『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

翻訳  朴ワンソの「裸木」79

2014-08-20 15:13:47 | 翻訳

 

Dsc03481

 

翻訳  朴ワンソの「裸木」79

 

               282頁~286

 

〈ふう、混血の女を安値で描いていた大家が受け入れられるのかしら〉

 

「死んだ後で祭り上げるようでつまらないよ。おそらくある批評家のたくらみだろう…」

 

〈ふうん、あなたが考えだす程度の浅はかな推測ね〉

 

「えい、わからない。芸術とか嘘とか。生きてちゃんと食事して安らかに暮らすのがなによりだよ」

 

〈もちろん、わかるはずがない。どうしてあなたなんかがわかるの。あの人はそうする外に生きられなかったということを、どうしてあなたなんかがわかるの〉

 

 夫は新聞を落として大きく伸びをした。

 

 私は、後ろに反らした彼の顔に洞窟のようにあいた鼻の穴と、その中にいっぱい生えた鼻毛を見ながら、少し侮蔑と嫌悪を感じた。

 

「パパ、起きた?」

 

 フンイという坊やがドアをぱっと開けて覗き込んで、寝台に腰掛けているパパを見ると、駆けてきてだっこされる。

 

 手に林檎はもたなかったとしても、頬が赤い少年だ。頬が赤い少年だけだろうか。目元の美しい少女もいる。

 

「お姉ちゃんはまだ起きていないの?」

 

「お姉ちゃんはもう起きて、顔まで洗ったよ。そして僕を見て、パパが起きたようだから来なさいと言ったの」

 

「どうしてパパが起きることをそんなに心配しているの?」

 

「ふうん、パパが今度の休日には必ずどこかにつれていくって…」

 

「そうだったかな…」

 

「ふうん、必ずそうするって、また約束を守ろうとしない…」

 

 情の深い父子だ。

 

 私はぼんやり銀杏の葉を鼻に当てたまま、いるはずのないフンの香りのようなものを手探りする。

 

「あなた、今日は子供達を連れて出かけてこそ面目が立つから…

 

どこがいいでしょうか?」

 

「そうだね…」

 

 ぱらぱらと…窓越しに木々の揺れだけを見て、私はしきりにその音を聞く。

 

「行き先はゆっくり決めるとして…あなた、早く準備をしてね。お弁当も作りましょう、ね?」

 

「そうそう。ママ海苔巻きを作ってくれる?」

 

 始めから終わりまで元気なく聞いていただけの私が気に食わなくなったのか、フンイは私の膝へ移ってきて、彼の頑丈なお尻で餅をつきながら叫び始める。

 

「そうそう。ママが海苔巻きを美味しく作ってあげるから、パパとお姉ちゃんと出かけるんですよ」

 

「いや、じゃあ君は行かないということ?」

 

「そうですね。そうです」

 

「じゃ、僕一人で男やもめのようにいかにも哀れに子供達を追いかけて回れってことなの? 何を言うんだい」

 

 彼は理不尽だという顔だった。

 

「ちょっと行く所があったんです」

 

「どこへ一人で?」

 

「オクヒドさんの遺作展です」

 

 私はその短い言葉を必要以上にきっぱりと言ったために、フンイもむずかるのを止めた。しばらくぎこちない沈黙が流れた。

 

 大人達のわけのわからない沈黙に、びくっとしたフンイが再びさっきよりさらに激しく餅をつく。

 

「わからないの、わからないの。ママの継ぎはぎが全部台無しになる。わからないの」

 

 元気な動作が私の膝に爽快だ。私はフンイをしっかり抱きながら、急に激しい母性愛を感じた。

 

 しかし仕方ないのだ。今日はオクヒドさんの遺作展を見なければならないという私の渇望は、到底どうすることもできないのだ。

 

「フンちゃん、ここにおいで」

 

 夫の落ち着いた声とは反対に、少しあらっぽい動作でフンイを自分のひざにひきずった。

 

「今日はパパがフンイと面白く遊んでやる。なんでもしてやる…」

 

 夫はむずかるフンイを気丈にもなだめて続けた。

 

 私は黙々と彼の自制を見守って途中で階下へ降りてきた。

 

 朝食はとても静かで少しまずく進んだ。夫がどうやって言い聞かせたのか、子供達は膨れっ面しているだけで、うるさくむずからなかった。

 

 私は新しくあつらえたコバルト・ブルーの絹のコートをまとって、銀杏の木の下でしばらくそわそわした。

 

 私の衣装が銀杏の木の黄色い色と、この上なく豪華に調和していたので、私は満足した。

 

 古家が隙間なく建ち並んでいた暗い路地は、大部分洋館に改造され明るくきれいになった。

 

「一緒に行こうか」

 

