水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

暮らしのユーモア短編集-42- スカッ!

2018年06月26日 00時00分00秒 | #小説

 誰しもスカッ! とした気分になりたいものだ。ムシャクシャするような出来事でもあれば、尚更(なおさら)である。それは何も出来事に限ったことではない。暑さに向う季節の外作業や仕事は、どうしても汗が吹き出るから、スカッ! とするには、それ相応の事前工作、早い話、綿密(めんみつ)に練(ね)った用意周到(よういしゅうとう)な行動計画が必要・・ということに他ならない。
 鮨川(すしかわ)食品の営業一課である。
「暑い中を申し訳ないが、鯖味(さばみ)物産までひとっ走(ぱし)りしてくれませんか、飯洲(いいず)さん! そのまま帰ってくれて結構だから…」
「分かりました、課長」
 万年課長の根多(ねた)に頼まれた幹部候補生として新(あら)たに配属(はいぞく)された登路(とろ)は快(こころよ)く引き受けた。登路の脳裏(のうり)には、スカッ! とするための綿密な行動計画が一瞬で浮かんでいたのである。その計画とは、次のようなものだった。
 1.今が4時過ぎ→鯖味物産まで20分だから→4時半には着く→書類を渡して社内の挨拶回りに30分→5時に社を出られる。
 2.帰宅までが30分→風呂でスカッ! と、汗を流す→よく冷えた美味(うま)い生ビール→ツマミは鯖味物産前で買うジュ~シィ~な串カツ
 3.ほろ酔い気分で寛(くつろ)ぎ、完全にスカッ! とする。
 この1.~3.は一見(いっけん)、単純な発想に思えるが、そこはエリート幹部候補生の登路の立てた計画だから抜け目がなかった。
「あっ! 母さん? 俺。5時半頃には帰るから、バスにお湯、張っといてっ!」
『はい! 分かりました…』
 鯖味物産へ向う途中、登路は歩きながら母親へ携帯を入れていた。これも、スカッ! とするための無駄がない登路独自の行動計画の一つだった。
 まあ早い話、スカッ! とするには、それなりの準備工作が必要・・ということだろうか。^^

                                


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