秋の風景 水本爽涼
(第十三話) 栗拾(ひろ)い
野山も色づき、すっかり秋景色が板についたある日、僕はじいちゃんと栗ひろいに出かけた。この行事はキノコ採りと同じで恒例だから、とり分けて語ることでもないのだが、まあ語りたいと思う。
「正也、やってくれ!」
「うん!」
なんのことだ? と思われる方も多いと思うので解説すると、じいちゃんが栗を拾(ひろ)い集め、僕はそのイガ栗を絶妙の足捌(さば)きで栗出しする役目を仰せつかったのだ。手では痛くて持てないイガ栗も、両足のコツで上手く剥(む)けるのである。
「そうそう、その調子!」
じいちゃんは満足げに僕の足元を見たあと、また落ちて散らばっている栗を集め始めた。しばらくすると、師匠から、「それくらいで、よかろう…」とストップがかかった。剥かれた栗は容易(たやす)く袋に入った。そしてその夜、母さんによって三分の二ほどは栗ご飯に調理され、僕達の腹へと収納されたのである。ただ、愛奈(まな)だけは収納できず、離乳食と母さんの乳以外は駄目だったから気の毒に思えた。こんな美味いものを…と思いながら僕は乳育児ベッドを見た。愛奈と語り合いながら食べる日も、そう遠くないだろう。あの泣き加減からして、かなりの好敵手に育つことが予想されたが、半ば嬉(うれ)しい心配でもあった。
「なかなかのものです、未知子さん。今年も美味いですよ」
「そうですか、ほほほ…」
ほほほ…は余計だろう、とは思えたが心に留(とど)めた。
「うん! 確かに…」
父さんもじいちゃんに追随した。まあ父さんの場合は、追随しないことの方が奇跡なのだが…。栗のようにトゲを出せば、恐らくはじいちゃんによって火中へ放り込まれ、熱さのあまり弾(はじ)けてしまうぐらいのものだろう。そこへいくと愛奈栗は誰も皮を剥くことすら出来ず、自然放置の状態を維持している。タマとポチは剥かずに持ち帰った栗をボールに見立てて遊ぶ。優雅、この上ない。