マルタンヤンマ 成熟過程の検証(2010~22) 編集2023.1 改訂2024.2
マルタンヤンマのコバルトブルーに魅了されるのはさることながら、成熟過程の複眼、体色の変化も魅力的である
しかし、10年以上に亘って探索していても、成熟前の個体に巡り会うことは滅多にないのが現実である
ぶら下がりヤンマ観察において必須条件である猛暑日は多い年と少ない年があり、到来時期も早い年と遅い年がある
よって成熟個体でも目撃する頻度は毎年一様ではなく、成熟前の個体に出会う確率は梅雨明けの時期等に左右される
22年は6月下旬から7月上旬にかけて早期に猛暑日が連続して、過去にない程未成熟、半成熟の撮影機会があった
成熟度といわゆるぶら下がりは無関係であり、未成熟ゆえに樹上から低い位置に降りてこないということはない
今回、これまでの撮影分とも比較して成熟過程を改めて検証した 成熟度は自然界での写真によって判定している
大半は薄暗い場所で目撃するのでストロボの使用が不可欠であり、光量等による色彩への影響があることは否めない
(2024.2 追記)
23年の東京は7月上旬から9月上旬まで真夏日が連続して過去最長を記録、猛暑日も過去最多の22日となった
7月前半の猛暑日は前年より遅く10日から及び16日からの3日間であったが、再び未成熟、半成熟が撮影できた
梅雨明けが22日で羽化時期が分散かつ後寄せ気味になったようである 23年撮影分を加え写真の入替えを行った
♂の体色変化 未成熟、半成熟♂のこれまでの目撃時期は6月下旬から7月中旬までに限られている
15年7月中旬に初めて撮影した未成熟♂ 地面から50㎝程の高さにいた 後翅基部の黒斑が明確に出現している
2015.7.13 東京都
比較のため♀の未成熟を掲載 ♀の成熟過程は後半にまとめて記載する
13年7月中旬に初めて撮影した未成熟♀ ♀は腹部第7節背面の褐色部が目立つ 翅基部の黒斑が極小さい段階
2013.7.14 東京都
以下、成熟度の低い順に♂を比較する ぶら下がりの撮影地は東京と埼玉の2ヵ所のポイントである
18年は6月下旬から猛暑日になり未成熟の撮影好機が到来 しかし、3日連続で探して発見は高い梢の1♂のみ
2018.7.2 東京都
冒頭のとおり、22年は早くも6月25日に猛暑日を記録、2日後さらに気温が上昇してぶら下がり探索を始めた
過去最も早い時期に未成熟♂を撮影 成熟度は初回と同等で低い位置で見るのは7年ぶりであった
22年6月下旬の撮影 水路際の地面から50㎝程の低位置で多様な角度から撮影できた
複眼は灰白色 胸部、腹部側面の斑紋は鮮やかな黄色で地色は明るい褐色
2022.6.27 埼玉県
23年の未成熟♂は2回目に到来した猛暑の2日目、7月17日に東京で撮影 この時期の2♂目撃は想定外であった
23年7月中旬の撮影 午前、午後の目撃のうち午後の個体 比較すると複眼の色が濃く、後翅基部の黒斑がやや拡大
移動後
同日午前の個体 前額に着目すると黄色からより青みを帯びた色に変色し、午後の個体より成長が進んでいるとみられる
2023.7.17 東京都
22年7月初日の撮影 複眼が色付く過程で後翅基部の黒斑がはっきりしてきている
自然光で撮ると複眼が青みがかっていることが分かる
2022.7.1 東京都
2023年の半成熟♂は最初の猛暑日の翌日7月11日及び16日に目撃 未成熟♂より先に目撃している
23年7月中旬の撮影 胸部側面が黄色で複眼がライトブルーに色付いて独特の美しさがある
移動後 若い♂はよく飛ぶが遠くには行かない
移動後 腹部第3節が空色に変わりつつある
2023.7.16 東京都
上の個体より5日早く撮影 ほぼ同じ成熟段階であるが複眼の青みがやや強い
移動後
2023.7.11 東京都
22年6月末日の撮影 腹部第3節の空色が目立ち始めた段階
2022.6.30 東京都
22年6月下旬に自然光で撮影 移精行動と同じような動きをした
以下、成熟するにつれて胸部側面の黄色斑が空色、コバルトブルーに変わっていく過程を示した
