花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

おおつごもりの大脱走

2015-01-05 | 日記・エッセイ


昨年の大晦日にちょっとした事件がおこった。病交のために来て頂いた本年最後の患者さんをお送りして、今年も無事に終了かとぼんやりとしていた昼下がりである。家族総出の大掃除も一段落、ふと気が付いたら、先ほどまで庭で遊んでいた飼犬のまるが居ない。屋外に出す際は、必ず内側から門の鍵をかける事を皆で励行していた。しかし、宅配を受け取った家族の一人が、受け取った時は一旦門扉を締めたけれど、その後はどうしたかを覚えていないと難儀なことを言い出した。慌てて近隣を探し回るも何処にも犬影はない。押し迫った中をお煩わせ申し上げるお詫びとともに、京都北保健所、および三山木交番から田辺警察署にお電話を入れて犬の失踪報告をした。

もう戻ってこない、戻ってこれないのかもしれないと気弱になると、小さい頃の姿が走馬灯の様に目交いをよぎる。溝のコンクリートの蓋の隙間に脚を挟んで大泣きしたり、夜中にはずれた首輪を食べてしまったり、耳介軟骨が露出するほど咬まれて全麻下に縫合して頂いたり、実に色々なことがあった。私にとっては子供の様な犬である。ときに思わず子供を犬の名前で呼んだり、犬を子供の名で呼んだりして大いに顰蹙を買うことがあるが、毛皮を着ているか、尻尾がついているかの違いだけで、母親の眼から見たらどちらも同じ様なもので大切なのである。

ため息をつく余裕もなく、とぼとぼと再び家に戻ってきたら、なんと門の前に実に嬉しそうな顔をしてまるが立っているではないか。犬をお飼いでない方から見れば奇妙に思われるだろうが、犬は正直に気持ちが顔に出て、喜ぶ顔もすれば、ふて腐れた顔も見せる。別の場所を探しに出かけた家族を慌てて呼び戻し、皆でかわるがわる撫でながら良かったと半分泣いて喜び合った。失踪報告を申し上げた先へも、改めて犬が戻って参りましたの御礼のお電話をした。元来、人懐こい穏やかな犬であるが、もし外でハイテンションになり、お人が怪我なさるような仕儀になれば取り返しがつかなかった。近くの道路は駅前再開発後に交通量も増加する一方で、ひっきりなしに車が通る車道にぽんと飛び出していたらとも思うと肝が冷えた。

家族に尻尾を振ったためしなく、家に対する帰属意識などがあるのだろうかと常々考えていたが、間違いなく、ここは自分の家だと思っているらしい。リードなしに年末の大冒険か挨拶回りが出来て大満足であったのか、その後は勝手口の内側に設けてあるねぐらの囲いにさっさと入るや否や、ぐーすかといびきをかいて寝始めた。こちらは平成26年の残った気力の貯金をすっかり使い果たし、翌年の分まで前借の借金をした様な心持であった。終わりよければ全てよしとするか。太平楽な寝顔を見ていると、肩透かしをくらったことも何処へやら、それだけで母親はもう十分なのである。