時計の針はきっかり午後三時を指していた。
警視庁捜査本部第一課長から現場急行への指示が
携帯に入ったのが午後2時5分過ぎ。
ということはここに到着するまで約55分の時間をロスしたことになる。
人質立て篭もり事件は一分一秒の差が事件解決の明暗を分ける。
いくら渋滞に巻き込まれたとはいえ、もうすこし早く現場に
駆けつけられたかもしれないのに・・・。
自分の腕時計を今一度確かめた後、吉岡は軽く息をついた。
ゴ: おう吉岡、着いたか。ごくろうさん。
吉: 遅くなってすみません。人質の状況は?
ゴ: 今のところ無事だ。
吉: 事件の概要はどういうことなんですか?
ゴ: 人質は一人、三十代の男。 犯人は36人で二人を除いては全て
カンガルーだ。
吉: はっ?
ゴ: 押しかけた犯人たちで場所がギュウギュウ詰めになってしまい
人質を全て外に出したらしい。一人残った人質はカンガルーの袋に足をとられて
外に出損なったんだと思う。
吉: ・・・・・。
ゴ: 硝子戸の向こうで手をこまねいているヤツが見えるか?
あれがサブリーダーのハエ。そしてリーダーの姿は未確認。どうやら
拳銃を持っているらしい。全員生粋のオージー野郎どもだ。それから
カンガルー28番はラッセル・クロウに似ているゆえ特別にラッセルーと
名付けた。とにかくやつらはボクシングで鍛えたパンチが武器らしいからな、
気をつけろよ。
吉: ・・・・・・・なんでカンガルーが銭湯を占拠したんですか?
ゴ: 番頭のおやじの話だとカンガルーたちはいきなり銭湯の中に入ってきて
代金も払わず洗い場に突進しそのまま体も洗わず湯船の中にジャンプして
湯に浸かったらしい。「いい湯だな。」と言ったかどうかは今確認中だ。
吉: ・・・・・・・・・それは・・・・・どういうことなんでしょう?
ゴ: どうもこうもないだろう。重大事件だよ。
吉: はぁ・・しかし・・・。
ゴ: しかしとはなんだぁ、吉岡っ!? 事件に大きいも小さいも右も左も
ニッチもサッチもモンチッチもぼ~くは泣いちっち~よ~こ向いて泣いちっち~
なんて調子こいて歌いながら湯桶を壊してしまうなんて俺は無償に悲しい・・・
悲しくて・・・・悲しくて・・・・・俺はっ・・・・・・
吉: ゴリさん、
ゴ: さ、おやつの時間にしよー♪
吉: は?
ゴ: 三時のおやつは文明堂~♪ と思っただろう~?
カスティ~ラとはいかへんでぇ、柴又といったらくるまやじゃき~。
定番だよ、君。
吉: でも見張りは?
ゴ: 後で戻ってくれば大丈夫~。休憩だよ、休憩~。さ、行くぞ。
吉: そんなわけにはいきませんよ、ゴリさん! 人質はどうなるんですっ?!
ゴ: うむ、そうじゃった。。。 さすがだ、吉岡。刑事の鑑だな。
それじゃくるまやに行くのはガマンして団子は配達してもらうことにしよう、
三平ちゃんに。
吉: それにしても詳しいんですね、ゴリさん、柴又に。
何かこの土地に縁があるんですか?
ゴ: 縁もなにもここは俺の・・・・・フッ。(遠い目をしている模様)
故郷は遠きにありて想うもの・・・ってな。
吉: 柴又生まれだったんですか、ゴリさん?
ゴ: え、なんで?違うよ~。柴又が故郷じゃないよ。俺は生まれも育ちも
オホーツク海だ。
吉: どんなところなんですかっ?
ゴ: お前の生まれ故郷の阿寒湖と近いよな。
吉: 誰が阿寒湖生まれなんです?
ゴ: 隠したって無駄だよ、まりもくん。君のことなら俺はなんでも
お見通しなんだよ、言っとくけどぉ。
吉: 何も見通してないじゃないですか? 僕は阿寒湖出身じゃありません。
ゴ: すまんすまん、悪かった。摩周湖の間違いだった。ということは君は
マッシュ~・マリモくんだったんだね。
吉: ダブルで間違いです。摩周湖にマリモは生息していませんよ。
ゴ: ほらぁ~やっぱり阿寒湖出身なんじゃないかぁ。
吉: 違います。
ゴ: やっぱり摩周湖だろ? とぼけても無駄だよ。
「透明度100%の湖からやってきた透明度100%の君はレモンスカッシュ」
なんていうキャッチフレーズだってもっているくせに~。憎いねぇ。
吉: 勝手にキャッチフレーズなんか作らないでください。いいですか、ゴリさん、
何度も言っていますが僕は吉岡です。摩周湖でも阿寒湖出身でもなく、
ましてやマリモなんとかだねっとは違うんですよ。
ゴ: マリ~モアントワネットだと? フランス製だったのか?
