水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

暮らしのユーモア短編集-35- 制(せい)する

2018年06月19日 00時00分00秒 | #小説

 制(せい)する・・という言葉がある。この言葉は相手の行動を制圧(せいあつ)して優位な立場に自(みずから)らが立つことを意味する。ただ戦闘によって相手を征服(せいふく)する征するとは意味が異(こと)なる。外的な主張はなく、要は、自己満足を気分で感じるだけ・・というのが制するなのである。
 とある老人会で語り合う二人の老人の会話である。
「最近、耳が遠くなりましてな。息子が補聴器を買ってくれました」
「ほう! それはようございました」
「それが耳障(みみざわ)りで、余りよくないんですわ」
「耳障り? 聴こえないんですか?」
「いや、そうじゃないんです…」
「? と、言いますと?」
「付け心地(ごこち)が今ひとつ…」
「なるほど…。それはお困りですな」
「はいっ! 態々(わざわざ)、買ってくれた息子の手前、付けない訳にもいかず…」
「息子さんの手前だけでも、ということでどうです?」
「はあ…」
「あっ! 私、用を思い出しましたので、これでっ!」
 不意に立った老人は、尿意を制することが出来ず、足早(あしばや)にトイレへと消えた。
 暮らしの中の諸事では、制する・・ことが多く、厄介(やっかい)である。^^

                                完


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