小田原周辺のマイナースポットや些細な出来事を少しずつ
小田原の端々



趣味といえる程ではないが小説を読むのが好きで今年は200冊以上の小説を読んだ。小田原ゆかりの小説家の作品では小田原が舞台になることがあるが、話題になるような小説の中で小田原が登場するのは伊豆や箱根へと出かける際の地名や車窓からの描写程度がほとんどであるように思う。先日読んだ村上春樹の小説の中では小田原が舞台となっている場面が割合多めに書かれていた。村上春樹の長編小説「ダンス・ダンス・ダンス」は1988年に刊行後、20カ国以上の翻訳され300万部近く発行されたベストセラー。文庫本上下巻で約700ページ中の15ページが小田原が舞台となっている。先日、小説の舞台になった小田原市内の各所を巡った。全体のストーリー内容は割愛して小田原が登場する最初の場面が小田原城の動物園。主人公が13歳の霊感のある少女と箱根の別荘から小田原へと車で降りてきて映画が始まる時間までの暇つぶしとして動物園を訪れる。小説が刊行された1988年当時はまだフルラインナップで動物が揃っていたように記憶しているが、小説に描かれているのは猿だけ。小説中に「お城の中に動物園のある町なんて小田原以外にはまずないだろう。変わった町だ」と小田原の感想を述べた部分があるが、子供の頃は身近に動物園があることが普通だったのであまり変わっているとは思っていなかった。刊行から25年以上が経過し動物園で残っているのは猿の檻だけになってしまったが小説の舞台が今も残っているのでとりあえず良かった。動物園を後にした主人公たちが向かうのは二番館という名称の映画館。もちろん架空の名称の映画館だが、城址公園から徒歩で行ける映画館はその当時、オリオン座・中央劇場・東映・東宝の4館くらい。登場する二番館は邦画を上映していて「映画館は言うまでもなくがらがらだった。椅子は固く、押し入れの中にいるみたいな匂いがした」と書かれている。その描写に一番見合うのはおそらく東映ではないかと思う。東映だった建物はすでに解体され跡地は和菓子屋さんの店舗になっている。映画を見ていて気分が悪くなった少女を連れて主人公は国府津の海岸へと向かう。国府津海岸の描写は釣り人と西湘バイパスを往来する車のタイヤ音など。良くも悪くも描かれてはいない。国府津海岸での場面の大半は堤防に寄りかかって少女と主人公が話す場面。小説の中では話が大きく展開する大事な場面だが実際に訪れると実に地味なロケーション。国府津海岸の堤防はここ数年の嵩上げ工事のため大部分の区間が新しくなっている。小説の描写と実際の場所とのギャップやロケーション探しは意外と楽しい。今年読んだ直木賞受賞の小説内でも小田原が数ページほど舞台となったものがあるのでまた、そんな場所を巡ってみたいと考えている。

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