事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「ヤクザと家族 The Family」(2021 スターサンズ=KADOKAWA)

2024-05-07 | 邦画

製作総指揮を担当した河村光庸(みつのぶ)さんはまことにすごい製作者で、配給会社スターサンズをつくった人でもある。かかわった作品がとんでもないのだ。

「牛の鈴音」「息もできない」「かぞくのくに」「あゝ、荒野」「新聞記者」「i-新聞記者ドキュメント」「宮本から君へ」「茜色に焼かれる」「パンケーキを毒見する」「妖怪の孫」そして「」。

キネマ旬報ベストワンや日本アカデミー賞とりまくり。そしてそれ以上に、題材のチョイスが抜群であることに気づく。いったい誰が障がい者を何名も惨殺する映画や、ときの総理をアニメまで使って揶揄する映画、北朝鮮からやってきた兄とその追跡者なんて映画をつくろうと思うだろう。思ったとしても作品として完成させ、ヒットさせたのは河村さんだからこそだ。

監督の藤井直人はそんな河村さんを信頼し、現在のヤクザがどんな状況なのかを描いて見せた。

要するに、反社と呼ばれる彼らに、人権など存在しないのである。それがいいとか悪いとか以前に。銀行に口座も開けない、アパートも借りられない……それを後押ししたのはわたしたち“世間”だ。もう誰も身内のトラブルをやくざに解決してもらおうという人はいない。

捨て鉢な生活をしている山本(綾野剛)は、ヤクザだった男の未亡人である愛子(寺島しのぶ)が営む焼肉屋で、柴咲組の組長、柴咲博(舘ひろし)の命を救う。山本を気に入った柴咲は、組に入らないかと誘うが、山本は断る。しかし、山本が命を落とすところだったのを救ったのは、柴咲の名刺のおかげだった……

漢(おとこ)をみがくのがヤクザだと信じていた山本にとって、懲役を終えてでてきた現在のヤクザのありようは信じられないものだった。組を抜けるものは後を絶たず、残ったものたちもシラスウナギの密漁で生計を立てているのだ。

そして、ヤクザであることをやめようとしない山本に、恋人だった由香(尾野真千子)や子分だった竜太(市原隼人)、そして愛子の息子である翼(磯村勇斗)は影響を受けていく……。

藤井演出は、例によって役者たちからみごとな演技を引き出している。傑作。そしてこれらの傑作を遺して、河村さんは亡くなってしまった。享年72才。早すぎる。

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