ずいぶん前に、「犬も猫も、やっぱり家族」と題して京都新聞に寄稿したことがあります。1999年3月9日号です。当時、愛犬チョコと暮らしていましたが、副題「共生できる社会をーー処分される膨大な命を救おう」。「提言 オピニオン解説」シリーズ欄に寄せた文章です。再録します。
人間と、犬とのつきあいは古い。数万年前、洞窟や岩陰を住居として移動生活をおくっていた当時のひとたちは毎夜、猛獣の脅威におびえ、不安な日々を過ごしていた。そんな彼らに安らかな睡眠を与えてくれたのが、犬である。深夜、熟睡していても犬が外敵を察知してほえ、起こしてくれる。安眠の確保のために犬の家畜化は始まったのであろう。
まず番犬となった犬はその後、猟犬として豊かな食生活をひとにもたらす。2100年ほど前には、盲導犬も誕生している。
犬はさまざまな分野で活躍する。軍用犬、警察犬、荷役犬、そり犬、牧羊犬、水中作業犬、レース犬、闘犬、聴導犬、麻薬捜査犬、遭難救助犬、災害救助犬、介護犬…。
ちかごろ注目されている療法に、アニマルセラピーがある。犬や猫などを介在に、老人ホームや小児病院、精神科病棟などでの治癒にいかすというあたらしい試みである。横浜の特別養護老人ホーム「さくら苑」では、犬を飼ったところ当初四割いた寝たきりの老人がゼロになった。犬や猫を飼うひとは、概して健康で長寿である。
なぜこのように大きな成果を犬や猫がもたらすのか?
原因のひとつは、リラックス効果だと思われる。ヒトとイヌの最初の出会いで触れたように、われわれの祖先は犬を得ることによって、はじめて安眠や安らぎを手にした。現代社会では無用のストレスが増え、こころの触れ合いが不足する。孤独な人間に愛情や安らぎを思い出させるのが、犬や猫などの家庭動物たちである。
しかし、こころない飼い主も多い。保険所に持ち込まれ処分される犬猫たちは膨大な数にのぼる。西京区老ノ坂にある京都府動物管理センターで話を聞いた。府内の保険所に収容された犬猫(京都市を除く)は、最後にはこのセンターに集結し処分される。1997年度、犬二千六百匹、猫八千六百匹ほどが、二酸化炭素で安楽死処分され、直後に焼却されている。
当時の所長、井上羲章氏は「猫は生まれたばかりの乳飲み子が九割ほど。飼い主の安易な意識に反省を求めます。外飼いをするなら避妊や去勢も必要。自由繁殖に注意し、飼い主は責任と愛情をつねに考えてほしい」。犬も同様で、「引っ越しで飼えなくなったから処分してくれ」「ハスキー犬がこんなに大きくなってしまい、力が強すぎて困っている」「病気で助かりそうもないから引きとってくれ」など、身勝手な主人が多すぎる。
府内にはもう1カ所、南区上鳥羽に京都市家庭動物相談所がある。京都市内の保険所に収容された犬猫を、ここでは年間に犬九百匹、猫五千匹以上を殺処分している。ふたつの施設で年間に犬と猫、合わせて二万匹近くのいのちが奪われている。反面、両施設では子犬のあっせんも行っている。利用を望む。
犬猫の去勢や避妊に対する抵抗感はあろう。生殖機能を奪うことについて、特に日本人の反発心は独特のものがある。しかし、生まれる子どもの生命に責任が持てないのであれば、手術は受けるべきだ。
府内では京都市民にのみ、手術補助金を受ける制度がある。他の市町村にも同制度の制定を期待するが、何よりも大切なことは、家庭動物と人との共生を当然のこととしたうえでの、社会ルールの確立ではなかろうか。
ずい分生意気な文章を書いたものです。殺処分数の全国統計データをネットで調べてみたので記します。
<1997年度> 犬36万匹、猫29万匹。計65万匹。ただ京都府市データは上記の通り、猫が犬の4倍ほどです。府市センターには当時、直接問い合わせましたので正確であろうと思っています。この全国の数字がどれくらいの確度であるのか、いつか確認したいと思っています。
<2009年度> 犬6万6千匹、猫17万3千匹。計239,256匹。やはり猫が犬の3倍に近い。合計数は12年間で40万匹ほど減ったわけですが、24万匹はたいへんな数です。人間でいえばほぼ同じ人口の市は、広島県呉市、大阪府寝屋川市、佐賀県佐賀市、青森県八戸市、埼玉県春日部市など。このような市の人間全員の生命が消えてしまうのと同じなのです。
