夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『電信柱エレミの恋』

2010年11月16日 | 映画(た行)
『電信柱エレミの恋』
監督:中田秀人
声の出演:奥村知子,渡辺一志,工藤恭造,門脇俊輔他

8年の歳月をかけて制作された、45分間のストップモーションアニメ。
ストップモーションアニメとは、最古の部類に入るアナログSFX技術で、
造形物を少しずつ動かして1コマ毎に撮影し、
1秒間に何枚もの画像を連続させて映像にする技法だそうです。
パラパラ漫画の立体版をイメージすればいいのでしょうか。

本作は、人物、小道具、背景のすべてを手作業で作り上げた渾身の作品。
特典映像のメイキングを見ると、さらに虜になります。
何度でも観たい作品となりました。

満月の夜、故障してしまった電信柱のエレミ。
光に向かって歩き出す不思議な夢を見たのは、
おそらく三途の川を渡りかけていた頃。
夢から覚めると、目の前には青空電力の作業員タカハシがいた。

タカハシが修理を施してくれたおかげで、すっかり元気になったエレミ。
どうやらタカハシにひと目ぼれしてしまったようで、
彼のことが頭から離れない。

駄目なことだと思いつつも、
タカハシと話してみたくなったエレミは電話回線に侵入。
人間のふりをして、タカハシに電話をかける。
最初はエレミからの電話に困惑するタカハシだったが、
やがて電話がかかるのを待ち遠しく思うように。
毎日の会話を幸せに感じる。

ところが、そのことが電信柱の間ですぐに噂になる。
エレミは電信柱会議にかけられ、
タカハシとの別れを決断するように迫られるのだが……。

電信柱と人間の恋だなんて、アイデアも素敵ですが、
何より造形物が人を惹きつけて離しません。
電信柱のある風景のなか、将棋を差す親父、ビラ貼りの二人組、
遊具に揺られる子どもたち、電線に止まる小鳥。
赤い円柱形の郵便ポスト、蹴り飛ばされる缶、亀の餌のレタス。
こういったものがすべて丁寧に作られていて、
見ているだけでわくわくします。黒電話の音も懐かしく。

造形物のなかで秀逸なのは、
流し台に置かれた湯吞みに注いだ水が溢れ出すさま。
メイキング映像でも目が釘付けになりました。

また、心ない運転者に轢かれた猫を見つけて
心を痛める小学生の女の子が取る、ある行動。
このシーンのメイキング映像にも和みました。

ラストシーンにじんわり。
tico moonによる音楽もぴったりで、心が洗われます。

8年もかけて1本完成させたら、
次はいったいどうなるんだろうと心配ですが、
今後を楽しみにしています。

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