東洋経済より転載
東電の「お手上げ」を恐れる、原子力規制委
放射能汚染水の流出阻止へ、異例のテコ入れ
岡田 広行 :東洋経済 記者
2013年08月03日
東京電力の対策の遅れを指摘する原子力規制庁幹部
東京電力・福島第一原発の放射能汚染水が海に流れ出している問題で、原子力規制委員会と原子力規制庁が、有効な手だてを欠く東電へのテコ入れに乗り出した。
規制委は8月2日夕刻に「汚染水対策検討ワーキンググループ」を急きょ開催。汚染水と混じり合った地下水の海への漏出を防ぐために、水抜き用の井戸を掘って地下水をくみ上げる方策を早急に講じるように東電に求めた。
のしかかる40万トンの汚染
東電にとって、高濃度の放射性物質を含む汚染水の処理は最大の難題だ。原子炉の注水冷却や地下水の流入で放射能汚染水は増大の一途をたどっている。現在、増設を続けてきた鋼鉄製のタンクに約32万トンの汚染水を貯蔵しているほか、原子炉建屋の地下に約7万5000トンの滞留水が残っている。さらにタービン建屋から海側に延びているトレンチ(坑道)内にも1万数千トンの高濃度の汚染水が存在している。合わせると40万トンにのぼる。
東電は原発事故直後の2011年4月に高濃度の汚染水が海に流出した際に、坑道と海をつなぐ部分にセメントを投入して流出を食い止めた。しかし、それから2年たった今年6月になって再び海水や海から近い観測用の井戸から高濃度の放射性物質が検出された。
にもかかわらず東電は参議院選挙終了後の7月22日になるまで、汚染水が海に流れ出している事実を認めなかった。その後も流出を食い止めるための有効な手だてがないまま、地下水の水位は上昇を継続。8月2日の会合で座長を務めた更田豊志・原子力規制委員会委員は、「止水対策が機能していないと考えて対策を打つべき。とにかく早く、地下水をくみ上げるべきではないか」と参加メンバーである東電の幹部に求めた。もちろん東電はこの間に何もしてこなかったわけではなかった。7月8日には「水ガラス」と呼ばれる特殊な薬剤を注入する地盤改良工事に着手した。しかし、大雨も続いて地下水位が急速に上昇した結果、「地下水は止水対策(水ガラス)の上端部を乗り越えて海に流れ出している可能性がある」(更田委員)。
8月2日の会合では、参加メンバーから東電の幹部に厳しい意見が相次いだ。
「とにかく止水対策を急いで欲しい。手に余るのであれば、何が作業のスピードアップを妨げているのか、速やかに声を上げて欲しい。できませんでしたではすまされない」(更田委員)。
「1、2号機だけでなく、3、4号機前でも(地下水に含まれる)放射線の値が高いことから、同じ問題が起きているかもしれない。スピードとカバレッジをしっかりやらないと同じ失敗を起こしかねない」(安井正也・原子力規制庁緊急事態対策官)。
火中の栗を拾う原子力規制委
規制委側は、東電が8月末までに着手するとしていたポンプ設置による地下水のくみ上げを前倒しで実施するように強く要請した。
そもそも規制委は電力会社を監視する立場にあり、対策実施はあくまでも事業者である東電の責任だ。汚染水の問題については「われわれが踏み出す領域かについては議論がある」と更田委員は会合で述べている。それを承知で規制当局が火中の栗を拾わざるを得ないところまで、事態は深刻度を増している。
東電の「お手上げ」を恐れる、原子力規制委
放射能汚染水の流出阻止へ、異例のテコ入れ
岡田 広行 :東洋経済 記者
2013年08月03日
東京電力の対策の遅れを指摘する原子力規制庁幹部
東京電力・福島第一原発の放射能汚染水が海に流れ出している問題で、原子力規制委員会と原子力規制庁が、有効な手だてを欠く東電へのテコ入れに乗り出した。
規制委は8月2日夕刻に「汚染水対策検討ワーキンググループ」を急きょ開催。汚染水と混じり合った地下水の海への漏出を防ぐために、水抜き用の井戸を掘って地下水をくみ上げる方策を早急に講じるように東電に求めた。
のしかかる40万トンの汚染
東電にとって、高濃度の放射性物質を含む汚染水の処理は最大の難題だ。原子炉の注水冷却や地下水の流入で放射能汚染水は増大の一途をたどっている。現在、増設を続けてきた鋼鉄製のタンクに約32万トンの汚染水を貯蔵しているほか、原子炉建屋の地下に約7万5000トンの滞留水が残っている。さらにタービン建屋から海側に延びているトレンチ(坑道)内にも1万数千トンの高濃度の汚染水が存在している。合わせると40万トンにのぼる。
東電は原発事故直後の2011年4月に高濃度の汚染水が海に流出した際に、坑道と海をつなぐ部分にセメントを投入して流出を食い止めた。しかし、それから2年たった今年6月になって再び海水や海から近い観測用の井戸から高濃度の放射性物質が検出された。
にもかかわらず東電は参議院選挙終了後の7月22日になるまで、汚染水が海に流れ出している事実を認めなかった。その後も流出を食い止めるための有効な手だてがないまま、地下水の水位は上昇を継続。8月2日の会合で座長を務めた更田豊志・原子力規制委員会委員は、「止水対策が機能していないと考えて対策を打つべき。とにかく早く、地下水をくみ上げるべきではないか」と参加メンバーである東電の幹部に求めた。もちろん東電はこの間に何もしてこなかったわけではなかった。7月8日には「水ガラス」と呼ばれる特殊な薬剤を注入する地盤改良工事に着手した。しかし、大雨も続いて地下水位が急速に上昇した結果、「地下水は止水対策(水ガラス)の上端部を乗り越えて海に流れ出している可能性がある」(更田委員)。
8月2日の会合では、参加メンバーから東電の幹部に厳しい意見が相次いだ。
「とにかく止水対策を急いで欲しい。手に余るのであれば、何が作業のスピードアップを妨げているのか、速やかに声を上げて欲しい。できませんでしたではすまされない」(更田委員)。
「1、2号機だけでなく、3、4号機前でも(地下水に含まれる)放射線の値が高いことから、同じ問題が起きているかもしれない。スピードとカバレッジをしっかりやらないと同じ失敗を起こしかねない」(安井正也・原子力規制庁緊急事態対策官)。
火中の栗を拾う原子力規制委
規制委側は、東電が8月末までに着手するとしていたポンプ設置による地下水のくみ上げを前倒しで実施するように強く要請した。
そもそも規制委は電力会社を監視する立場にあり、対策実施はあくまでも事業者である東電の責任だ。汚染水の問題については「われわれが踏み出す領域かについては議論がある」と更田委員は会合で述べている。それを承知で規制当局が火中の栗を拾わざるを得ないところまで、事態は深刻度を増している。