読書感想139 ペテロの葬列
著者 宮部みゆき
著者紹介
1960年東京都生まれ。オール読物推理小説新人賞、山本周五郎賞、日本SF大賞、直木賞、毎日出版文化賞特別賞、吉川英治文学賞など受賞。本書の前作にあたる「名もなき毒」は吉川英治文学賞受賞。
出版年 2013年12月25日
出版社 (株)集英社
感想
「名もなき毒」で活躍した杉村三郎シリーズの第2弾。テレビで現在放映中である。
今多コンツェルンの娘婿で、グループ広報室の記者兼編集者の杉村三郎がある事件に遭遇し、その謎を解いていくというストーリー。
房総半島の別荘地に暮らす元役員のインタビューを取りに行った帰りに、杉村三郎と園田瑛子編集長は、バスジャック事件に遭遇する。バスのなかにいたのは犯人の老人と6人の乗客と運転手。そして乗客たちは老人の巧みな話術に乗せられていく。バスジャックの被害者となったお詫びに慰謝料を送ると老人は約束する。半信半疑の乗客たちは老人の言うままになっていく。老人はバスを取り囲んだ警察に対して3人の悪人を連れてくるように要求する。警察がバスに突入すると同時に老人は自殺する。老人は暮木一光と言って貧しい天涯孤独な身上だった。そしてしばらくして被害者になった乗客達に死んだ老人から慰謝料が送られてくる…。
詐欺にはいろいろある。ここでは詐欺教育を担当するトレーナーという専門家が紹介されている。人を洗脳するというスキルが、新人研修教育や管理職教育、自己啓発セミナーといった人格改造から、口先三寸で人を騙し続ける悪質商法にも必要とされ、一つの悪質商法がつぶれても次の悪質商法へと、トレーラーは転身を繰り返し、自らは法の裁きを免れている。こうした詐欺教育を担うトレーラーという存在は著者の創作なのか、実在するのかわからないが、創作でもいかにもいそうである。
しかし小説の本筋では、最後までこのバスジャックした老人の目的がわかりにくい。もともと善人だったのに悪人によって酷い目にあったので、悪質な商売に身を落としたが、最後に善人にもどろうとしたというのも、何かとってつけたようで落ち着かない。むしろ脇道を辿るようなエピソードの中に謎がたくさん絡み合っていて面白い。
主人公の杉村三郎の身辺にも変化が現れるので、次回作でその変化の成長ぶりを見たい。