昔々、同期のNちゃんに誘われて1年間お料理教室に通いました。
あれは忘れもしない、「アジのエスカベッシュ・オリエンタルソース」っていう魚料理を習う日のことでした。一人一匹、小アジの頭部を包丁でスパッと切り落とし、指で内臓を取り除かなきゃいけなかった。魚が恐い私にとって、これは地獄の罰ゲーム!そんなの到底無理なので、先生に私の魚を見本として使ってもらった。ここまではセーフ。
先生:「ここまで済ませているので、後は水道を使って流水で洗ってください。それならできるでしょう」
いやだぁ、魚を触るなんてこと自体ありえない。でも実習だからやんなきゃ・・・。
親指と人差し指で輪を作り、爪を立ててアジのシッポの端をつまむ。これなら当たるのは爪だけで、直接は指に触れないもんね。でも、あぁ、シッポから爪を通して変な霊気が伝わってくる。気持ち悪くなり、動悸がする、血圧あがる、冷汗がでる。我慢して水道まで持って行った。えらいぞ、自分。流水にそっと当てた時、はずみで魚がブルルンと動いた(気がした)。
「ひぇぇええ。生き返った!」
持っている手に電流が走った。魚が手を離れ、宙を舞い、流しにボタンと落ちた。ヌメヌメとした皮、グロい色、腹から血を出して横たわっている胴体部分。チョロチョロと水が横を流れていく。エグイわぁ。捨てられた頭部はさぞ恨めしそうな濁った眼で、ごみ箱から私をにらんでいるんだろうな。こわひ・・・。なんかさ、料理教室ってホラーの要素満載だわね。
あ、そうだ、お箸!お箸でつかめば怖くないはず。お箸をとりに行く。しかしツルツル滑ってつかめない。やはり爪か?でも濡れた魚はつまみにくい。ニュルン、きゃぁ、気持ち悪~い。この魚、生き返ってまた動き始めるんじゃないか?飛びかかってきたらどうしよう?逃げたい!恐くて目をそむける。薄目で確認する。あぁ横たわったままだ。今晩絶対変な夢見そう。
その時、私は真剣なのに他人が見たら変な踊りをしてたと思うんです、多分・・・。年配の助手の先生が「どうしたの?時間かかってるけど?」と聞いてくださいました。流しに捨てられた魚を見て、不思議そうな助手の先生。無言で私の代わりに洗ってくださいました。あぁ本当にごめんなさい。
だけど私の場合、魚がいったん調理されちゃうと、それは料理として美味しく食べられるのよね。なんて勝手なんでしょうか。食欲の秋、プリップリのお刺身を食べたい私です。
「秋深き 隣は何を 食う人ぞ」