23年7月上旬の撮影 胸部側面の斑が空色に変わり始めた個体 複眼の青色はまだ淡い
2023.7.10 東京都
同7月中旬の撮影 腹部3節、2節の順に空色に変色する 胸部は黄色みが残り空色とまだらの状態
2023.7.16 東京都
22年6月下旬の撮影 腹部は変色済みで胸部側面が空色に変わりつつある個体
2022.6.28 埼玉県
15年7月中旬の撮影 上と同等の成熟段階
2015.7.13 東京都
23年7月上旬の撮影
2023.7.10 東京都
22年6月下旬の撮影 胸部側面がほぼ空色に変色した個体
2022.6.30 東京都
22年7月初日の撮影 胸部背面も黄色から空色に変色して間もない個体
2022.7.1 東京都
同7月末日の撮影 複眼、斑紋が成熟色になった個体 翅が煙り腹部の褐色部が黒くなっていく
斑紋が黄色から空色になる過程同様、腹部から胸部後方の順にコバルトブルーに変色する この個体の胸部前方は空色
2022.7.31 東京都
23年7月下旬の撮影 腹部3節のみコバルトブルーで2節、胸部が変色過程とみられる個体
2023.7.28 東京都
15年7月下旬の撮影 複眼、斑紋がコバルトブルーになった個体 これぞマルタンヤンマの色彩
2015.7.27 埼玉県
22年8月上旬の撮影 複眼、斑紋ともに美しい個体はそう多くない
2022.8.10 東京都
21年7月下旬に自然光で撮影
2021.7.22 埼玉県
成熟が進むにつれて翅が煙っていく 以下、翅の褐色が濃くなる順に並べてみる
7月中旬の撮影 まだ若い個体
2013.7.15 東京都
7月中旬の撮影
2018.7.14 埼玉県
7月末日の撮影
2022.7.31 東京都
8月中旬の撮影
2022.8.10 東京都
ぶら下がりの終盤 翅がすっかり煙って魅力的 この時期になると翅に欠損のない個体は少ない
2020.8.17 東京都
胸部前面に見られる斑は大概不明瞭であるが、個体差が大きい 以下、極端な2例を掲載しておく
胸部前面に明確かつ大きな斑が出現した個体 ここまで目立つ個体は滅多に見ない
2012.8.19 東京都
胸部前面に斑が殆ど生じていない個体
2021.7.22 埼玉県
自然光で撮影したぶら下がり ストロボなしで撮れる明るい環境の個体は8月以降に目撃することが多い
2016.8.17 東京都
2020.8.17 東京都
2020.8.7 東京都
ぶら下がりの終盤
2023.8.20 東京都
移精行動 腹部の屈伸を始めても実際移精に至ることは稀であり、突然かつ一瞬で終わるので撮影には辛抱がいる
交尾態の飛翔を一度目撃しているが撮影できていない 恐らくぶら下がりの♀を捕捉して林内を旋回後、樹上に消えた
移精する瞬間を見逃さずに撮影するのは難しい
2010.8.7 東京都
忍耐強く待っていても移精しないことは度々で、移精してもタイミングを外すことが多々ある
2016.7.11 東京都
移精に至る時は、一旦腹部を伸ばしてからまず先端を曲げ始めて屈伸運動を繰り返し1分から1分半後に行うことが多い
最初の動作 腹部の先のみを曲げている この個体は機材トラブルで移精が撮れなかった
2021.8.10 埼玉県
移精直前の屈伸運動
移精の瞬間 1、2秒で終わる この個体は約8分後にもう一度移精した
2019.8.2 埼玉県
♀の体色変化 続いて♀の比較 未成熟♀との遭遇は♂よりも多く、発生時期が長いのか7月下旬にも目撃している
2023年は都区内の公園での未成熟♀の目撃が多く、7月中旬までの猛暑日にはほぼ連日ぶら下がっていた
22年6月下旬の撮影 複眼は灰白色 ♀の未成熟はやや高い枝で見ることが多い
2022.6.27 埼玉県
23年7月中旬の撮影 翅は無色透明で基部の斑が未発達の段階 体斑は鮮やかな黄色で地色の褐色も美しい
2013.7.14 東京都
2023.7.17 東京都
後翅基部の斑が拡張しつつある
2023.7.16 東京都
22年7月末日の撮影 まだ見られた未成熟個体 珍しく地面から50㎝程の低い位置にいた
