医薬品として薬事承認された、様々な漢方製剤の効能・効果欄の記載をお読みになった一般の方々が、何故この漢方薬が私の病気に処方されたのだろうかと疑問をお持ちになることは稀な話ではない。かつて当院の院内処方薬剤情報書においては、その方剤が生みだされた原点を押さえた、本来有している効き目について追加記載したものをお渡しし御説明していた。院外処方に移行後は、当院で薬剤情報書をお渡しする機会が殆どなくなったが、引き続き外来診療に際し口頭で精力的に御説明を行っている。疑問に思われることがおありの場合は遠慮なくどのようなことでもお尋ね頂きたいと考えている。
漢方では一見異なる病気だと思われる疾患に対して同じ薬を処方する(異病同治)ことがある。「清上防風湯」をひとつの例に挙げると、各社の漢方エキス製剤「清上防風湯」の保険適用とされる効能・効果としてあげられているのは、実の所「ニキビ」である。そこには適用病名として鼻炎は掲載されていない。しかしアレルギー性鼻炎、花粉症治療に対するひとつの処方としてはこの方剤もありである。「清上防風湯」の効能は、発散風邪、清熱解毒、すなわち体の上部、頭部や顔面に鬱滞している熱証を清めるところにある。上を清めるという意味から「清上防風湯」と称される。従って、ニキビなどの上半身の発赤タイプの皮膚疾患に用いることが多いのである。花粉症にも様々なタイプがある。冷気にあたると鼻水がでる、鼻粘膜が蒼白で水っぽく腫れているという寒証のタイプに適した方剤ではない。一般にどのような疾患であっても、○○病は△□湯で治るという単純な一対一の方剤対応で漢方治療が完結することは決してありえない。
最後に、その炎症がウイルス性か、細菌性の感染症か、アレルギー性か、はたまたその他の病因、病態の炎症かという解析は西洋医学的な攻め方である。東洋医学的にはまた違う医学体系に基づいた解析を行うのである。そして東洋医学における日本漢方も中医学も、方剤の効能や方剤の持つ方向性(方意)が全く食い違っている訳ではない。さらにどの医学も病気の治療と解明が、課せられた究極の使命であることに何ら変わりはない。