【人界観望楼】外交評論家・岡本行夫 鳩山さん、よく考えてください (1/3ページ)
選挙直前にニューヨーク・タイムズ紙(電子版)が掲載した鳩山さん(由紀夫民主党代表)の論文は、世界を驚かせた。そのまま訳そう。
「日本は冷戦後、グローバリゼーションと呼ばれるアメリカ主導の市場原理主義に翻弄され続け…人間の尊厳は失われた」
「グローバル経済は日本の伝統的経済活動を損傷し、地域社会を破壊した」
あとで指摘するが安全保障の部分も過激だ。繰り返しアメリカを批判する一方で日本自身が拠(よ)って立ってきた基盤を否定したこの論文は、波紋を広げている。さっそくアメリカの識者が言ってきた。「ハトヤマはチャベス(ベネズエラ大統領。激烈な反米主義者)と全く変わらない」
鳩山さんが傷つくこの英文を、なぜ誰もチェックしなかったのか。チャベスはともかく、この論文と同じようにアメリカ一極主義のおかげで世界が悪くなったとやったのは、プーチン・ロシア大統領(当時)、2007年2月のミュンヘン演説だ。欧米の猛反発をかったが、そのプーチンですらグローバリズムまでは批判しなかった。鳩山論文の内容は、むしろ、グローバリズム反対を叫んでG8サミット妨害を繰り返す欧米NGOの主張に近い。
日本はグローバリゼーションの犠牲者ではない。人、金、モノが自由に動く一体化した世界 経済から利益を享受した側である。鳩山さんには、国際協調をこそ説いてもらいたかった。
(中略)
「世界の支配国家としての地位を維持しようと戦うアメリカと、これから世界の支配国になろうと狙う中国との間で、日本はいかにして政治的、経済的独立を維持すべきか」(冒頭の鳩山論文)
「日米安保は日本外交の礎石」と一言書かれてはいるが、ここには日本がアメリカと同盟関係にあるという意識はない。
アメリカは安保条約によって、日本を侵略から防衛する法的義務をもった国である。一方の中国は、1992年領海法により尖閣列島を中国領土と宣言し、97年国防法により海洋権益確保を海軍の主任務と確認して強力な外洋艦隊を建設中の国である。そのアメリカと中国を等置して、日本はいかにこれら2カ国から独立を保てるか、と論じているのである。
答えはアジアの地域統合と集団安全保障体制にある、というのが鳩山論文の結論だが、国家体制、信奉する価値、そして軍事力が全く異なる国家が並立するアジアに集団安保の基盤ができるのは、遠い将来だろう。
米中と等距離を保ちたいのなら、答えはひとつしかない。独力防衛、つまり武装中立だ。このためには自衛隊の規模は少なくとも数倍にし、核武装もしなければなるまい。それが厭(いや)なら非武装中立、かつての社会党左派の主張を採用するしかなくなる。
民主党が「アメリカと適切な間合いをとる」というとき、喜ぶのは米国内の中国重視派だ。「なぜわれわれは日本に遠慮するのか。日本自身がアメリカと距離を置くべきだと言っているじゃないか」と。こうした雰囲気を日本が助長すれば、最悪の場合は、米中の「G2」によって、日本との協議なしに太平洋の運命が決まっていく可能性もある。民主党のアジア外交、特に中国外交には期待したい。しかし、それも強固な日米関係があってのことだ。
自民党は多くの失敗を重ねた。それ故の大敗北だ。しかし、保守政治が戦後一貫して掲げてきた日米安保・軽武装という外交が日本の安全と繁栄をもたらしてきたことは、厳然たる現実ではないか。従来の外交との差別化を図ること自体を目的とすることに説得力はない。 船出にあたって、鳩山さんに考えてもらいたいのはそのことだ。(おかもと ゆきお) (MSN産経)
東アジアで通貨統合、安保協力=民主・鳩山氏が米紙に寄稿 (2009/08/27-22:41)(時事)
米紙に寄稿の「鳩山論文」相次ぎ批判 米国内の専門家ら 2009年8月29日3時8分(asahi.com)
民主・鳩山氏「米紙論文、反米ではない」 (2009年8月31日22時04分 読売新聞)
この鳩山論文への岡本氏の「問い」は、たいへんわかりやすく読めました。
鳩山氏は、見たいところしか見ていないのです。グローバリゼーションで日本が得た「利益」を見ないで、「人間の尊厳」は失われた、とあっさり言う。 安全保障面では、米軍に守られながら、それを見ないで、あっさり 「世界の支配国家としての地位を維持しようと戦うアメリカと、これから世界の支配国になろうと狙う中国との間で、日本はいかにして政治的、経済的独立を維持すべきか」 などと言う。 アメリカ側からすれば、仰天でしょうね。
民主党の執行部にいる人々、鳩山氏をはじめ小沢氏、岡田氏、菅氏らの顔を思い浮かべると、民主政権は大丈夫なのかと、うすら寒い気持ちがしてきます。