Sは間違っったことを言ってしまうのが怖くて黙っていた。
からだがだるい。動けず。幻を追い求めている。
薄暗い夕方、蒸し暑いなかを外に出る。土曜日ということで駅は混雑している。どうすればいいのか戸惑ってしまった。人の流れの横にたたずんでいたら人とぶつかる。
Sさんと一万君とで飲む。ドコも人でいっぱいだ。どうでもいいよもやま話。
かえりにらーめんやで一人のみをしてしまった。酔いと満腹でゆるりと帰った。
Sは神経質であった。神経質者は生の欲望が強い。Sはそういう素質の素晴らしさを自覚していなかった。
「人間的に大成したいならば、今日なすべきことや現在いるべきところから苦しくとも逃げないことだ」
と先生は云った。
逃げないでやってさえいれば、人並みに仕事はできるようになる。
「止まってはいけない」
と先生は云った。
停滞すると、生の欲望に反することになる。
やがて、また神経質ショウ的な心の葛藤が起こってくる。
「生の欲望に従い、逃げずにやっていくことだ」
と先生は云った。