太陽が沈む直前のひと時、天空が明るく輝き始める。回光返照(えこうへんしょう)と読めば禅の言葉とのことだが、ここでは回光返照(かいこうへんしょう)である。この言葉を始めて耳にしたのは中医学の講義だった。体内にもはや陽気を留め置く力がなくなり、衰弱した陽気が表に浮き上がり外に抜け出る末期の重篤な状態を表わしている。衰え滅びゆくものが最後に華やぎ栄えることを、落日寸前の輝きに例えて「回光返照」と称するのである。高春媛教授から伺ったのは、故国で受け持たれた難治の疾病が進行した一人の若い患者さんの話であった。或る日突然、あたかも完全回復なさったかの様に元気を取り戻して饒舌になられ、季節はずれの好物を食べたいと言い出されたそうである。北京市内を一日探し回ってようやく入手して病院に戻られた時は、既に彼方に旅立たれた後であった。
忘れむと 思ひてもまた たちかえり 名残りなからむ ことぞかなしき 建礼門院右京大夫集