「なぁ、お前あの時も見てただろ?」

「あの時、教室で‥」と淳は続けた。

亮の記憶が、再び高校時代へと戻った。
クラスメート達が、ヒソヒソと話している声が聞こえる。

そのざわめきの中で、亮は目にしてしまったのだ。

ほんの一瞬、淳の口角が微かに上がるのを。

亮は信じられない思いで目を見張った。
あいつ‥今笑ったのか‥?

まるで幻でも目にしたかのように、亮は暫しぼんやりと固まる。
「‥‥‥‥」

心の中に、何か不穏なものが生まれた気がした。
まだ言葉には出来ないが、どこか不安で見過ごせない何かが。

何だ‥?

どうして笑う?ちょっと変じゃねーか?

あんな話題で笑うヤツじゃねーのに‥優等生がよ‥

顔を出した不穏な芽。
しかしその種の存在は、無意識下で認識していたように思う。
脳裏に蘇って来るのは、以前目にした西条と淳の姿。暗雲漂う彼らの会話。
なんだ?不良達と仲良くねーんじゃなかったのか?
そうだ、確かに「行く」とは言ってねぇ

見えない意図を張り巡らせた、淳の一言‥。
「無闇に人に喋るんじゃないぞ」

「‥‥‥‥」

心に芽生えた不穏な芽は、様々な場面を経由して大きくなって行く。
例えばあの時。

岡村泰士と喧嘩をした時の淳は、明らかに普段と違っていた。
岡村の髪を掴みながら、目の前の石に頭を打ち付ける寸前で手を止めたあの時。

「止めろ」

あの時目にした淳の瞳を、なんと形容すれば良いものか。
一切の光を灯さない、無慈悲で残忍なその瞳をー‥。

あの後確かに亮は思ったのだ。
その闇に気付かなかった静香の後ろを歩きながら、淳の方をチラチラと盗み見ながら。
「大丈夫ぅ〜?!ほら顔見せて!あたしのせいで〜」

アイツ‥ちょっと危ねーんじゃねーか?切れたらマジやばそーなんだが‥

「‥‥‥‥」

モヤモヤと煙る胸中を持て余しながら、亮は続けてこんな場面を思い返していた。
岡村との喧嘩の後、青田会長に詫びを入れに行った時のことを。
「いつもオレらのこと気に掛けてくれて、マジ感謝してます、会長!
んで‥静香がクソなこと‥いや‥」

「とにかく‥ちゃんと止めらんなくてすいませんした。マジでお恥ずかしい‥」
「はは、大丈夫だ」

「どんな一面も受け入れるのが家族だろう」

あの時会長が口にしたその言葉が、今の亮が抱えるモヤモヤへの答えの様な気がした。
だよな!オレら家族同然だもん!

亮はガッツポーズを固めつつ、”家族”というその甘い響きを噛み締める。
まぁ意外に危ねぇ一面があんのかもしんねーけど、
そんなんは全て家族の愛ってヤツで包んでやるっての


チラ、と亮は淳の方へと視線を流した。
こうして見ると普段通り、品行方正な優等生の彼の横顔‥。
言葉では説明出来んけど、アイツは皆が思ってるような単純なヤツじゃない。
複雑な何かを抱えてんだろう

そういえば‥

亮の脳裏に、仮面を貼り付けたように笑う淳の表情が思い浮かぶ。
「いや、大丈夫」

あの時亮は笑顔を返したけれど、どこか不自然なそれを感じていたのだ。
そして今思い返してみてこう思う。
あいつの笑顔には色々な種類がある

そのことを、姉にこう打ち明けたこともある。
「アイツ、今でもオレらに反射的に笑顔返すのな。どっか壁作ってんぜ。
オレ、媚びんのはヤダっつってるくせに、結局ああいう奴らへの接し方と変わんねーじゃん」

あの時静香は「心を開くのに時間が掛かる子なのよ」と言っていたはずだ。
そしてそれをどこか物寂しく思っていた。
けれど‥。
「ははは!」

あの時や、

あの時。
そして、

「ははは!」

あの時も。
「はははは」

あの笑顔は、確かに今までのそれとは違っていたはずだ。
あの時、花火のように刹那に咲くその笑顔を前にして、亮は目が離せなかった‥。

アイツもそろそろオレらに心開いて来たってことだろ

そう考えるのが妥当な気がした。
そしてそう考えることは、どこかこそばゆい気持ちを亮にもたらす。

悪くねぇな

”本当の家族”が、その”家族愛”が、不穏なその芽の存在を曇らせた。
全てが壊れてしまった今、幾重にも巻き付いたその蔓が二人をがんじがらめにしている‥。
「だからこれ以上互いに期待したり、会いに来るのも止めてくれ。
それぞれ自分の道を歩もう」

伏し目がちにそう話す淳を見ながら、亮はどこか割り切れない思いが胸に広がるのを感じていた。
さっきからコイツ‥一体何のこと‥。オレがどんなひどいことをしたって言‥

そこまで考えた時、不意にあの言葉が蘇った。
「本気で俺のこと親友だと思ってるのか?」

青田家の門の前で、問い掛けられたあの言葉。
あの時淳はあの仮面を貼り付けたような笑顔を浮かべていなかった‥。

亮は思った。
「‥‥‥‥」

不穏な芽の下にあったその種は、一体いつから植わっていたのだろう。
そしてそれを萌芽させたのは、一体何が原因だったのだろうとー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<淳と亮>過去回想(3)ー不穏な芽ー でした。
過去を丁寧に紐解いて行きますね〜。
ようやく亮が淳が抱えていた闇に直面する時が来た感じがします。
さて4部41話はここで終わりです。
次回は<淳と亮>過去回想(4)ー萌芽の原因ー です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
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「あの時、教室で‥」と淳は続けた。

亮の記憶が、再び高校時代へと戻った。
クラスメート達が、ヒソヒソと話している声が聞こえる。

そのざわめきの中で、亮は目にしてしまったのだ。

ほんの一瞬、淳の口角が微かに上がるのを。

亮は信じられない思いで目を見張った。
あいつ‥今笑ったのか‥?