<2011年10月21日 南浦邦仁>
人間と、犬とのつきあいは古い。数万年前、洞窟や岩陰を住居として移動生活をおくっていた当時のひとたちは毎夜、猛獣の脅威におびえ、不安な日々を過ごしていた。そんな彼らに安らかな睡眠を与えてくれたのが、犬である。深夜、熟睡していても犬が外敵を察知してほえ、起こしてくれる。安眠の確保のために犬の家畜化は始まったのであろう。
まず番犬となった犬はその後、猟犬として豊かな食生活をひとにもたらす。2100年ほど前には、盲導犬も誕生している。
犬はさまざまな分野で活躍する。軍用犬、警察犬、荷役犬、そり犬、牧羊犬、水中作業犬、レース犬、闘犬、聴導犬、麻薬捜査犬、遭難救助犬、災害救助犬、介護犬…。
ちかごろ注目されている療法に、アニマルセラピーがある。犬や猫などを介在に、老人ホームや小児病院、精神科病棟などでの治癒にいかすというあたらしい試みである。横浜の特別養護老人ホーム「さくら苑」では、犬を飼ったところ当初四割いた寝たきりの老人がゼロになった。犬や猫を飼うひとは、概して健康で長寿である。
なぜこのように大きな成果を犬や猫がもたらすのか?
原因のひとつは、リラックス効果だと思われる。ヒトとイヌの最初の出会いで触れたように、われわれの祖先は犬を得ることによって、はじめて安眠や安らぎを手にした。現代社会では無用のストレスが増え、こころの触れ合いが不足する。孤独な人間に愛情や安らぎを思い出させるのが、犬や猫などの家庭動物たちである。
しかし、こころない飼い主も多い。保険所に持ち込まれ処分される犬猫たちは膨大な数にのぼる。西京区老ノ坂にある京都府動物管理センターで話を聞いた。府内の保険所に収容された犬猫(京都市を除く)は、最後にはこのセンターに集結し処分される。1997年度、犬二千六百匹、猫八千六百匹ほどが、二酸化炭素で安楽死処分され、直後に焼却されている。
当時の所長、井上羲章氏は「猫は生まれたばかりの乳飲み子が九割ほど。飼い主の安易な意識に反省を求めます。外飼いをするなら避妊や去勢も必要。自由繁殖に注意し、飼い主は責任と愛情をつねに考えてほしい」。犬も同様で、「引っ越しで飼えなくなったから処分してくれ」「ハスキー犬がこんなに大きくなってしまい、力が強すぎて困っている」「病気で助かりそうもないから引きとってくれ」など、身勝手な主人が多すぎる。
府内にはもう1カ所、南区上鳥羽に京都市家庭動物相談所がある。京都市内の保険所に収容された犬猫を、ここでは年間に犬九百匹、猫五千匹以上を殺処分している。ふたつの施設で年間に犬と猫、合わせて二万匹近くのいのちが奪われている。反面、両施設では子犬のあっせんも行っている。利用を望む。
犬猫の去勢や避妊に対する抵抗感はあろう。生殖機能を奪うことについて、特に日本人の反発心は独特のものがある。しかし、生まれる子どもの生命に責任が持てないのであれば、手術は受けるべきだ。
府内では京都市民にのみ、手術補助金を受ける制度がある。他の市町村にも同制度の制定を期待するが、何よりも大切なことは、家庭動物と人との共生を当然のこととしたうえでの、社会ルールの確立ではなかろうか。
ずい分生意気な文章を書いたものです。殺処分数の全国統計データをネットで調べてみたので記します。
<1997年度> 犬36万匹、猫29万匹。計65万匹。ただ京都府市データは上記の通り、猫が犬の4倍ほどです。府市センターには当時、直接問い合わせましたので正確であろうと思っています。この全国の数字がどれくらいの確度であるのか、いつか確認したいと思っています。
<2009年度> 犬6万6千匹、猫17万3千匹。計239,256匹。やはり猫が犬の3倍に近い。合計数は12年間で40万匹ほど減ったわけですが、24万匹はたいへんな数です。人間でいえばほぼ同じ人口の市は、広島県呉市、大阪府寝屋川市、佐賀県佐賀市、青森県八戸市、埼玉県春日部市など。このような市の人間全員の生命が消えてしまうのと同じなのです。
<2011年10月21日 南浦邦仁>