河村静香は焦っていた。
「このままじゃマズイわよ!淳ちゃんとは仲直り出来ても、
他の学校のヤツらまで復讐のチャンスだって喧嘩しかけて来やがって‥!」
亮は自分の失言のせいで現状を引き起こしてしまった後ろめたさから、
そんな姉に対して何の言葉も掛けることが出来ない。
「身寄りがないってことがバレた時点で終わりなんだって‥!だからあれほど気をつけなさいって‥
あのチビがそう広めて‥」
そこまで口にした途端、静香は先日偶然目にした場面を思い出した。
「あ、そうだ!あたしなんか不安になってあのチビ追いかけたの。
そしたらアイツ、ちょくちょく淳ちゃんにチクってんのよ!
アイツ、あたしたちのポジ狙ってんじゃないの?!ちょっとどうにかしてよ!アンタのせいでしょ?!」
それを聞く亮の視線は、静香ではなくとある人物に注がれていた。
壁の向こうから顔を出した”ショパン”は、亮と目を合わせずに、小さな声でこう呟く。
「お前‥授業終わったらちょっと出て来いよ」
彼とは一度話をつける必要があると感じていた亮は、その申し出を引き受ける。
「おお。オレもちょっとお前に話あんだわ」
「ちょっと!こっち来なさいよ!アンタでしょ?!あの噂流したの!」
静香がショパンに向かって大声で叫んだが、彼はそれには答えず、そそくさと二人に背を向けた。
「工事中の別館に来いよ‥」
そのどこかオドオドした彼の態度を見て、静香は余計頭に血がのぼったようだ。
「ちょ‥なんなのよアイツ!!あたしと喧嘩しても負けそ‥うっ?!」
「うううーーっ!」
亮はショパンが去った方向を睨みながら、チッと一つ舌打ちをした。
静香と別れて一人になってからも、先ほど姉が口にした話が頭から離れない。
あいつが全部‥噂を広めたって‥
その事実を耳にしても、亮はどこか腑に落ちない気分だった。
そもそも彼から恨まれるようなことを、自分はしでかしていただろうか?
くさくさしながら廊下を歩く亮の視線の先に、淳を含めたクラスメートの群れが見える。
クソッ‥
彼らはぞろぞろと歩きながら、淳を中心にして何やら話をしていた。
耳を澄ますと、どうやらそれは亮のことについて話しているらしいことが分かる。
「よぉ、最近なんか明るくね?」「だよな。なんかよく笑うし」
「今まで亮のせいで色々苦労してきたもんなぁ?w」
淳の肩を叩きながら笑う彼らに対して、淳は冷静にこう返した。
「いや、むしろ気になってるよ。やっぱりお互い気になっちゃうし‥けど‥」
「皆、亮にあまり酷いことしないでくれな」
「おいおい、俺らがいつそんなことしたよ?俺らはそんな人間じゃねーぜ?」
「つーか怖くていじめらんねーってのwそれすんのは岡村くらいのもんだろ」
ははは、と彼らは笑いながら去って行った。
亮はその場に立ち尽くしながら、同じような場面を、同じようなセリフを体験したことを思い出す。
「西条の奴、まだ学校こねーの?」
あの時淳は言った。何食わぬ顔をして。
「そうなんだ。早く良くなると良いね」
その言葉を聞いて、思わず亮は吹き出したのだ。
早く良くなると良いねだとよ‥テメーが病院送りにしたよーなモンじゃねーか
そう思いながら。
見せかけ‥
淳のその言葉と笑顔に、”見せかけ”という言葉がピッタリと嵌まる。
思えばあの時もそうだった。
「明後日、◯◯区にある店に皆が集まることは知ってるよな?」
「あそこにある焼肉屋に来いって、先輩達からメールが来たろ?」
「西条は呼ばれてないの?」「西条も行く?行きたいならさ」
その違和感を、亮は確かに感じていた。
「え‥雑用って何の?てか掃除は?」
「明日の一限に使う資料だって。今持って行って欲しいって先生が」
「てかなんでそれをお前一人に‥」
「別に俺一人ってわけじゃないさ。もう一人連れて来いって言ってたから、一緒に行こう。
掃除はしなくていいってさ」「お?おー‥」
集まり、行かねーのか?行くの止めたのか?