まるで幻でも目にしたかのように、亮は暫しぼんやりと固まる。
「‥‥‥‥」

心の中に、何か不穏なものが生まれた気がした。
まだ言葉には出来ないが、どこか不安で見過ごせない何かが。

何だ‥?

どうして笑う?ちょっと変じゃねーか?

あんな話題で笑うヤツじゃねーのに‥優等生がよ‥

顔を出した不穏な芽。
しかしその種の存在は、無意識下で認識していたように思う。
脳裏に蘇って来るのは、以前目にした西条と淳の姿。暗雲漂う彼らの会話。
なんだ?不良達と仲良くねーんじゃなかったのか?
そうだ、確かに「行く」とは言ってねぇ

見えない意図を張り巡らせた、淳の一言‥。
「無闇に人に喋るんじゃないぞ」

「‥‥‥‥」

心に芽生えた不穏な芽は、様々な場面を経由して大きくなって行く。
例えばあの時。

岡村泰士と喧嘩をした時の淳は、明らかに普段と違っていた。
岡村の髪を掴みながら、目の前の石に頭を打ち付ける寸前で手を止めたあの時。

「止めろ」

あの時目にした淳の瞳を、なんと形容すれば良いものか。
一切の光を灯さない、無慈悲で残忍なその瞳をー‥。

あの後確かに亮は思ったのだ。
その闇に気付かなかった静香の後ろを歩きながら、淳の方をチラチラと盗み見ながら。
「大丈夫ぅ〜?!ほら顔見せて!あたしのせいで〜」

アイツ‥ちょっと危ねーんじゃねーか?切れたらマジやばそーなんだが‥

「‥‥‥‥」

モヤモヤと煙る胸中を持て余しながら、亮は続けてこんな場面を思い返していた。
岡村との喧嘩の後、青田会長に詫びを入れに行った時のことを。
「いつもオレらのこと気に掛けてくれて、マジ感謝してます、会長!
んで‥静香がクソなこと‥いや‥」

「とにかく‥ちゃんと止めらんなくてすいませんした。マジでお恥ずかしい‥」
「はは、大丈夫だ」

「どんな一面も受け入れるのが家族だろう」

あの時会長が口にしたその言葉が、今の亮が抱えるモヤモヤへの答えの様な気がした。
だよな!オレら家族同然だもん!

亮はガッツポーズを固めつつ、”家族”というその甘い響きを噛み締める。
まぁ意外に危ねぇ一面があんのかもしんねーけど、
そんなんは全て家族の愛ってヤツで包んでやるっての


チラ、と亮は淳の方へと視線を流した。
こうして見ると普段通り、品行方正な優等生の彼の横顔‥。
言葉では説明出来んけど、アイツは皆が思ってるような単純なヤツじゃない。
複雑な何かを抱えてんだろう

そういえば‥

亮の脳裏に、仮面を貼り付けたように笑う淳の表情が思い浮かぶ。
「いや、大丈夫」

あの時亮は笑顔を返したけれど、どこか不自然なそれを感じていたのだ。
そして今思い返してみてこう思う。
あいつの笑顔には色々な種類がある

そのことを、姉にこう打ち明けたこともある。
「アイツ、今でもオレらに反射的に笑顔返すのな。どっか壁作ってんぜ。
オレ、媚びんのはヤダっつってるくせに、結局ああいう奴らへの接し方と変わんねーじゃん」

あの時静香は「心を開くのに時間が掛かる子なのよ」と言っていたはずだ。
そしてそれをどこか物寂しく思っていた。
けれど‥。
「ははは!」

あの時や、

あの時。
そして、

「ははは!」

あの時も。
「はははは」

あの笑顔は、確かに今までのそれとは違っていたはずだ。
あの時、花火のように刹那に咲くその笑顔を前にして、亮は目が離せなかった‥。

アイツもそろそろオレらに心開いて来たってことだろ

そう考えるのが妥当な気がした。
そしてそう考えることは、どこかこそばゆい気持ちを亮にもたらす。

悪くねぇな

”本当の家族”が、その”家族愛”が、不穏なその芽の存在を曇らせた。
全てが壊れてしまった今、幾重にも巻き付いたその蔓が二人をがんじがらめにしている‥。
「だからこれ以上互いに期待したり、会いに来るのも止めてくれ。
それぞれ自分の道を歩もう」

伏し目がちにそう話す淳を見ながら、亮はどこか割り切れない思いが胸に広がるのを感じていた。
さっきからコイツ‥一体何のこと‥。オレがどんなひどいことをしたって言‥

そこまで考えた時、不意にあの言葉が蘇った。
「本気で俺のこと親友だと思ってるのか?」

青田家の門の前で、問い掛けられたあの言葉。
あの時淳はあの仮面を貼り付けたような笑顔を浮かべていなかった‥。

亮は思った。
「‥‥‥‥」

不穏な芽の下にあったその種は、一体いつから植わっていたのだろう。
そしてそれを萌芽させたのは、一体何が原因だったのだろうとー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<淳と亮>過去回想(3)ー不穏な芽ー でした。
過去を丁寧に紐解いて行きますね〜。
ようやく亮が淳が抱えていた闇に直面する時が来た感じがします。
さて4部41話はここで終わりです。
次回は<淳と亮>過去回想(4)ー萌芽の原因ー です。
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