夏の風景 水本爽涼
(第十三話) 抵抗力
三種混合ワクチンとか、いろいろと愛奈(まな)も予防注射をされ、散々な目にあっているのだが、これも黴菌(バイキン)だらけの世で生きていく備えなのだから可哀そうだが仕方ないように思う。そういう僕だって今まで生きてきた長い人生の間で散々な目にあってきたのだ。そして今も予防接種で散々な目にあっている。身体の抵抗力は新しい免疫で強まる訳だが、僕には一つ研究したい課題が生じた。というのは、幾つぐらいまで注射で泣くか・・という課題だ。それは個人によって違うだろう、と言われればそれまでだが、大よその年齢を探りたいと思う訳だ。これはある意味、注射の恐怖に対する抵抗力の推移考察と言えるのではあるまいか。
「馬鹿者! お前は…」
父さんがまた、汗を拭くじいちゃん雷の直撃を受けた。そういや夏だから、他の季節よりよく落雷するようだ。父さんは、じいちゃんの落雷にはかなり免疫が強まっているようで、余程のことがない限り、これくらいのお叱りではビクッ! ともしない。要は抵抗力が備わっている訳だ。そこへいくと僕はまだまだで、母さんやじいちゃんには愛想笑いとかでご機嫌を伺っているのだから駄目だ。
おしめを替えられ、愛菜が泣き止んだ。彼女の場合は、無遠慮に不愉快を好きなだけ発散する泣き、だから、他者の攻撃による注射での泣きとは一線を画すだろう。
「すみません、うっかりしてました」
父さんは、じいちゃんの落雷に対し素直に謝ることで事なきを得た。ヒラリ! と躱(かわ)す術(すべ)も抵抗力の一つなのかも知れない。現に、じいちゃんはそれ以上、突っ込まなかった。僕にじいちゃん雷が落ちた記憶は今までにないが、母さんのお叱りは時に触れ、有難く頂戴している。とはいえ、この僕にも抵抗力が備わったせいか、母さんのお叱りも、さほどは苦にならなくなった。すなわち、要領を得て、対応する免疫が出来た訳だ。ただ、じいちゃんに対応する抵抗力は未(いま)だ備わっていない。これは僕に限らず、父さんや母さんにも言えることで、ただ一人、妹の愛奈だけは抵抗力があるとは言えないけれど、じいちゃんに怯(ひる)まず泣き続ける強いお方だ。