翻訳 朴ワンソの「裸木」77
274頁~277頁
「ミスキちゃん、今日はピンデトック(お好み焼き)をおごるわ?」
「ピンデトック、どうして…」
彼女は私の態度を見ながら言葉じりを濁すさまが、恐らく私の母への気持ちをあらかじめ推測しているようだった。どうして最近周囲の人達は私を亡くなった母と結びつけてみようとするのだろうか?
顔の表情一つ私の思い通りにできなかった。
「一緒にピンデトックを食べない?私がおごる」
「お姉さんとよりによってピンデトックを。私達、ケーキ屋へいきましょう。私がおごる」
「いいえ、ピンデトックにしましょう。私がおごる」
私は無理に彼女を引っ張って、以前彼女とピンデトックを買ったことがある居酒屋へ行った。私は躊躇せずに繰り戸を開け、ドラム缶をひっくり返してお膳にしたところに座って、消毒箸の紙をはずしながら、ピンデトック一皿を頼んだ。
「お姉さん。持ち帰りじゃなくて、食べて行こうと思っているの? 私は知らないわ」
ミスキは顔を赤らめてどうしたらいいか知らないと言った。
まだ宵の口で酒客が込んではいなかったが、それでも数名の酒客が一斉に私達のほうを見ていた。
「やあ、キョンアがこんなところに来た」
少し離れたところで一人で大きな杯を引き寄せていたテスが、私の方に来た。意外だった。
「テスさんこそこんなところに…よく出入りするんですか」
「僕は来る資格が十分にあるよ。××二つのところがしっかりとぶら下がっているんだよ」
彼は度を越して酔っていた。ミスキは私のわき腹を突きながら、そわそわした。
「あなた、帰る? そんなに気まずかったら」
「本当にそうしてもいいの?」
彼女は生き返ったように逃げ去った。テスは濁ったマッコリ(焼酎)をもう一杯引き寄せて、とろんとした目で私をいつまでもにらんでばかりいた。
幼く見えていた渇望がこもった目が赤く充血しているだけで、どんな感情も読めなかった。今度はマッコリの杯が私のところにやってきた。
「じゃ、飲もう」
私は逆らうことのできない命令にでも服従するように、味もわからずごくごくとマッコリを飲み込んだ。やや酸っぱくてお腹がさっぱりした。
「つまみを食べなければ」
彼は冷めたピンデトックの一片を切り取って、私の口につっつくように突き出した。私はそれもおとなしく貰って食べた。それで話すことがなかった。彼も酒を別に楽しんでいないグループのように、マッコリをこれ以上頼まず、私の挙動だけじろじろうかがっていた。ひょっとしたら、少しも酔っていなかったかもしれない。
「こんな所で会うとは」
だしぬけに、それでも落ち着いて呟いた。
「蜃気楼は何で出来上がっているのでしょうか?」
私もだしぬけに、落ち着いて、それでも少し愚鈍な人のような声を出した。
彼は口の端でやや傾き加減に笑うだけで、私の問いを黙殺した。
「水蒸気のようなものかしら?」
私はもう一度独り言のように呟いた。
私は彼がじっと眺めるだけなのが心苦しくて、ドラム缶の上で殻のついた片方の手を出し抜けに差し出しながら
「私に触ってみたいんじゃないですか?」
「どうして、何で」
「私が水蒸気になっているか、水が抜け出て肉になっているか知りたいんじゃないですか?」
彼が私の手を痛く握った。だんだんもっと痛く握った。私は悲鳴を我慢し、彼の目から酒気がなくなって、ゆっくりと渇望が燃えあがるのを十分に見届けた。
私には一番現実的で常識的な希望を抱いた彼が初めてありがたく思えた。
今手が締められて痛い以上の痛さ、人が体を持ったから味わうことのできる、様々な形の痛さを、彼を通して経験したかった。
彼によって私が体を持った人間だという確認と体を持った喜びを得ていた。
「力が強いけど」
自分がどんなに締めても私が悲鳴を上げないので、それとなく力を抜きながら言った。
「たったこれだけの力ですか?」
「骨を砕けるけど、とてもそんなこと…」
「からかっているの、弱虫」
今度は私の方から彼の手を愛撫した。適当に大きく頑丈な手だった。人が体を持つということはどのくらい大きい幸いなのだろうか?
「まだ頬が赤い少年のいる家を夢見るんですか?」
「どうしていけないの? 頬が赤い男の子、善良な妻、チゲ(鍋料理)が沸騰している火鉢、カーテンのある窓、そんなものは平凡すぎるから、キョンアには興味がないよね」
「興味を持つようになったんです、だんだん」
「だんだん?」
「ええ、だんだん色を塗るように、目に見えてそんなことに興味を持つようになったんですよ。夢じゃないすべてが、水蒸気じゃないすべてが。舌鼓を打つ夢を見ることも、他人の夢になることも嫌です。舌鼓を打つ」
私は繰言のように言って、彼に寄りかかりながら目を閉じた。
「マッコリ一杯で酔ったのかい? 行こう。さあ、皆見るじゃないか」
「そうね、行きましょう」
私はよろよろ立ち上がった。
みっともなく女の子がどこで酒に酔っているんだという人々の視線を浴びながら、私はのんびりと居酒屋の広くない土間を横切った。実は私は少しも酔っていなかった。
それぐらいの濁ったマッコリ一杯で、気がどうかなるはずがないが、私はただ酔うふりをすることが面白かった。
よろけながら私の体重を少し男に預けたり、まっすぐ行く道を気の向くままに曲線にかき乱して歩いたりしながら、横でてんてこ舞いしながら困っているのを見るのが面白かった。
そうしてよろよろとケドンの入り口まで来た。私は姿勢を直してしっかりした。
「ちょっと大丈夫? ごめん。キョンアに酒を飲ませたので。僕こそ酔ったみたいだ」
「酔った気分ってどう?」
「今酔ってわからない。少し目まいがして少し愉快でそんな感じ」
「じゃ、唐辛子食べてぐるぐる、タバコ食べてぐるぐるして、ぐるぐる回る気分と似ているでしょうね」
「さあ、そうかな」
「子供の時はぐるぐる回って、成長すればお酒を学んで、人々は元々がまっすぐに立ったまま、動かない世の中が疲れてだるくうっとうしく、我慢できずに生まれたようだ」
「着いた。入ってもいい?」
「何をしたいんですか?」
「お茶を一杯ください」
「それだけですか? たったそれだけ?」
「じゃ、食事でも出してくれるのかい?」
「私を、私の体に傷をつけてみませんか? さっき腕をよろよろしたように、それよりはるかに痛く。私の体が再び水蒸気になって空に浮かぶことができないように、深い傷をつけてみませんか?」
私はテスを自室に招き入れた。ほどよく温かく静まり返っている秘密の居室に。〈亜〉の字の窓と外側の窓まで二重に閉ざして、私は彼に抱かれた。私は彼のものになった。