全てが淳の思うがままに進むかのような、その現実を目の当たりにして。
「西条の奴入院したらしいぜ。三年にやられたらしい」
「かつを入れるとかなんとか‥。おとなしく卒業してくれりゃいいのに」
同じ様に違和感を感じていた人間も居るには居た。
西条が入院した時、同じクラスの副級長・城崎仁は、亮にこう聞いてきたのだ。
「マジで淳が酒飲みに行こうなんて誘ったわけじゃねーよな?」
「でも青田が最近急に仁の兄貴達と仲良くなったのは事実なんだ」
あの時亮は淳を庇って、事実無根だと城崎に告げた。
けれど本当にそれが真実だったのだろうか?
「あたしなんか不安になってあのチビ追いかけたの。
そしたらアイツ、ちょくちょく淳ちゃんにチクってんのよ!」
実は真実は、感じた違和感の方にあったんじゃないのか?
裏切り‥
胸の中にこびりついた”見せかけ”と”裏切り”は、みるみる内に膨れ上がって行った。
亮は教室に戻ってからも、疑心を込めた眼差しで淳の背中をじっと睨む。
まさか今度は‥
何も語らぬ淳の後ろ姿が、全てを語っているような気がしていた。
今にも溢れ出しそうな感情を噛み殺しながら、亮はぐっと拳を握り締めた‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<淳と亮>過去回想(9)ー疑心と裏切りー でした。
亮や静香、ショパン達の既出場面と、初出の淳のシーンを絡めた構成になってましたね。
だんだんと亮が淳に抱く疑心が膨らんで行く様が、丁寧に描かれています。
さて過去回想も次回で最終回。
<淳と亮>過去回想(10)ー的中ー です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
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「このままじゃマズイわよ!淳ちゃんとは仲直り出来ても、
他の学校のヤツらまで復讐のチャンスだって喧嘩しかけて来やがって‥!」
亮は自分の失言のせいで現状を引き起こしてしまった後ろめたさから、
そんな姉に対して何の言葉も掛けることが出来ない。
「身寄りがないってことがバレた時点で終わりなんだって‥!だからあれほど気をつけなさいって‥
あのチビがそう広めて‥」
そこまで口にした途端、静香は先日偶然目にした場面を思い出した。
「あ、そうだ!あたしなんか不安になってあのチビ追いかけたの。
そしたらアイツ、ちょくちょく淳ちゃんにチクってんのよ!
アイツ、あたしたちのポジ狙ってんじゃないの?!ちょっとどうにかしてよ!アンタのせいでしょ?!」
それを聞く亮の視線は、静香ではなくとある人物に注がれていた。
壁の向こうから顔を出した”ショパン”は、亮と目を合わせずに、小さな声でこう呟く。
「お前‥授業終わったらちょっと出て来いよ」
彼とは一度話をつける必要があると感じていた亮は、その申し出を引き受ける。
「おお。オレもちょっとお前に話あんだわ」
「ちょっと!こっち来なさいよ!アンタでしょ?!あの噂流したの!」
静香がショパンに向かって大声で叫んだが、彼はそれには答えず、そそくさと二人に背を向けた。
「工事中の別館に来いよ‥」
そのどこかオドオドした彼の態度を見て、静香は余計頭に血がのぼったようだ。
「ちょ‥なんなのよアイツ!!あたしと喧嘩しても負けそ‥うっ?!」
「うううーーっ!」
亮はショパンが去った方向を睨みながら、チッと一つ舌打ちをした。
静香と別れて一人になってからも、先ほど姉が口にした話が頭から離れない。
あいつが全部‥噂を広めたって‥
その事実を耳にしても、亮はどこか腑に落ちない気分だった。
そもそも彼から恨まれるようなことを、自分はしでかしていただろうか?
