うん、わかった。またつらい任務になるだろうけど、
一緒に頑張ろう。マチャトンくんとならきっと無事に
乗り越えていけると思う。

バサ~~~~~ッ!!!

吉: っ?!

マ: また舞い上がってしまったー!!! 
吉岡く~~んっ、僕が帰ってくるまでに
しっかり元気になっていてねー!!!

吉: マチャトンくんも気をつけて!

空を舞うマチャトンの姿も段々と小さくなり、
やがて北の方面へと消えていった。
いつのまにか暮れ始めた空は、
ところどころ薄桃色や薄緑に染まり、
そしてそれは徐々にゆっくりと
金色に深まっていく。
「美しいな。」
と呟き出た言葉に自分でも少し驚いた。
大きく一つ深呼吸をしてみる。
何か新しい息吹が胸の中に入り込むのを感じて、
吉岡はそっと静かに微笑んだ。
コメント (6)
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