水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

春の風景 (第十九話) 決めごと

2013年09月10日 00時00分00秒 | #小説

        春の風景       水本爽涼

    (第十九話) 決めごと        

 妹が生まれてからというもの、我が家の決めごとも少しずつ変化している。たとえば、湧水家特有の一か月ずつ交代する風呂番係である。これを初めて読まれる方にも分かりやすく解説すれば、最後の終い湯の番だ。この当番の者は後片づけの責任者として風呂でゆったりと寛(くつろ)いだ後、湯を落としてゴシゴシ! と掃除の労働に汗することになる。だから、何のために入った風呂なのか分からない・・とは以前、僕も考えた。で、聡明な知恵を働かせた結果、僕の場合は先にゴシゴシ! と床を磨いた後で湯に浸かり、浴槽で鼻歌を♪~~♪と、うなることにした。そして十分、堪能した後で上がる直前に湯を浴槽から大部分抜き、バシャバシャとタオルで洗ってその湯を抜いて、はい! お終い・・と、まあこうなる訳だ。
 我が家の風呂番の由来は以前にも書いたと思うが、男女同権の時代に、いつも母さんが終い湯では、いかがなものか…と僕が提案して可決された案件だった。ところが、コウノトリが愛奈(まな)を連れてきた。この出現で母さんはそれでなくても忙しい上に、愛奈に吸われたり洩(も)らされたりと、相当きつくなった。それで、僕がふたたび提案説明し、当分の間は母さんを風呂番から免除するという決定が湧水家の常任委員会で承認されたのである。これがまず変化した決めごとの一つだ。他にも、母さんが後片づけしていた食後の食器の運搬がセルフになったことだ。ただ、食前の食器の準備は僕の役目になってしまっていた。それまでも手伝うことはあったが、決めごととして強制されたものではなかったのだ。この役目はだれが決めたことでもなかったが、まあ仕方ないか…と文句を言わなかったせいで常任委員長のようなことになってしまった訳である。準備を仕切るのはいいが、食事にします! とかの強制力がない点は過去の政治と同じで、まったく拘束力がなく無意味でつまらなく思えたが、愛奈の可愛い顔を見るにつけ、妹のためだからまあ仕方ないか・・という寛容の気分に変わっていった。さて、他の決めごとの変化としては、父さんとじいちゃんが指す将棋どきの一杯準備だ。そうそう、マイナス面だけではなくプラス面もある。今年の桜は今までにはなかった愛奈を含めた家族全員での賑やかな花見となった。これは、じいちゃんの提案で、年に一回、恒例にすることが可決されたのだ。この先も我が家の決めごとは愛奈がらみで変わることが予想されるが、僕と違って怒られない偉いお方なのだから諦(あきら)めるしかないだろう。あっ! また愛奈が泣き始めた。
「… …」
 誰も何も言わず固まり、母さんだけが小走りして動いた。この場合の固まるのも決めごとだ。


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