吉: 張り込みに戻ります。
ゴ: つれないな~吉岡~。お前もしや、
吉: なんですか?
ゴ: 素人だな。
吉: 一体僕に何を期待しているんですか、ゴリさん? ただの刑事ですよ、僕は。
とにかく人質の様子を確かめないと。ゴリさんの望遠鏡をお借りします。あっ!?
ゴ: なにを驚いている、タメゴロー?
吉: 望遠鏡の真ん前に立たないでください、ゴリさん。どいてください!
あっ!?
ゴ: 人質をみて驚いたようだな。まぁ無理もない。
あのうちひしがれたゴボウのような姿をした人質は紛れもなくゴボウだ。
吉: こんな時にふざけないでください、ゴリさん。あれは
マチャトンくんじゃないですかっ?! どうしてこんなところで
マチャトンくんが人質に?
ゴ: アンドロメダからやっとのことで帰還してひと風呂浴びようとした矢先に
巻き込まれてしまった事件らしい。携帯でそう言っていたよ。だから僕たちと
一緒に帰ってくればよかったのにね~。
吉: とにかく一刻も早くマチャトンくんを救い出さないと。
のぼせてしまいます。
ゴ: 焦るな、吉岡。一刻も早く相棒を救いたい気持ちはよくわかる。
しかしな、こういうときは救う方の焦りが相手の命取りになりかねないんだ。
肝心なのは落ち着くことだ。
吉: わかりました、ゴリさん。でも
ゴ: 俺の話を聞け。俺はな、若い頃、その焦りで苦い思いをしたんだ。
吉: え?
ゴ: あれはまだ俺が犬ぞりチームのリーダー犬だった頃の話だ。
俺はリーダーとしてチームの勝利ばかりに気をとられていてな、先頭きって
ゴールをしたのはいいが、まだ勝利への焦りが完全に俺の気持ちからは
抜けきれていなかったんだな・・喉の乾きを癒そうと飲んだアイス緑茶が
青汁だったんだ・・・・・・苦かった・・・・すごく。。。あれ、吉岡くん、
どこいくの?
吉: マチャトンくんを救出にいきます。
ゴ: 待てといっているだろう、吉岡っ?!
吉: もうこれ以上待てません、救出します!
ゴ: お前にも危険が伴うんだぞっ!
吉: それは当たり前なことじゃないですか、ゴリさん。
時計の針は午後6時3分。
だいぶ日も暮れかかっている。
夕暮れの生ぬるい光が入り口のガラス戸を橙に染めている。
吉岡は慎重に、一歩一歩その引き戸に近づいていった。
拳銃はジャケットの内側のホルスターにしっかりと納まっている。
しかし吉岡はそれを決して使わないだろうことはよくわかっていた。
犯人だって人間だ。いや、カンガルーもいる。
傷つける権利は誰ももってはしないんだ。
ましてやたった今やってきた第三者である自分の立場なら尚更の事だろう。
例えそれが法という加護の下にあったとしてもだ。
そう心の中で呟くと、吉岡は引き戸に手を置いた。
一気に引くべきか、それとも音を立てぬように少しずつ引いていくか、
一瞬選択に悩んだが、一気に引くことにした。戸の真横に番台が見える。
あそこにすばやく潜り込めば万が一犯人が発砲しても被弾は免れるだろう。
ガラッ!
引き戸を開けた瞬時に吉岡は真横の番台の中にすばやく身を潜めた。
洗い場を背にして屈み込む形になっている。
犯人からの動きは何もない。が、ギシ、と板の間を踏む音が聞こえた。
リーダーか?
イチ、ニ、サン、と数を数えながら吉岡は自分の呼吸を整えていく。
ここからどう出て行く?
リーダーの位置は?
マチャトン君はどこにいる?
ギシ、ギシ、と床を踏み出す音が再びこちらに近づいてくる。
屈み込んだ体をひねって、吉岡は番台の陰から後方を覗き見た。
磨きぬかれた床の上に黒いブーツの足先がこちらを向いている。
リーダーだ。
間違いない。
カンガルーはブーツを履かない。
吉: 人質を解放しろ。
リ: そうはいかない。人質はわたしのものだからね。
どこかで聞いた声だな、と吉岡は思った。
吉: 要求は何だ?
リ: それは君が一番よくわかっていることだろう?
吉: どういうことだ?
リ: 私の要求は君だよ。君と討ち合うためににわざわざ
オーストラリア経由でここにやってきたんだからな。
吉: 俺が目的なら人質はもういらないだろう。解放しろ。
リ: いやまだだ。
吉: それなら部下だけでも全部表へ出せ。
リ: フ、よかろう。私も民主主義の生まれだ。公平に行こうじゃないか。
おい、野郎ども、ズラかるのだ!
