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自宅勝手口を出たところの台杉に鳩が巣を作ったことがあった。そのすぐ下を飼い犬のまるがいつも走り回っている。人の往来もはげしいのに一向に気にすることはなく、せっせと餌を運んで二羽の小鳩を育てていた。ついに巣立ちの時が来て、何時の間にか小鳩の一羽は姿を見せなくなった。しかしもう一羽は一向に自立の気配がない。傍の槙の木までは飛び移ったのであるが、翼をばたばた動かすもののそこから一向に離れる様子をみせない。親鳩はそばの木に止まったまま、ひたすら辛抱強く小鳩を見ている。手出しは一切せず、根負けして寄り添うこともなく、微動だにせずただ見守っているのである。こちらも気になり時に見上げていたのだが、其のうちに小鳩も親鳩もいつしか姿が消えていた。
家の庭のどこが気に入ったのか、それ以降もあちこちに鳩がしばしば巣を作るのである。春になれば大きく枝葉を伸ばす桑の木にも営巣する。そして巣立ちの後に残された空の巣は少しずつ風化して崩れてゆく。命あるものは一時も立ち止まらず、用なきものを振り返らず、広げた翼より遥かに広大な眼前の天空に翔び行くのみ。小鳩に幸あれ。