2022.7.31 東京都
23年7月中旬の撮影 複眼が色付き始めた段階 基部の斑はまだ小さい
2023.7.16 東京都
成熟前の♀の胸部背面には青色部分がある
2023.7.10 東京都
2023.7.17 東京都
18年7月中旬の撮影 複眼が色付き、前・後翅とも基部の斑が拡大しつつある 滅多に見ない段階の個体
2018.7.14 埼玉県
19年7月下旬の撮影 縁紋を含め翅が色付き始め基部の濃褐色斑が拡大 明るい場所にいた半成熟ともいえる綺麗な個体
2019.7.30 埼玉県
23年7月中旬の撮影 翅基部の濃褐色斑が拡大する過程
2023.7.12 東京都
13年7月中旬の撮影 翅全体が褐色に色付いてほぼ成熟した若い個体
2013.7.14 東京都
19年7月下旬の撮影 褐色の地色がくすんできた個体 褐色の濃淡は個体差が大きい
2019.7.30 埼玉県
20年8月中旬の撮影 胸部、腹部側面の斑紋は若い程黄色みが強く、成熟が進むと腹部から黄緑色に変色していく
2020.8.11 東京都
22年8月中旬の撮影 目立つ程でないが胸部と腹部の斑紋の色が異なり、腹部は緑色がかっている
2022.8.11 東京都
20年7月末日の撮影 産卵飛翔する体班が黄緑色の個体
2020.7.31 神奈川県
22年8月上旬の産卵 腹部から胸部後方までの側面の斑紋が黄緑色
2022.8.5 東京都
17年8月中旬の産卵 胸部、腹部第2節が黄緑色で3節が水色の個体 白っぽく見えることがあるがこの個体は水色といえる
2017.8.17 神奈川県
20年9月中旬の産卵 斑紋の色がくすんできた老熟個体
2020.9.17 東京都
自然光で撮影すると雰囲気がかなり変わる 高い梢でも何故か♂より撮りやすい所に止まっていることが多い
2018.7.3 埼玉県
2015.7.13 東京都
産卵後のぶら下がり個体 ぶら下がりポイントに隣接する池で産卵するが、撮影には困難な場所ばかりである
産卵直後の休止のようで腹部第4節以下が水に浸かって汚れている
2018.8.15 東京都
生息地、即ち池の環境によって泥の付着が目立つ
2020.8.10 埼玉県
後翅にも泥が付着 翅まで浸かって産卵したことが分かる
2014.7.25 埼玉県
産卵 最後に産卵について記して終了する 交尾が撮れないので生態写真のハイライトは産卵シーンである
産卵は7月中旬から見られ、これまでの最終目撃は10月初旬の長野である 撮影地はぶら下がりのポイントと異なる
気温が28℃を下回らないと目撃は困難で真夏は早朝か夕方になる ポイントで待機して出会えるのは数回に1回程度
飛来しても、警戒心が強いうえ抽水植物の群落にすぐ潜り込むので撮影チャンスはさらに絞られる
産卵場所を探す♀ 産卵場所を決めるまで池を転々と移動することが多い
産卵場所を決めると下方へ移動して水面下で産卵する 全姿を撮影できるのは産卵前の一瞬
産卵中の個体の産卵管を捉えることは難しい
2017.8.17 神奈川県
下方に移動する前 この後掴まった茎の水面下に産卵した
2020.7.16 神奈川県
潜り込むと落着くが大概は上半身しか見えなくなる 上に進むことはないので出てくる時は産卵移動時である
2018.7.20 神奈川県
自然光で撮影
2016.8.11 神奈川県
8月下旬の10時頃の高原の池塘 早朝から産卵していた居残りのようで発見時は腹部が水没状態であった
2019.8.26 静岡県
9月中旬16時過ぎの産卵 17時頃まで転々と移動していた
2020.9.17 東京都
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どれだけの時間をかけて見つめ続けているのか
ここまできて初めて見えてくるものがあるような
ですかね。
未成熟の黄色の個体を探し回っているのは極少数派です。2年連続での目撃は以前経験がないことで、温暖化が多少影響しているのかも。今後、どうなるのでしょう。