夏の風景 水本爽涼
(第十五話) 怖い話
夏といえば怪談話だ。最近の子供は文明進歩が災いしてか、余り怖がらなくなった。そこへいくと、僕は昔人間なのか、この手の話は、ゾクッとして、めっぽう好きだ。
「昔は、よく見に行ったなあ~」
「そうでした…」
今夜もじいちゃんと父さんが風呂上がりの一局を指している。僕は今、上がったところで、ビールをキュ~っと…という訳にはいかないから、ジュースをグビィ~っと堪能している。黙ってお二人の話に耳を傾けていると、どうもお化けの話のようだった。
「怪談牡丹灯籠…あれは怖かったが、少し艶っぽくてよかったですね」
「ああ、そうだったな…。四谷怪談は、このわしでも帰りにゾクッ! としたぞ。ワッハッハッハッ…」
豪快に笑いながらそう言うと、じいちゃんは生ビールのジョッキをグビグビッ! と飲んだ。そこへ母さんがフゥ~! っと溜息をつきながら出てきた。愛奈(まな)を盥(たらい)で洗い、ようやくこうやく寝かしつけたところだ。
「正也! お茶碗!」
忙しいと省略して命じられる。要は常任幹事のようになってしまった食前の準備と運搬作業を指す。
「は~~い!」
母さんには弱い僕だから、そこは可愛く愛想をふり撒いて返事した。
「お義父さま~、お食事になさって下さいましなぁ~! あなたもね!」
ましなぁ~と来たか…と僕は思ったが、毎度のことだから、免疫でそれ以上に感情は動かなかった。父さんも毎度のことながら、カレーの福神漬けのように付け添いで呼ばれた。そのとき、愛奈がオギャ~! っと泣きだした。母さんは慌てて幼児ベッドの方へ走っていった。ゾクッ! ではないものの、僕は怪談以上にドキッ! と怖かった。