著者 桜木紫乃
生年 1965年
出身地 北海道釧路市
出版年月 2008年10月
☆感想☆☆☆
著者の作品の多くが北海道を舞台にしているように、本作品も北海道の東部を舞台にしている。根室と釧路。
釧路で母親の書道教室を引き継いだ篠塚夏紀は、出生の秘密を知るために根室に向かった。母親の素性も父親もわからない夏紀が、わずかな手がかりから母親の痕跡を調べる旅だった。認知症になった母親が「行かなくちゃ」としきりに言う「ルイカミサキ」がその手がかりだった。地元新聞に載った歌の中に「涙香岬」の名前を見た夏紀は、それが母親の言う「ルイカミサキ」ではないかと思ったのだ。歌の作者は退職した元中学校教師の沢井徳一。涙香岬には沢井徳一とその息子の沢井優作が案内に立ってくれた。涙香岬の近くには古い水産会社の建物や事務所があり、廃材や使い古した冷蔵庫や水槽、コンテナなどの積まれた駐車場を抜けたところに岬があった。そこに夏紀は母親の痕跡を見つけることはできなかった。涙香岬の近くには3軒の家があった。一番奥にあるのが川田旅館。いまは営業していないが、密漁を仕切りソ連とも通じていると言われる、泣く子も黙る地元のボスの一家。一軒は無人の佐々木家。そしてもう一軒。沢井徳一は30年前、赴任早々に受け持った佐々木彩子に対して海に落ちて死ぬまで何もしなかったことに自責の念を抱いていた。彩子は拿捕されソ連で病死したと発表された父親に銃創の跡があり、それを調べると徳一に語り、まったく学校に来なかったのだ。彩子が死ぬ前に妊娠していたということを聞いていた徳一は、息子に彩子の子供を探したいと言う。こうして涙香岬を巡る夏紀と沢井親子の謎解きが始まる。
漁業の町が密漁しなければ成り立たない。ソ連の国境警備隊との取引で密漁が黙認されている。そういう裏を仕切るのはやくざかマフィアか。そんな国境の町のなりわいが目に浮かぶような作品。