水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

暮らしのユーモア短編集-34- うるさい

2018年06月18日 00時00分00秒 | #小説

 日々、暮らしていると、うるさい…と思うことがよくある。この、うるさい…と思う気分は、五月蝿(うるさ)いと煩(うるさ)いの二(ふた)通りに区別される。前者は言うまでもなく、騒音めいて喧(やかま)しい…と思う場合で、後者は物事をするのが億劫(おっくう)になる気分である。
 とある家庭の一場面である。勉強部屋で小学校4年になった姉が予習らしきことをしている。その隣(とな)りの居間では、ピッカピカの1年生になった弟が煎餅(せんべい)をバリバリッ! と齧(かじ)りながら畳(たたみ)の上に横柄(おうへい)に寝転(ねころ)び、楽しみにしていた戦隊もののテレビ番組を観ている。
「五月蝿いわねっ!! ちょっと、音、小さくしてよっ!!」
「チェッ! …」
 小さく舌打ちして、弟は不承不承(ふしょうぶしょう)、リモコンの音声を下げる。すっかり集中力を削(そ)がれた姉は、空腹(くうふく)を覚(おぼ)え、予習を続けることが煩くなる。
「ママ、夕飯、まだっ!!」
 言わなくてもいいのに、姉はキッチンへ聞こえるよう、大声を出す。
「五月蝿いわねっ!! もう、出来るわよっ!!」
 母親はヒステリックな声をキッチンから勉強部屋へ返す。姉の声に慌(あわ)てたものだから、母親は炒(いた)めものの惣菜(そうざい)を焦(こ)がしてしまう。一端(いったん)は作り直そう…と思ったものの、母親は煩い…と気分が変わり、携帯で店屋物(てんやもの)を注文する。
「ただ今っ!」
 そこへ、職場の上司に散々(さんざん)、嫌味(いやみ)を言われ、五月蝿いっ! と聞いていた父親が帰宅する。
 人々は、うるさい・・に向かい合って暮らしているのだ。^^

                                完


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