「へい!」という掛け声に続き、床が大きく揺れ、
ビョンビョンビョンビョンという音が場内に響く。
カンガルーが一匹ずつ表へ出ていくのだろう。
一匹、二匹、三匹・・・・・・・・・二十五、二十六、二十七、
リ: グゥ~~~~~
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0157.gif)
今だ。
身を屈めたまますばやく番台から出た体を斜めに滑らす。
床を滑っていった吉岡の右足がリーダーのブーツを蹴り、
ドサっという音と共にリーダーが床に倒れた。
瞬時に立ち上がった吉岡はリーダーを片手で腹ばいに伏せ、
もう片方の手ですばやく後ろ手に手錠をかける。
リーダーを床に組み伏せたまま、部屋の中を見回した。
マチャトンの姿はどこにも見えない。
一体彼は無事なのか?
不安からくる胃を締め付けられるような胸の痛みに、
吉岡は一瞬眉をひそめた。
マ: 吉岡く~~~~~~~んっ!
そのとき部屋の隅からマチャトンが飛びでてきた。ジャジャジャジャ~ン。
吉: マチャトンくん!
安堵のため息と共に吉岡は組み伏せていたリーダーから手を離し
床から立ち上がった。
吉: 無事だったんだね。怪我は?
マ: 三時間も湯船につかっていたから紀文のはんぺんみたいにふやけちゃったけど、
でも大丈夫だ。君ならきっと助けに来てくれると思っていたよ。すまないね。
君に余計な危険を負わせてしまった。
吉: そんなことないよ。友達のためじゃないか。
さぁ、表でゴリさんも待ってる。行こうか。
マ: ・・・・・・・。
吉: さぁ、行こう。
マ: ・・・・・・・。
吉: どしたの?
マ: きゃ、
吉: え?
マ: きゃ、
吉: ?
マ: キャ~ラメルコ~~~ン ほっほっほほっほぉ~♪
吉: ???
マ: いや、つい。。。。気にしないでくれ。ちょっと疲れているんだ。
リ: お楽しみはそこまでだ!
突然の声に驚いた吉岡とマチャトンが背後を振り返ると、
そこには捕らえたはずのリーダーが銃をこちらに向けて立っていた。
その姿は紛れもなく、
吉&マ: デスラーッ?!
リ: ハッハッハッハ。 忍法手錠抜けの術。こうみえても私は、
知恵の輪・デミラス星歴代チャンピオンなんだ。
お久しぶりだね、ヤマトの諸君。僕を残してさっさと地球に帰ってしまうなんて
つれないんじゃなくて?
吉: デスラー、僕らに何の用があるというんだ?
決着はあの時あの場で済んだはずだぞ。
デ(に変更): あれはふいの番狂わせだったのだ、吉岡。わたしはあの時
うっかり八兵衛だった。でも今日は大丈夫だ、これを見よ。らっぱのマークの
正露丸。これがあればもう大丈夫だ。さぁ、真の決着の時が来た。その前に、
邪魔者は先に片付ける。マチャトンくん、さらばだ。
一瞬の光線がデスラーの持つ銃口からマチャトンに向かって放たれた。
咄嗟にマチャトンを床に伏せさせた吉岡は、すばやく
自身の体を半回転させながら起き上った勢いを使って
右手でデスラーの握っている銃を掴み取り宙に投げ出す。
その時微かな銃声をもう一度聞いたような気がしたが、
錯覚だったのだろう。気付くとデスラーは吉岡によって
再び床に組み伏せられていた。
一瞬だった。
全てが一瞬のうちに起こったことだった。
そして引き戸が開き、機動隊が突入してきた。
デスラーが機動隊員の手によって表に連行されていく。
デ: これが最後と思うなかれ、ヤマトの諸君。私は必ずやまた戻ってくる。
ふぅわっはっはっは~ わぁ~っはっはっはっは~ どぅわぁ~っはっはっは~
あ、顎が外れちゃった~。
ゴ: 懲りない奴だ、デスラーめ。 おい、二人とも大丈夫か?
吉: はい、大丈夫です。マチャトンくん、大丈夫?
マ: ああ。大丈夫だ。また君に助けてもらった。なんと礼を言った・・・
そこでマチャトンの言葉はふつりと途切れた。
凍りついたように吉岡を凝視している。
吉: ?
マ: 吉岡君・・・・・
吉: どうしたの?
マ: 吉岡くんっ?!
吉: ??
マ: 血がっ!!!!
吉: え?