 ふと夫が照れくさそうに私の横についてきた。

 

「子供達はどうしたの?」

 

「適当になだめた。子供達は僕に似て素直だから」

 

 できるだけ一人になりたかったが、今彼を拒絶するほど残酷になれない。

 

「一日ぐらい子供達を見たらどう」

 

「僕もあの人の絵がみたいね」

 

「それだけですか?」

 

「君が今日は少しきれいに見えたんでね。あえてエスコートしたくなったということ」

 

「ありがとう」

 

 S会館の画廊は3階だった。息が切れる階段を上がると画廊の入り口だ。そこで入り口の向こうに一本の巨大な裸木を見た。

 

 木の横を二人の女が、子供を背負った女は歩き回り、荷物を選別した女は慌しく去っていった。

 

 私が以前暗い一間部屋で見た旱魃の中の枯木、しかし今の私にはどういうことかそれは枯木ではなく裸木だった。それは似ていながらもとても違っていた。

 

 キムチ漬け込み時期の風に震える裸木、たった今最後の葉を落としたキムチ漬け込み時期の裸木なので、春はまだ遠いにもかかわらず、その憂いには春への香気がやるせないほど切実だった。

 

 しかし、うるさくむずかることもなく堂々として、色々なものが隙間なく完全な調和をなしたまま立っている裸木、その横を通り過ぎる寒々しいキムチ漬け込み時期の女達。

 

 女達の目の前には冬があって、裸木にはまだ遠いけれど春への信頼がある。

 

 春への信頼。裸木があのようでも毅然とすることがまさに春への信頼なのだろう。                     

 

 私は忽然とオクヒドさんがまさにその裸木だったとわかった。彼が不遇だった時期、全民族が暗澹とした時期、その時期を彼はまさにそのキムチ漬け込み時期の裸木のように生きたことが、私はわかった。

 

〈裸木と女〉その絵は既に外国人の所蔵になっていた。

 

 私はS会館を出てしばらく茫然とした。長い旅の果てに見慣れない駅に降りたような、疲労困憊したのか絶望したのかわからない茫然自失、そんな茫然自失から夫が私を救った。

 

「どこかお茶でも飲んで休んでから行こうか?」

 

「あそこはどうですか?」

 

 私はあごでちょうど目の前に見える徳寿宮を指した。

 

 徳寿宮の中の銀杏の落葉はひとしおきらびやかだった。

 

 私達は銀杏の木の下のベンチに座って、金色の洗礼の中に体を委ねた。

 

 子供達が飛び、女の人達が散策し、色あせた芝生に溢れる秋の陽光はかえって春より暖かい。

 

「子供達を連れてくればよかった」

 

 夫が再び私を常識的な世界に引き入れる。

 

 赤い風船をなくした女の子がいらだたしく泣く。雲一つない空に吸い込まれるように風船が遠くなって行く。

 

 とうとう赤い点を見失ってしまった私には涙が湧きあがるほど空の青さが眩しい。

 

 横に座った夫も風船が花だったのか、首を反らして目に一杯空を含んでいる。

 

 しかしそれだけで、もう彼の目には10年前の子供っぽい渇望はない。それだけだろうか。女を所有して家庭を持ちたいという世俗的な望みの他には、一度も野望も苦悩も宿らない目、ぱさぱさした頭髪が伸びた額にいつの間にか太いしわができ始めた中年の彼が、私にはまたもや見慣れない。

 

 少し離れたところで、高校生がバドミントンをする。羽は蝶のように軽く飛んできてラケットにぶつかる音が、まるで若い女性の刹那的なキスの破裂音のように、感覚的に聞こえる。

 

 私は衝動的に彼の額のしわになった所にそんなキスを浴びせた。

 

 彼が見慣れないことに耐えられなかった。彼がとても他人のように見慣れないことに耐えられなかった。

 

 木々の影が長くなり、ざあっと風が来る。

 

 もう落葉の終わった噴水の辺の若木がまる裸の体を痛々しく震わしながら、互いの枝をこする。

 

 しかしそれだけで、若木は互いの距離を縮めることができないまま、風が去った後でもひたすら震えていた。

 

       ――  完  ――

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四季折々441  八王子祭14

2014-08-20 01:17:04 | まち歩き

関東太鼓大合戦が2時から4時まで甲州街道いっぱいに繰り広げられた。勇壮な太鼓の音が鳴り響いた。2キロぐらいの距離の間の競演だったので、互いに音が邪魔することもなかった。暑かったので演技者は大変だった。見物人も大変で、全部見て回ることができず、残念。

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唐獅子太鼓。

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関東小鉄太鼓。

ちょうど演技が終わったところ。

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太鼓衆一和鼓 。

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西関東太鼓 連盟。

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