フェンネル氏の奇妙な生活

気付いた世界の中の小さな出来事と水彩画と時たま油絵と思いついたことを爺さんが一人語りいたします。

2008-10-03 21:29:05 | Weblog
空を刷いたような雲がでていた。季節は確実に変わったんだなと思った。昨日バジルが私達の時代が終ろうとしているといってたのをふと思い出した。面白おかしかった俺達の時代か・・・。


   のちのおもひに

                       立 原 道 造



 夢はいつもかへつて行つた 山の麓のさびしい村に
水引草に風が立ち

 草ひばりのうたひやまない

 しづまりかへつた午さがりの林道を



 うららかに青い空には陽がてり 火山は眠つてゐた

 ───そして私は

 見て来たものを 島々を 波を 岬を 日光月光を

 だれもきいてゐないと知りながら 語りつづけた……



 夢は そのさきには もうゆかない

 なにもかも 忘れ果てようとおもひ

 忘れつくしたことさへ 忘れてしまつたときには



 夢は 真冬の追憶のうちに凍るであらう

 そして それは戸をあけて 寂寥のなかに

 星くづにてらされた道を過ぎ去るであらう




こんな詩を読みたくなって岩波の文庫本を探した。道造の3倍もの年になって道造の一行も書けない。クリスタルのような、ヒヤシンスのようなその人生の一端にも触れないで僕らの時代は終るのでしょうか。いいえ、僕は、終るのではないと思います。昨日までの時代は終っても今日からの時代が目の前にある。そして、その時代は共有できない個人的な時代。透き通った感覚と言うか初めて自分が選んで昔から好きだった世界へ戻っていくように道造が目の前にある。・・と最近またぞろ道造なのです。
コメント
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