
授業は終わり、放課後となった。
亮の視線は、席を立つ淳とショパンの二人を追う。

始め淳が教室を出て行き、その後ショパンが出て行った。
亮は席に就きながら、じっとその様子を窺っている。

そしてその背中が見えなくなった頃、亮はそっと席を立った。

一人廊下を歩くショパンの後方を、気付かれない様そっと歩く亮。
「‥‥‥‥」

今や胸中は疑心と裏切りへの憤懣でどうにかなりそうだった。
亮はショパンの背中を睨みながら、考えついた仮説を頭の中でなぞる。
淳の奴が‥アイツを何かしらの甘い言葉で誘導して‥

オレを呼び出し‥。二人、会ってどんな話をしやがんだ‥


そう考えながら、亮はふと窓の外を見た。
下に見えるのは、副級長の兄・城崎含む三年の不良達と、

彼らと親しげに会話する、青田淳の姿‥。


淳は彼らと二言三言会話をしてから、その場から去って行った。
亮は目を見開きながらその光景を凝視する。


ハッと気が付くと、ショパンが目の前のドアを開け中に入る所だった。
特に淳と会う素振りも見せず、ただ一人でその中へと入って行く。


疑心で目の前のことすら見えなくなっていた亮は、一人かぶりを振りながら来た道を戻り始めた。
あー‥止めだ止めだ。何やってんだよ、最近おかしいぞ

別にアイツも何もしてねぇじゃんか

亮はショパンが進んだドアの方を振り返りながら、初めて彼についてじっくりと思いを巡らせていた。
「‥‥‥‥」

‥アイツとも、一度ちゃんと話をしてみなきゃな

オレに対して溜め込んだモンがあんなら、
後で変な方向に走るより思い切りぶち撒けりゃいいんだよ。正面切って、堂々とよ

先日、亮に食って掛かって来た彼の姿が思い浮かんだ。
僕を無視するな、見下すなと声を荒げた彼を、亮は虫の居所が悪かったのもあって突っぱねてしまったのだ‥。
「‥‥‥‥」

このまま追いかけて呼び止めようか、とも思った。
しかし彼が叫んだ言葉が蘇る。「僕の名前はショパンでもピアノでもない」と。
名前くらい知ってからの方がいいな

亮はそのまま、ショパンに指定された場所へと歩いて行った。
工事中の別館には立ち入り禁止のテープが貼られているが、構わず中へ入って行く。

「河村ぁ!」

聞き覚えのある声が掛かった。
立ち止まった亮の前に、顔面傷だらけの岡村泰士とその仲間達が現れる。
「よぉ」

そこから先は、語るまでも無かった。
「この野郎ー‥」

暗澹たる絶望と、疑心と、憤懣と、裏切りに悶えたそのやるせない気持ちは、今も忘れることが出来ない。
何か一つでも違っていたら、違う未来が待っていたのだろうか‥。
八年の歳月を経てあの頃のことに言及した亮と淳。
ゆっくりと時計の針が、先に向かって進み始める‥。
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<淳と亮>過去回想(10)ー的中ー でした。
淳サイド+亮、からの過去回想はこれで終わり!と作者さんのブログに書いてありました。
左手事件の真相は明らかになったものの、結局はいつもの黒淳的な流れでしたね。
本当に何か一つでも違っていたら‥ともどかしく思いました。
さて次回はこの話し合いの決着です。
<忠告と真実>です。
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