放心したように自分を見つめているマチャトンの視線を辿ると、
自分の左肩が目に入った。
大量の血がそこから溢れ出ている。
撃たれたんだ。
とその時初めて吉岡は気付いた。
ゴ: きぃやぁああああ~~~~~~~~~~~~っ! (クラ~~~)
マ: ゴリさんが倒れてどうするんですかっ?!しっかりして下さい!
吉岡君っ、今僕が君を病院に運んでいく!
我に返ったマチャトンが吉岡の肩を取る。
吉: 大丈夫。自分で歩ける。
その声がどこか遥かに聞こえる雷鳴のように自分の鼓膜の中に響いている。
と急に全ての力が体から抜けた。
それは一瞬だったのだろうが、
吉岡は自分の体が真っ白い淵の中にゆっくりと落ちていく感覚に
ただ身を委ねるしかなかった。
落ちていく。
最後の意識の糸が切れる直前に、
吉岡は確かにそう呟いた自分の声を聞いた。
その昔は、アシカのような海にいる哺乳類で
そのうち陸に上がって犬になって・・・。
それとも、環境に応じて何にでも変身できるのかな?
デスラーが地球に来ていたことも驚きだけど、
事件現場が銭湯で犯人がカンガルーって、
風子さんのその発想はどこからくるのでしょう
ホントに楽しいです。
でもでも。。。。。
吉岡刑事、撃たれちゃったの
薄れていく意識の中で何を感じたのか。。。
吉岡刑事・・・助かるよね???
>ゴリさんは、出世魚ならぬ出世哺乳類???
もうこの最初の一行でやられてしまいもうした。
まーしゃさん、最高っす! 大爆笑でぃした~。
デスラー、すごく好きなキャラだったので
出戻りさせてしまいました。
ヤマトのキャラなのでそれもあり・・・・にしてしまえ!と。
今回の事件は、
現場で起きているんじゃない!
銭湯で起きているんだ!
カンガル~ コアラ オペラハウス ラッセル・クロウ オゾン層 ワニ ニモ モンゴル
ルー大柴 あ、しりとりになっちった!
みたいな文字群がPC画面上、左右に流れていたかもしりないっす。
ってそれは湾岸署でぃした。
>吉岡刑事・・・助かるよね???
そりは、そりはっ、そりはぁっ、
つづく。
となっ?!
ゴリさん、吉岡刑事、マチャトンの3人のキャラが大好きな上に、懐かしいあれこれが登場し、もうこのシリーズどうしてもドラマで観てみたい!脚本は勿論、風子ちゃんで。
吉岡くんも脚本を読んで、きっとやってみたいと思うね。ふふっ。
カンガルーその28とかでもいいっす!
デスラー役はやはり伊武雅刀さんかな?
アクションものを演じている吉岡君、
きっとすごくかっちょええっすよね~。
あのコトーマスクの顔から魅せていたような
キラっと鋭い目のつけどころがシャープな視線で
ハートを落として欲しい~~~。
あ、想像したらまた鼻血がぁ・・・・・・・・・。
このシリーズ、気に入っていただけて嬉しいです。ふふ~♪
毎回読んでくださってありがとうございますです
なんかもう書いていると止まらなくなっちってぇ。
ゴリ、吉岡、マチャトンのトリオ、
次回の活躍やいかにっ?!
役で参加するより、スタッフとして参加した方がずっと吉岡くん観られるもんね~ふふ~
終わったら、「お疲れ様~」とか言って、衣装脱がしたり・・・・・
あ~、想像したら私も鼻血がぁ・・・・・・・・
そうそう、デスラー役は伊武雅刀さんだよね。
きぃやぁああ~~~~~~~~っ、
norikoっしゃんっ、そりはっ、そんなことはっ、
鼻血ブーの高木ブーのビビデバビデブーでぃっす!
クラ~~~~~~~~~~~~。
私も衣装担当がいい~~~!
「吉岡く~ん、今日のシーンのシャツの着こなしは、
一矢仕様ね。それとも満男くん仕様にしちゃおうかしら?
あ、満男くんはシャツを着るのではなくて脱いじゃうのだったわ~。」
ビビデバビデ鼻血ブー。
だめだ。
衣装担当は私には無理かもしりないです。
ならばわたくしは監督として、
「吉岡君、ここのシーンは、カメラの真横にいる私のことをじっと見つめて。
そうそう、その翳りゆく秋のような目線でじっと私を見つめて見つめて、
はいっ、そこで台詞! “愛しているよ、風子。” 」
ダバダバダバダバダバダァ~~~~。
・・・・・・・・壊れてきちゃったぁ~。
やっぱりエキストラでも出てみたいよぉ~。
カンガルーその28はnorikoさんでぃすね。
そりでは私は機動隊員その5を希望!
あっ、でもデスラーを連行するシーンなのに
吉岡くんにタックルしてそのまま彼を連れ去ってしまうかもしれない。。。
だめぢゃん、わたしぃ~。。。。