くさくさしながら廊下を歩く亮の視線の先に、淳を含めたクラスメートの群れが見える。
クソッ‥
彼らはぞろぞろと歩きながら、淳を中心にして何やら話をしていた。
耳を澄ますと、どうやらそれは亮のことについて話しているらしいことが分かる。
「よぉ、最近なんか明るくね?」「だよな。なんかよく笑うし」
「今まで亮のせいで色々苦労してきたもんなぁ?w」
淳の肩を叩きながら笑う彼らに対して、淳は冷静にこう返した。
「いや、むしろ気になってるよ。やっぱりお互い気になっちゃうし‥けど‥」
「皆、亮にあまり酷いことしないでくれな」
「おいおい、俺らがいつそんなことしたよ?俺らはそんな人間じゃねーぜ?」
「つーか怖くていじめらんねーってのwそれすんのは岡村くらいのもんだろ」
ははは、と彼らは笑いながら去って行った。
亮はその場に立ち尽くしながら、同じような場面を、同じようなセリフを体験したことを思い出す。
「西条の奴、まだ学校こねーの?」
あの時淳は言った。何食わぬ顔をして。
「そうなんだ。早く良くなると良いね」
その言葉を聞いて、思わず亮は吹き出したのだ。
早く良くなると良いねだとよ‥テメーが病院送りにしたよーなモンじゃねーか
そう思いながら。
見せかけ‥
淳のその言葉と笑顔に、”見せかけ”という言葉がピッタリと嵌まる。
思えばあの時もそうだった。
「明後日、◯◯区にある店に皆が集まることは知ってるよな?」
「あそこにある焼肉屋に来いって、先輩達からメールが来たろ?」
「西条は呼ばれてないの?」「西条も行く?行きたいならさ」
その違和感を、亮は確かに感じていた。
「え‥雑用って何の?てか掃除は?」
「明日の一限に使う資料だって。今持って行って欲しいって先生が」
「てかなんでそれをお前一人に‥」
「別に俺一人ってわけじゃないさ。もう一人連れて来いって言ってたから、一緒に行こう。
掃除はしなくていいってさ」「お?おー‥」
集まり、行かねーのか?行くの止めたのか?
全てが淳の思うがままに進むかのような、その現実を目の当たりにして。
「西条の奴入院したらしいぜ。三年にやられたらしい」
「かつを入れるとかなんとか‥。おとなしく卒業してくれりゃいいのに」
同じ様に違和感を感じていた人間も居るには居た。
西条が入院した時、同じクラスの副級長・城崎仁は、亮にこう聞いてきたのだ。
「マジで淳が酒飲みに行こうなんて誘ったわけじゃねーよな?」
「でも青田が最近急に仁の兄貴達と仲良くなったのは事実なんだ」
あの時亮は淳を庇って、事実無根だと城崎に告げた。
けれど本当にそれが真実だったのだろうか?
「あたしなんか不安になってあのチビ追いかけたの。
そしたらアイツ、ちょくちょく淳ちゃんにチクってんのよ!」
実は真実は、感じた違和感の方にあったんじゃないのか?
裏切り‥
胸の中にこびりついた”見せかけ”と”裏切り”は、みるみる内に膨れ上がって行った。
亮は教室に戻ってからも、疑心を込めた眼差しで淳の背中をじっと睨む。
まさか今度は‥
何も語らぬ淳の後ろ姿が、全てを語っているような気がしていた。
今にも溢れ出しそうな感情を噛み殺しながら、亮はぐっと拳を握り締めた‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<淳と亮>過去回想(9)ー疑心と裏切りー でした。
亮や静香、ショパン達の既出場面と、初出の淳のシーンを絡めた構成になってましたね。
だんだんと亮が淳に抱く疑心が膨らんで行く様が、丁寧に描かれています。
さて過去回想も次回で最終回。
<淳と亮>過去回想(10)ー的中ー です。
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