水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

暮らしのユーモア短編集-29- 細々(ほそぼそ)と

2018年06月13日 00時00分00秒 | #小説

 大きくて強く、向かうところ敵なし・・というのが、世の中を生きる私達にとって安心でき、目指すところだろう。押しただけで倒れそうなひ弱な組織はどうしても煙(けむ)たがられる。むろん、健康面においても同様で、頑健(がんけん)な身体であるに越したことはない・・と一般では思われるところだ。ところが、実はそうでもないのである。細々(ほそぼそ)とした身体でありながら長生きしたり、頑健な身体でポックリと早死にする・・といった事例が事実あるのだ。それは組織でも同じで、細々と商(あきな)う老舗(しにせ)が続き、えっ! あの企業が倒産っ! と、耳を疑(うたが)いたくなる大企業が消え去るといった事実が厳然(げんぜん)と存在するのである。
「元久保さん、どうされましたっ!? そんなに、おやつれになって」
「ああ、これは伊井さん! いや、私は至って体調がいいんですよっ!」
「そうなんですか?」
「ええ、見た目とは逆で申し訳ないんですが…」
「ははは…お謝(あやま)りになることはないと思いますがっ。それにしても、細々とされた身体ですが…」
「ええ、太るとダメな体質なんです、私」
「そういや、小遅川(こおそがわ)さん、お悪いとか…」
「ええ~っ!! それは初耳です。先だってお会いしたときは、よく太られて、美味(おい)しそう、…いや、失礼! 健康そうにお見かけしたんですがっ」
「分からないもんですねぇ~」
「はい、確かに…」
 二人は沈黙して頷(うなず)いた。
 細々と・・は、安全の信号[シグナル]なのかも知れない。

                                完


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