![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/98/bdcc496ed264f2ac93e34ca1e6321d63.jpg)
ぼんやりと目を開けた雪は、目の前に立っている人の方へとゆっくりと焦点を合わせた。
瞬間、彼女の目が大きく見開かれる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/52/96/45d774bbcf0a27dabb9217c31ecffca7.jpg)
雪はモゾ、と身体を動かした。
朦朧とした意識の中で。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7d/5c/a31b518aead71d4cc08d52929dfa3e06.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6f/3b/df79767cf3f3638ccb839a4333c5eaa2.jpg)
完全に覚醒する前に、その瞼は大きな手の平で覆われた。
淳は横たわる彼女に向かって、呪文のようにこう囁く。
「まだ寝てな‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/78/3f/fe821f7c2215e6889e1cf050d9f341a9.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/75/47/652d2eb9d64b007654a7135d18239b98.jpg)
彼のその声を聞いても、雪はその手を振り払ったりしなかった。
代わりに、小さな声でこう呟く。
「まだ行ってなかったの‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2a/4d/a85d4a4f66a3e2e9215e6792aa7b763c.jpg)
雪は、淳を聡美と混同していた。
瞼を覆っているその手に、雪はゆっくりと自身の手を伸ばす。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/34/f4/e2da3613c1a3bd19d736fd225994c31d.jpg)
先ほど見た、聡美の泣き顔が雪の脳裏に浮かんでいた。
雪は消え入りそうな声で、聡美に向かって言葉を紡ぐ。
瞼を覆うその手を、優しく撫でながら。
「優し‥いね‥早く行って‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/32/cb/9f9fad5c0e5aaa6627083bcbeb65cbe3.jpg)
「ありがとう‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0b/24/03224376f73ffaa71dbfb532a1964838.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/bc/e6a320f58aa4b768c52ae815f8780202.jpg)
彼女の瞼を覆っている手が、燃えるように熱かった。
しかし自身の手に伸ばされた彼女の手は、氷のように冷たい。
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淳は自身の手で半分以上隠れた彼女の顔を、ただじっと見つめていた。
先ほど彼女が口にした「ありがとう」が、鼓膜の裏に反響する。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/43/fa/dc29af62ccf3d351db066debe299353e.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5c/48/d591ee2ec495d76cb38c533a99778679.jpg)
弱々しく動いていた彼女の手は、やがて動かなくなった。
再び眠りに就いたのか、ゆっくりと雪の手の力は抜けて行く。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3b/2c/d065ebd7c1eeadae382295ea8e643ae2.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/64/b8/4b548523773cec6eff725c14982cd636.jpg)
彼女の手が滑り落ちても、淳は暫くその体勢のまま動かなかった。
その動きが完全に止まるまで、淳は瞼を覆い続ける。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4b/d8/08f407b63738438aa07b78517ca60c9d.jpg)
そしていつしか、その手を外した。
雪が再び深い眠りへと落ちて行ったのを確認してから。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/12/bc0725baedb5c661d76d491e3d9959c4.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1e/3f/fd0798aa42bddf41d755421c250b3d4f.jpg)
暫し淳は彼女の寝顔をじっと見ていた。
が、やがてゆっくりと前を向いた。
胸の中では、説明のつかない感情がざわざわと騒いでいる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/d9/b8dcc607d2b0c7bd4059a415f4559f5d.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/34/39/e4bc2f8e4f21be4f802c845623dc157e.jpg)
彼女の瞼を覆っていた左手が、まだほのかに温かい。
淳は手を腰に当てながら、布団から半身を出した雪にもう一度視線を落とした。
すると彼女のジーンズのポケットから、紙切れがはみ出しているのが見える。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/77/36/477026ce4fb7a3829cbddbd99386a9bc.jpg)
淳はそれをそっと取り出し、何が書いてあるかを眺めてみた。
表面には家庭教師のバイト先の連絡先、裏面には「英語塾のアシスタント」という文字や、
彼女が書き込んだ「勉強時間確保」という文字が読める。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0c/1c/56268f273164ef7e18a8422ad1f20e73.jpg)
今彼女が抱えている様々な問題が、その紙切れの上に溢れていた。
淳はそれを半分に折ると、彼女のポケットにそっと仕舞い直す。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3d/9b/de2ac8d18d5f862808755016f41f2920.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1e/64/a153d19ba7ff45c1d4f48945e38ad41c.jpg)
そしてめくれていた布団を引っ張って、身体全体が隠れるように掛けてやった。
風が入り込まないように、布団の端をぎゅっと押さえる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/46/5b/f86d8e496fa73ecbf5ec60531d2d1ef9.jpg)
再び仰向けで眠っている彼女の口からは、すぅすぅと健やかな寝息が聞こえて来ていた。
顔色は相変わらず悪いが、もううなされてはいないみたいだった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3b/b7/c8d1692cad008069ae7740e31c683f2b.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7d/9f/84598620169c55f42ae763e398a90b2e.jpg)
何をするでもなく、淳はただその場に佇み続けた。
外ではまだ風が鳴っているのか、隙間から入って来たそれでカーテンが揺れている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/7d/bfa72c99267bba4faadada853ca753f3.jpg)
淳は腕を組んだ体勢のまま、揺れるカーテンをじっと見つめていた。
風で揺れるこのカーテンのように、自身の胸の中に揺蕩う靄を、
可視化出来る何かがあればいいのに。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/e9/03955856292d7f384d1d3b9f7207ca89.jpg)
自身の感情を波立たせ、胸をざわめかせるその感情の正体について、淳は改めて考え始める‥。
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<雪と淳>覆われた瞼 でした。
まさかの「まだ寝てな」アゲイン!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/5b/5d1038884c66aa118850a3da8c0b9cd6.jpg)
212話にも出てきましたね。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/ae/17bb400351619b4e8bd4e4f9c151aa6c.jpg)
こういった過去があるから、
「君も俺も変わってないだろう」というのが淳の結論なのか、となんとなくシックリ‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/6c/0cabde7b48957ac1a0b2c07a38047c69.jpg)
全てつながっているのですね‥。
次回は<雪と淳>その正体 です。
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